第3話 魔王のコイ?煩い
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あれから幾日が過ぎただろう。
自室に籠り、何をするでもなく、ただひたすらに勇者の顔を脳裏に描いては、胸を焦がすような思いを繰り返していた。
勇者は私のことを"嫌いではない"と言った。
勇者と魔王は相反するものだ。単に負けた雌が強い雄を欲しているだけで、勇者は私のことなど敵としか思っていないのだと、心のどこかで思っていた。
私はそれで良かったのだ。ただ強い者に、勇者に支配されたいだけだった。
人間は『恋』をするという。
文化も、種族も、時には性別をも超えて互いを想い合い、惹かれ合うのだ。
私が勇者に抱いていた感情は『恋』ではないと思っていた。
あくまでこれは生物の本能であり、また支配されたいという欲求も雌にはあって当前のものなのだと。
だが、あの時生まれた感情はそれとは違っていた。
なんと言えばよいのかわからない。
ただ勇者を思い出すだけで、切なくなるような、なのにどこか満たされるような。
勇者に会いたい。その顔を目に映し、その声を耳に響かせ、今すぐにでもこの気持ちを確かめたい。
勇者に会いたくない。その顔を見た時、その声を聞いた時、どんな顔をすれば良いのだろう。どんな言葉を返せば良いのだろう。
もしこれが『恋』だというのなら、私はどうすれば、この感情を我が物とできるのだろうか――。
「それはもう、ヤるしかないでしょぉ」
なッ――
「ヴィーネ?! いっ、いつからそこに……」
まさか、声に出ていたのか――
「そうですねぇ……。魔王さまが下腹部のあたりをモゾモゾしていたあたり、からでしょうかー」
「モゾモゾなどしていない! これはっ……そう! 痒かったから掻いていただけだ」
「へえぇー? 痒かっただけ、ですかぁ……。へー」
コイツ……ッ!
ヴィーネはいつもそうだ。幼い頃から、何かしらネタを見つけては私を小馬鹿にする。
その人を腹立たせることに特化した性格を一度へし折ってやりたいものだ。
「……何をしにきた」
「秘書官ちゃんが心配のあまり執務室を逆立ちしながら這いずり回ってたんでー、魔王さまをお助けに参りましたー、みたいな」
「いらん。帰るがよい」
今は誰とも話すわけにはいかない。この状態では、いずれボロを出さないとも限らないのだ。
「勇者、好きなんでしょー?」
よし、そこに座れ。その口を開かなくしてやる。
入り口は塞いだ。結界も張った。ヴィーネも縛り付けた。よし。
ヴィーネの腑抜けた声を聞いていたら、良いのか悪いのか落ち着いてしまった。
さてしかし、どうしてくれよう。
「ヴィーネ、どこまで知った?」
「魔王さまがぁ、勇者に愛の告白をされたところまでー」
「——ッ! あっ、愛のこく――! ……などされていない!」
……はずだ。確かに、"嫌いではない"とは言われたが……。
「人間って素直じゃないんですよー? 『嫌いじゃない』はぁ、『好き』なんですってー。つんでれ? とかいうらしいですねぇ」
"つんでれ"、聞いたことがある。
好きな相手に素直になれず、つい冷たい態度を取ってしまうという……。
いやだが、あの勇者がそんな、私のことを好きなどと……!
でももし、万が一そうだとしたら――
「と、いうわけでぇ、今から勇者に会いにいきましょー」
――は?
新キャラは名前が一文字違いですが偶然です。考えるのが面倒とかではないです。
次話もよろしくお願いいたします。




