第1話 鬼畜勇者にオカされました
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勇者に会いたい。勇者に会いたい。勇者に――
日を増すごとに、そんな感情が私を支配する。
これは、雌が強い雄を求める生物の本能なのかもしれない。
この胸の痛みが、勇者の姿を片時も忘れることを許さない。
かつて味わったどんな苦痛よりも辛く耐え難い。
いっそあの時、勇者の刃が心臓を貫いていればよかったのだろうか。
「魔王様、体調が優れないのですか?」
「ああ、いや。少し考え事をしていただけだ」
「左様ですか。ここのところ無理をなさっているように見えます。決して、御身をないがしろになさらぬよう」
「わかっている」
こうでもしなければ自分を保っていられないのだ。
この湧き上がる感情……どうしてくれようか、勇者よ――
ああ、そうか。
会いに行けば良いのか。
「魔力探知」
見つけた。勇者の鼓動――
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「勇者!」
私は恋焦がれたその胸に飛び込んだ。
「なっ――魔王! なんでこんなところに!」
"なぜ"なんて、野暮なことを聞くのだな、勇者は。
「勇者、お前に会いにきたのだ」
「――魔王自ら勇者様を殺しに来たのか! みんな構えろ! ここで魔王を討つ!」
なんだ、勇者のフン共もいたのか。邪魔臭い。
せっかく勇者に会いに来たというのに、邪魔をされては興がそがれるというものだ。
「五月蠅いぞ。虫けらごときが、我と勇者の再会に水を差すな」
「陽炎――」
唱え終えようとした刹那、私の炎術を打ち消すように、凍てつく手に腕を強く握られた。
「やめろ。……お前の狙いは俺だろ。アイツらには手ぇだすな」
勇者は顎でクッと私の後ろにある茂みを差し、私の腕を引く。
これはもしや――私はついにオカされてしまうのだろうか……。
その汚らわしい聖剣を私に突き立て、大事なところをグチュグチュと抉るつもりなのか……!
ああっいけない勇者!まだ心の準備が――
「魔王、さっきのはどういう意味だ?」
……鈍感がすぎるのではないか、勇者よ。
女が男の胸の中で”会いにきた”と言う理由など、一つしかないだろうに。
「そのままの意味だ。我は、勇者――お前に会いたかったから会いにきたのだ。」
「なんで俺に会いたかったんだ?」
「前にも言ったであろう?我は勇者に支配されたいのだ……!だから――」
「じゃあ帰れ。命令だ」
ああっ、冷たいぞ勇者っ……!
「ゆうしゃぁ……そんなこと言わないでくれぇ……」
――勇者の顔が、私のすぐ目前に寄せられる。
俺の目を見ろ、と言わんばかりに。
「主の言うことが聞けないのか」
「――はい」
その意地の悪そうに笑う深淵のような眼に、私は身も心も支配された。
勇者視点と次話もよろしくお願いいたします。




