第八話『侵略の邪魔をしたのは腰痛にゃん』
第八話『侵略の邪魔をしたのは腰痛にゃん』
「なにが原因なのかはちと判らないのにゃるが……、
にゃるたちがここに居を構えてから、
そうさな、二年後ぐらいは経ったあとと思う。
……忌々しくも、この星は戦争の渦中にあったのにゃる。
いやはや、想像を絶する激戦だったのにゃる。
にゃるの母星でも時たまナワバリ争いがあるが、それとはまるで比較にならぬほどに。
ロケットやミサイルが飛び交う中、銃でどんぱち撃ち合っていたり。
かと思えば、古風にも刀でちゃんちゃんばらばらをやり合っていたり。
見回せば、至るところ、死体の山が築かれていたのにゃる。
まさに、まさに地獄さながらの様相。
今想い出してもぞっとするにゃる。
同種族というのに、どうしてこれほどまでに残酷な真似が出来るのか?
理解不能にゃる」
「そんにゃにもひどかったにゃんて。
道理で。ふぅ。ゴーストプラネットにゃんかににゃるのも無理からにゅことにゃ」
「おっそろしくも、嘆かわしい悲劇なのわん。
天空の村があった場所とは到底思えないのわん」
「ボクも喧嘩っ早いほうではあるけどぉ。
そこまでいくと、ううん、ついていけないなぁ」
「天空の村も……。いや、当時の呼び名で『聖なる森』としておこうにゃる。
精霊たちも、これは危ない、と考えたのではあるまいか。
騒乱の中、
聖なる森はウォーレスの大地から切り離され、上空へと浮かんでいったのにゃる」
「戦火から逃れたってわけだね。
そしていつしか天空の村と呼ばれるようになった……か。
ボクが今、ミアン君やミーナ君とこうしてお喋り出来るのも、
全ては神霊様の下した、思いっ切りのいい決断のおかげなんだね」
「にゃあ、カリンにゃん。今の話でちと腑に落ちにゃいことがあるのにゃけれども」
「というと?」
「ここに来てから戦乱になるまでの間にゃ。
カリンにゃん。あんたらは一体にゃにをしていたのにゃん?」
「それよそれ。調査だけで二年もかかるのわん?」
「だとしたら……、気の長い話だねぇ。
まぁ見たところ、君たちもネコみたいだから、
それも、あり、なのかもしれないけどさ」
「疑問はもっともにゃる。
正直なところ、調査自体は一ヶ月も経たないうちに終わったのにゃる」
「にゃら……、こんにゃことをウチがいうのもにゃんにゃのにゃけれどもぉ。
にゃあんで直ぐさま侵略をおっ始めにゃかったのにゃん?」
「それが……ちといいにくいのにゃる」
「ほぉ。いいにくいの? だったら是非とも聴かなくっちゃ。
ねぇ、ミアン君、ミーナ君」
「当然にゃよ」
「他ネコの秘密は蜜の味だもん。聴かないでは済まないのわん」
「お前たちは……まぁいい。ではここだけの話にゃる」
「そうこなくっちゃ」
「ミーにゃん、良かったにゃあ」
「本当本当。有り難いことになったのわん」
「ならば恥をを承知でいうが、……あのぉ……そのぉ……腰痛だ」
「カリン君が?」
「失敬な。こうみえても、にゃるは若いのにゃる。ぴっちぴっち、なのにゃる」
「ぶふっ。ぴっちぴっち、にゃんて。
ずいぶんとまぁ年季の入ったいい回しにゃ。というか、お里が知れた、というか」
「うるさいにゃる。黙れ、にゃる」
「ぶふっ。銀色のお顔が真っ赤っ赤……いや、にゃんでもにゃいにゃんでもにゃい。
にゃら、カリンにゃん。腰痛は誰にゃの?」
「誰なのわん?」
「誰なんだい?」
「それが……恐れ多くもにゃるたちの王、ネンネコ十四世様にゃる」
「王様ねぇ。
でもどうしてそんなエライお方が腰痛なんかになるのさ?
やっぱり、歳のせいとか?」
「それもあるが……、
王という立場上、椅子に座って執務をすることが多いのにゃる。
実は常日頃、運動不足を気にしていらしてな。
『ならば、散歩や駆け足などをされては』と進言したこともあったのだが、
どうしたわけか、王はそういうのが嫌いなのにゃる」
「駆け足が嫌い? 変なネコわん」
「変にゃネコにゃ」
「本当にネコなの?」
「腑に落ちないのは良ぉく判るにゃる。にゃるもそうなのだから。
が、事実は事実。
嫌がるのを無理矢理圧しつけるわけにもいかず、ってことで、
別なモノを次々と進言していったところが」
「なにか心に、ぐっ、とくるものがあったんだね」
「そうにゃる。バーベルにゃる運動具を大層お気に入られてな。
毎日励んでおられたのにゃる」
「バーベルって?]
「鉄棒の両端に重い円盤がくっついた代物、といったところか。
これを両手で頭上高く持ち上げる運動にゃる。
ネコ人型モードで立ってから両手でバーベルを硬く握り締め、
途中ふらつきながらも、最後はしっかと踏ん張って、
『どうだ。持ち上げたぞぉ!』といわんばかりに立つのにゃる。
困難を乗り越えた末に勝ち取った誇り高き姿、と、
王が大変、魅了されてしまったからにゃる。
……しかしにゃがら、今思うに、それが不幸を招いたのにゃる」
「一体なにがあったの?」
「円盤は重さを換えられる。でもって重ければ重いほど、威厳が保たれる。
王はこの考えに固執してしまったのにゃる。
次はこの重さ、その次はこの重さ、と、どんどん重くしていったのにゃる。ところが」
「待って。そこまで聴けば、ボクにだって察しがつくよ。
どんどん重くしていったから、どんどん腰に負担がかかっちゃってさ。
とどのつまりが、がくっ、きちゃったんだ。違うかい?」
「うむ。悲しいかな、その通りにゃる。
『大丈夫。ここが胴長短足の強みにゃ』などと息巻いておられたのにゃるが……、
王でもネコはネコ。身体がついていけず、歳にも勝てなかったのにゃる」
「でもにゃ。すっごいと思うのにゃん。
バーベルをやっているネコの絵面って、一度見てみたいものにゃん」
「にゃるもすっごいと思うのにゃる。
だから、治療を浮ければ直ぐに元通りの健康なお身体に、と思っていたのにゃるが。
一ヶ月経ち、二ヶ月経ち、半年、一年経っても、なかなか治らず。
とどのつまりが、二年近くの歳月を要して、やっとこさ完治したのにゃる。
でも時既に遅し。ウォーレスは戦争に突入していたのにゃる。
戦争は残酷にゃる。企てた『侵略』という野望を潰えさせただけではなく、
にゃるたちが乗ってきた円盤さえも故障させてしまったのだから。
修理が終わったのは、ごくごく最近のことにゃる」
「君たちからすれば、大変な思いをしたわけだ。
で、これからどうするんだい? ガムラ様の霊力でも奪うつもりかい?」
「霊力なんて手に入れてもしょうがないのにゃる。
にゃるらが欲しかったのは星。子をたくさん生める土地にゃる」
「だったら、また星探しに戻るのかい?」
「実は、その必要もなくなった。
母星との回線が繋がったので話をしてみたのにゃる。
理由は不明なのだが……、
どうやら、星探しをしている間に自体は急変したみたいなのにゃる」
「にゃんと。それは大変にゃあ!」
たったったっ。
「大変なのわん!」
ぱたぱたぱた。
「大変だぁ!」
たったったっ。
「これこれ。
やたらと右往左往しているが、なにが起きたのか判っているのにゃるか?」
「いんにゃ、全然」
「右に同じなのわん」
「ボクも」
「……ふぅ。ではいうが、
ネコの誕生率が激減したらしい。
しかも、この状態は今後何百年と続くとの予想まで立っているとのことにゃる」
「にゃら」
「うむ。『新たな星探しは中止』との決定が下されたのにゃる」
「これからどうするのにゃん?」
「むろん、帰還にゃる。星を探し出せなかったのは残念だが、
帰って、いつもの生活に戻れるのは、正直嬉しいにゃる」
「いつもの生活って、どんなことをやってんのさ?」
「まっ。大概は、
『家の縁側でひなたぼっこしにゃがら、いつの間にか、うとうとと居眠り』
というパターンにゃる」
「にゃんと。それそれそれにゃん。それこそが最高の至福の時にゃん」
「おぉっ。素晴らしいにゃる。この辺境の地にて、理解し合えるネコに巡り合えるとは」
「辺境にゃろうがどこにゃろうが、本物のネコにゃら誰でも知っている幸せにゃん」
「お前は友にゃる!」
「あんたにゃって友にゃん!」
ひしっ。
「やれやれ。意気投合して抱き合ったのわん」
「ふふっ。いかにもミアン君らしいね」
「にゃら、また遊びに来るのにゃよぉ」
「うむ。必ず侵略に来るのにゃる」
「うんにゃ。いつでも待っているからにゃあ」
ごごごごぉっ!
「帰っていくね……」
「うん。中は真っ黒。でもって外は透明っていう不思議な円盤が去っていくのわん」
「最後の会話はどうにも食い違っていたけどなぁ。
まぁいいや。みんな無事だったから。
ねぇ、ミーナ君。これもやっぱりハッピーエンドなのかなぁ?」
「ラストの意気投合で、アタシたちが除け者にされた以外はね。
ううっ。今想い出しても、とぉっても悔しいのわん」