第七十四話『メカもん精霊登場にゃん』
第七十四話『メカもん精霊登場にゃん』
「まぁまぁ。ミリアん、そんなに焦らなくてもいいわん。
さてと。冗談はこのくらいにして」
「そうですよね。冗談ですよね。
やれやれ。ほっ、としました」
「あんたらにゃあ」
「つめ込みすぎ。アタシはそう睨んでいるのわん。
庫内にぎゅうぎゅうづめの状態だった食材の数々。
残念ながら、
これらを料理するだけのキャパシティがオーブンにはなかったのわん。
食材の中身は多種多様、
ありとあらゆるモノが入り混じっていた、っていうから、
それらのどれかがオーブンの料理に敏感に反応した、っていうのは、
十二分にあり得る話。
それで高熱化したり膨張したりした挙句が、
ぼっがあぁん!
庫内内部にかけられた圧力がオーブンのドアを、
ううん、それだけじゃないわん。
料理の一部すらも、吹っ飛ばすだけの力を生み出したってわけ。
ミロネんのあのざまも、かたわらにドアがあったのも、
これで全てつじつまが合うわん」
「にゃあるほどにゃあ。素晴らしい『読み』にゃん」
「ボクだって、ならオーブンが壊れるも無理はないや、と思うお説だね」
「とはいえ、折角復活させたのでありますから。
やっぱり使わせたのは失敗だったかも知れませんです」
「後悔先に立たず、ですよ。ミムカさん。
くよくよなんてしないで私と同好会でも造りませんか?」
「ミリア。さっき、三十倍の無気力波を浴びたばっかりじゃない。
少しはこりなさい。
それはそうと。
確かにこの状況を鑑みれば、
ミーナの推理通り、といえなくもないわね」
「いいえ、違います」
「だ、誰なのわん?
アタシの迷推理を言下に否定するのは」
「やっぱ名推理じゃにゃくて、迷推理にゃったん」
「うっさいわん!」
「いっておくけど、ボクじゃないからね。
ミロネ君……でもなさそう。まだおネムのままだし」
「わたくしめです」
もくもくもく。
「誰にゃん! 黒煙のようにゃあんたは!」
「誰?
そうですね。
オーブンに宿った、名もないメカもん精霊、とでも考えて頂ければ」
「メカもん精霊にゃとぉ!」
「驚くにはあたりません。
精霊を生み出すのは、
なにも自然界にかぎられた話ではないのです。
命ある者の手で造られし個体であろうとも、
宿す力は秘められています。
条件さえ揃えば、精霊は生まれるのですよ」
「にゃらあんたが」
「ええ。
はるか、ずぅぅっ、と大昔のこと。
わたくしめを購入してからというもの、
奥さまは一日足りとも使わずにいることはありませんでした。
毎日毎日、ご主人さまのため、ご子息さまのため、ご息女さまのため、
美味しいお料理を作り続けていたのです。
そしてある日のこと。
いつものように温度と時間を設定。開始のボタンを押したのです。
『美味しいものを食べさせてあげたい』
その一途で。しかしながら、
そんな、ほんのささやかな願いでさえも叶えられはしませんでした」
「にゃんで?」
「理由は判りません。
わたくしめのドアが開かれることは二度となかったのです。
わたくしめ自身も無事ではありませんでした。
テーブルや椅子はおろか、家の天井や壁までもが、
ワタシを押し潰さんとばかりに倒れてきたのですから。
倒壊した家の中で最後にわたくしめが目にしたのは、
……廃墟でした。
命あるものの気配が全くない、がれきに埋もれた世界だったのです」
「最後に、ってことは」
「命が途絶えた。わたくしめ自身そう思っていました。
しかしながら、間違いでした。わたくしめは目覚めたのです。
見たこともない部屋の一角で。
自分と同じような古びたモノの中に居たのです。
驚いたことに、
不完全とはいえ、わたくしめには修理が施されているではありませんか。
なるほど、と思いました。
恐らく、わたしめは半死に近い状態だったのでしょう。
それが、『個体の修復』などという奇跡を与えられたことで、
自我の意識が持てるまでに回復した。
だからこそ、今こうして目覚められたのに違いない。
真実かどうか定かではありません。
が、これが私の辿り着いた答えなのです」
「そんにゃことがあったのにゃん。
多分、にゃのにゃけれども、意識を失っている間、にゃろうにゃあ。
惑星ウォーレスから『死の灰』とともに、天空の村へと運ばれてきたのは」
「厳しい生い立ち、いや、復活までの歩みであったことは判ったわん。
でもね。さっきアタシが喋った推理のどこが間違っているのか、
それをまだ聴かせてもらってはいないのわん」
「では、お話しましょう。
そもそもオーブンとは料理をしてくれる『メカもん』ではないのですよ」
「えっ。だって古書にそう書いてあったって。
『名なし』だって喋ったじゃない。
奥さまは美味しいお料理を作り続けたって」
「大ざっぱにいえば、そういういい方にもなるのですが……。
オーブンとは、早い話が、焼くために使われる『メカもん』なのですよ」
「焼くため? ってことは」
「ええ。必要な下ごしらえは、
わたくしめに入れるまでにしておかなければならないのです。
あなた方のなさったように、ただぶち込むだけではダメなのです。
ご自分の作りたいお料理を、
『あとは焼くだけ』のところまで準備しておかなければなりませんし、
焼くものが、
わたくしめのキャパシティに見合ったものでなければなりません。
『美味しいお料理を造る』というのは、言葉ほど簡単ではないのですよ」
「なぁんだ。そうだったの。これっぽっちも知らなかったわん」
「思いっ切り考え違いをしていたのにゃん」
「そうかぁ。まぁいわれてみれば簡単じゃないかもなぁ」
「なぁんか恥ずかしいわ。そんなことも判らなかった自分が」
「ミムカも顔が真赤になってしまいましたですよぉ」
「不思議ですねぇ。私は恥ずかしいともなんとも思いませんよ。
どうしてですかねぇ」
「厚顔無恥だから、じゃないかしら」
「いいすぎだぞ、ミスト殿。
『物事に動じない』『肝が据わっている』
なっ。そんなところでいいじゃないか」
『ミロネにゃん!』
《にゃにもべとべとにゃままで、とのぼやきを胸に、つづくのにゃん》




