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第3話 勇者はコイが煩わしい

お読みいただきありがとうございます。

 俺は思う。人間やその亜種は、言語という意思疎通の手段を手に入れた対価として、心から通じ合える『何か』を失ったのではないか、と。


 女とはよく分からん生き物だ。

 つい先ほどまでくだらないことで笑い合っていたというのに、気が付けば機嫌が悪くなっていたり、泣いていたりする。

 同じ人間なのに、あるいは同じ人間だからこそなのか、まるで分かり合える気がしない。

 

 あの魔王とて例外ではない。

 俺はアイツが考えていることなど理解できないし、その逆も然りだろう。

  

 つまるところ、俺がこの思索から導き出した結論はこうだ。


 考えるだけ時間と脳ミソの無駄遣いである。




 ――一人になるとつい考え込んでしまう。俺が自覚している悪い癖の一つだ。

 せっかくの休日だというのに、こうも賢者の如く世の理を追い求めていては休んだ気にならない。


 それもこれも、全てあの魔王のせいだろう。

 勇者拉致監禁事件から一週間ほど経ったが、あれ以来一切の動きという動きもなく、なぜ馬鹿呼ばわりされたのかも分からないままだ。

 腑に落ちないことだらけではあるのだが、考えたところで炭水化物を浪費するだけに過ぎない。




 ――今日は天気がいい。釣りにでも行こうか。




-----


 俺にはお気に入りの湖がある。

 人が近寄らず、自然豊かで淀みのない空気、そして、陽の光を反射してダイヤのように輝く水面。

 十メートルはあるかという水底の岩がはっきりと見えるほどに透き通っている。

 湖に浮かぶ大きな花は、さながら空中浮遊でもしているようだ。


「勇者さま、今日も釣りですか?」


 ついでに、仲良くなった水精霊が少々。


「まあな。ディーネも相変わらず綺麗な体してんな」

「水の精霊ですから」


 姿形は人間に似せているが、光が当たると若干透けて見える。これはこれで良きかな……。


 こんなスローライフ的なものも、存外悪くないと思う。

 前世で社会と人間の荒波にのまれ、精神と澄んだ少年のような心とついでに心臓をザックリ持っていかれた俺には最高の癒しだ。

 俺は世界よりも、むしろこの場所を護るべく戦っていると言っても過言ではない。

 いっそ、勇者を引退してここで暮らすというのも一考に値する。


「勇者様が護ってくださるおかげで、私も安心して暮らせます」

「そりゃよかった」

「はい!」


 こんななくても変わらないような会話だが、それでいい。

 ディーネが水の精霊だからなのか、相性というヤツなのか、ディーネとの沈黙は妙に落ち着く。

 正直、魔王(アレ)より良いとも思う。

 …………。


「勇者さま? どうかなさいました?」


 いかん。今日は釣りを満喫すると決めたのだから、魔王のことは頭の隅の隅の隅の隅に置いておこう。

 ――魔王は、俺の心をやたらに搔き乱してくれる。

 まあ、それ以上に自分で自分のことを振り回しているようにも見えるから、きっと馬鹿なのだろう。


 どうか、今日この時間だけは誰にも邪魔されませんように。


ディーネはもう一人さんとは文字通り別物です。

次話もよろしくお願いいたします。

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