異世界転移と精霊と
昔の作品を焼き直ししました。
あぁ、俺は馬鹿だ、本当に馬鹿だ
妹が「ほんと兄貴ってぬけてるよね。ぼーっと生きてるからでしょ。」って言いそうだ。
背中から川に向かって落ちていく俺は下らないことを考えながら、痛いんだろうなとか、あの時気をつけてればとか思っていた。
まさか、土手沿いで桜の写真をスマホで撮って、つい写真を確認しながら振り返ったら自転車が来てバランスを崩してそのまま落ちるとは思わなかったんだ。
そろそろ来るだろう衝撃に目を閉じ身を固めたのだが、なぜだかまだ落ちている。
長くないか?
ーーードサッ
「ん?」
川に落ちると思っていたが、背中は痛くないし、冷たくない。どうも草の生えた所に落ちたみたいだった。
薄っすらと目を開けると高い木が何本も見える。
「桜は?」
あれほど満開だった桜は見当たらなかった。とりあえず身体を起こして周りを見るが、まるで森の中である。
「ここどこだ?俺死んだ?天国って森なのか・・・」
そんな事を考えていると、どこからか草をかき分けて歩いてくるような音がする。
「誰かいるのか?」
立ち上がってみると、音の正体がわかった。しかも御丁寧にヨダレを垂らしてこちらをロックオンしていた。
「熊、なのか?なんか手多くないか・・・まじか、天国じゃなくて地獄だったのか?」
金縛りにあったように、体は動かない。
出会った熊は2対の手を持っていた、熊は動物園でしかみたことがないけど手は一対だったはずだなんて、頭の中だけが忙しなく動いている。
ピー、ピー、ピー、ピー
一度だけ聞いたことがある電子音が響く、
(これはスマホの緊急発信したときの音だ。一回落として鳴らしたことがあるんだ。)
よく考えるとスマホがどこにあるのか動転していて覚えていないことに気づいて、熊をこれ以上刺激できないから止めようと周りを見渡すが、どこにも見つからない。
(やばい、やばい、やばい)
突然、頭が押さえ込まれて顔から草に突っ込む。
「っぷ、なに」
「伏せておれ。」
男性にしては高く、女性にしては低いそんなジェンダーレスな声が頭上から聞こえた。
そしてゴウっという音と圧を感じたあと、熊のだろう甲高い悲鳴と木の倒れる音が聞こえた。
「もう、顔を上げていい。」
顔を上げた先に見えたのは、熊だった何かだ。上半身が存在していない。それに見えた景色もなんだか変わっていた。
「っう」
気持ち悪くなってその場で戻してしまった。
(なんだあれは・・・昼ごはん前で良かった、のか?)
声をかけてきた誰かは落ち着くまで待ってくれていた。
「これで口をゆすぐとよい。あと濡れた布で顔を拭いたほうがよいぞ。ひどい顔をしておるゆえ。」
竹のような器に入ってる水で口をゆすいで、渡された布ですべての穴からでた水で汚れた顔を拭いてすっきりした。
あらためて、助けてくれた人を見る。
「・・・ありがとう・・・ございます。」
助けてくれた人の存在感が圧倒すぎて、お礼を言うのがぎこちなくなる。
目の前に綺麗な男性?がいた。それも目を覆いたくなるくらいに綺麗な。
それに、耳が尖ってて、緑色の目で、帽子から微かにみえる髪は金色?それで肌は透き通るように白い。ってくるとあれだよな・・・。
ただ、服が違和感がすごい。いや、俺が日本人だからそう感じるのである。
なんで、平安貴族風な格好なんだ?いやこれで男ってわかったけど。え〜とたしか直衣だっけなんかそんなやつ。
「で、ここでなにをしておった?」
結構な時間、顔を凝視していたのに何もきかずに話を進めてきた。まぁ、ここまで綺麗なら見られ慣れてそうだけど。
「なんでここにいるのか分からない。」
「嘘をつけ!ここをどこだと思っている!」
そう言った俺に、綺麗な男の側で控えていた如何も武士な格好の男が怒鳴りつけてくる。
第一印象は、次はこうきたかだ。やっぱり顔は整ってるけど隣が異常なイケメンだと普通に見えるんだな。
とはいえ、あんな変な熊が出てくるような所は知らない。あんな熊が出たらSNSでバズってるだろ。
「どこですか?」
「青木ヶ原だ」
「青木ヶ原!?まじかっ」
「やはり知っているのに嘘をついていたな!宮様、この者どういたしますか?」
「やっ、ちがっ・・・うぐっ」
反論しようとすると、頭を押さえられて地面に押しつけられた。
「いやまて・・・、手を離すがよい。」
宮様と呼ばれた男に顎を掴まれ顔を上げられる。エメラルドのような輝きを放つ目とあって思わず見つめあってしまった。男なんだろうけど本当に綺麗だ・・・いやその気はないけれど。
「髪は茶色いが根本は黒い?目は黒・・・サクラに似ておる。たしか、ブリーチだかなんだか言っておった気がする。お主はニホンとういう処から来たのか?」
「えっ、は、はいそうです。日本です東京です。」
「トウキョウは知らぬが、サクラはサイタマから来たとか言うておった。」
「埼玉、埼玉は割と近くです。」
「そうか、サクラの同郷のものか・・・」
そう言って考え込む宮様はふと立ち上がり、踵を返して歩き始めた。
「その物を連れて来るがよい。久しぶりの異界からの客人のようだ。」
先ほどとは違って優しく脇に手を入れて、先ほど頭を押さえた男が起き上がらせてくれた。
「失礼致しました。ご無礼をお許し下さい。異界より来られた客人殿、私はケビイシのベットウなるものです。どうぞお見知りおきを。」
ベットウさんなんて不思議な名前だなと思いながら、服についた泥を落としふと違和感を感じた。
「あれっ、スマホが無い。どこに落としたかな。」
「スマホとは・・・」
「えっとこれくらいの長方形で薄くて黒いやつなんですが。」
手でサイズを示しながら、スマホの説明をして近くにいる数人にも声を掛けてくれて探したが見つからなかった。
「んあぁまじか・・・まだ変えたばかりだったのに。」
変えたばかりのスマホを無くてガックリきたが、もしかすると此処へ来たときに無くしたのかもしれなかった。でも、あの時の音は覚えがあるんだけどなぁ。
読んでいただきありがとうございます。