第4話 勇者はヘンタイです。
お読みいただきありがとうございます。
「あら、珍しくお客様がいらしたみたいです」
……お約束すぎて呆れすらしない。なんなら百周くらい高速回転して笑ってしまう。
「すごい魔力ですが――敵意は感じられません」
「ああ、多分顔見知りだ」
「そうでしたか。なら安心ですね。……なんで隠れてるんでしょう?」
「さあな。ほっとけほっとけ」
十中八九魔王だろう。だが、もう一つの気配は知らない――魔王の連れか。
しばらく振りに出てきたと思ったら、今度はストーカーにでも転職したのか。
――ゾッとしねぇ。
まあ、とりあえず放っておこう。俺はゆっくり過ごしたいのだ。
「そいや、今日はアイツいねーのな」
「あの子ならお散歩に行っていますよ。すっかり元気になっちゃって」
「そうか。ま、今日はしばらくここで過ごすつもりだし、多分会えんだろ」
しかし、こう天気がいいと羊も真っ青になって眠ってしまうくらいの睡魔の軍勢が押し寄せてくるようだ。
なにせ今俺が座っている場所は適度に暖かく、ちょうどいい明るさの木陰で風通しも程好い。眠くならない奴なぞ正気を疑う。生物かすら疑う。
趣味に勤しむもいいが、昼寝をするというのも休日の正しい過ごし方というものだ。
活動モードを釣りから昼寝に切り替えた俺は、突如右肩に凄まじい衝撃を感じるとともに湖のど真ん中へ吹き飛ばされた。
冷たく軟らかい水は俺を母のように優しく包み込み、深い眠りへと誘う――。
「ゴボッ!」
いや死んでたまるか。
思わず吐き出した気泡が不発の花火玉のように水面にはじける。
魔法で水を強く蹴り飛ばし地面へ這いあがると、その体に見合わなそうな強い力で引っ張り上げられた。
「あー……さんきゅ」
うっすら湿った鼻が俺の顔に押し付けられる。顔が歪むやめろ。
「まあ、突き飛ばしたのお前だけどな……」
コイツ、この体で人一人ぶっ飛ばしておいてケロッとしてやがる。
さて、このハリケーンでも起こしそうなレベルで尻尾をブンブン振り回している中型犬ちょい大きめくらいの犬っころ、以前この湖の近くで怪我をしていたところを助けてやったのだが、それ以来随分と懐かれてしまった。
ちなみにハリケーンとは比喩ではない。まんまそれだ。
手当てをしようと近づいた時、勇者である俺ですら気を抜けば飛ばされるほどの突風を操って見せたのだ。
「ったく、びしょ濡れじゃねーか……。しゃーない、干すか」
野外で全裸など露出狂もいいところなのだが、この際致し方ない。ここで火の魔法は使うわけにもいかないからな……。
「あのー、私もいるんですがー」
「お前性別ないだろ」
気にするだけ無駄だ。
ああ、素晴らしい解放感だ。
裸族なんて変態の集まりではないか、と思っていたのだが……。なるほど、これはいいものだ。
服とは素晴らしい。暖かいし、様々な機能性もある。ファッションとして扱えば自身のセンスを周囲にアピールすることもできる。
だが、生物とは元より全裸である。服というのは所詮隠しているだけであって、その下は皆全裸なのだ。
身近な犬や猫も全裸で歩き回っているし(服を着せられているものもいるが)、それは生物として何一つおかしいことなどない。むしろ服を着ていない方が生物として正しい姿なのではないか。
身に纏う布を脱ぎ捨てると、背負っていた重荷やストレスも脱ぎ捨てたように感じる。縛られていた心が解放されたように清々しい気分だ。
是非世に知らしめたい。そして皆あるべき姿へ――。
……風が騒がしい。嫌な予感がする。
面白そうな予感がします~。
とディーネさんが申しております。
次話もよろしくお願いいたします。