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プロローグ by勇者

お読みいただきありがとうございます。


 俺は普通の高校生だった。


 それなりに友達もいて、彼女もいて、家族との仲もよくて、そんな平凡極まりない俺に一つ、変わった点を挙げるとすれば――


 それは、ひょんなことから勇者になってしまったことだ。




 ひょんなこと、というのは特に大したことではない。


 突如ヤンデレヒロインよろしくその目に漆黒のハートをした彼女に、それはもう綺麗に研がれた包丁でサクッと刺されるというエロゲのバッドエンドのような体験をした後、神とやらに力の押し売りをされ転生しただけだ。


 そしてたまたま偶然奇遇なことに、召喚陣の上に転生した俺は勇者に担ぎ上げられてしまった。




 そんな少しだけ変わった人生を送っている俺は、魔王と呼ばれる存在と相対したことがある。


 この世界を支配し、全てを蹂躙する絶対的な力の象徴。


 その魔王に、俺は聖剣を突き立てた。




-----


「勇者様! 魔王城が見えてまいりました!」


 今、俺は魔王を倒すべく魔境の地へ歩みを進めている。

 あの日、俺は確かに魔王を一度倒した。

 だが、そう簡単に殺せれば誰も苦労はしない。


 あの時、魔王の胸を貫いた聖剣は、微かにその核を避けていた。


 討ち損ねた魔王を今度こそ倒さなければならない。

 そんな責任感と、なぜか心に残る名残りのようなものを抱え、俺は聖剣を振るった。




---


「待ち侘びていたぞ――勇者よ」


 城の最奥には、この魂こそが世界の中心であると、この地、この風、この目に刻みつけるように一人の魔王が佇んでいた。


「英雄軍に侵されたあの日から、幾度、この時を夢見たことだろうか」


 魔王の紅く鋭い輝きを放つ瞳は、己と対を成す俺という存在を捉えて離さない。


 俺もまた、その強大な影を己が瞳に映す世界の中心に認めながら、瓦礫の道を踏みつける。




「我の胸に治らぬ傷を残した責任、取ってもらおう」


「――望むところだ」




 魔王の胸を見据えながら、強く、大きく跳躍する。

 狙うは――心臓(コア)


 剣先から肉を断つ感覚が伝わってくる。

 俺が握るその刃は、心臓を護る骨も肉も一片として残さず貫く。


 力任せに剣を押し込んだまま、魔王共々倒れ込んだ。




 顔が近い。


 胸が熱い。


 この動悸は、緊張のせいだ。




「ゆうしゃぁ……」




 俺の下にいるのは――女だった。




「——魔王」


「もっと、もっと私を侵して……私の全てを支配してくれ……!」




 心臓が痛い。視界が霞む。


 これはきっと、この魔王()のせいだ――

魔王視点と次話もよろしくお願いいたします。

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