第六十四話『ミリアにゃんが大いに不満にゃん』
第六十四話『ミリアにゃんが大いに不満にゃん』
「どぉ? ミアン。アタシたちの布陣は?」
「布陣って、ウチの背中にミーにゃんが乗っかっているにゃけじゃにゃい」
「騎ネコ戦だもん。
ネコ型妖体の背中に翅人型妖体が乗る格好となるのは自然なのわん」
「逆でもいいにゃん」
「ダメ。想像しただけで、お笑いになってしまったのわん」
「お笑いでもいいにゃん。
要は、『料理完了』までの長くて短い時の流れを、
夢中で過ごせさえすれば、それでいいのにゃん」
「それはそうなんだけどさぁ」
「ミーにゃんとしては、やっぱ戦いに固執したいのにゃん?」
「うん。戦うヒロイン、となってみたいのわん。
騎ネコ戦を選んだのも勝つ自信があるからなのわん。
だってそうじゃない。アタシとミアンなら、
親友同士、ううん、家族同士という最強の布陣なのわん。
これに勝るものはないのわん。
戦って戦って戦い抜いて、
『四時間』という長丁場を乗り切ってみせるわん!」
「すっごい意気込みにゃん。
にゃのに水を差すようで、はにゃはにゃ申しわけにゃいのにゃけれども」
「うん?」
「時間のつまみを見たらにゃ。どうやら四時間もにゃいみたいにゃのにゃん」
「えっ。そうなの?」
「右側のほうの数字部分がはがれているもんでにゃ。
しかとは判らにゃいのにゃけれども……。
目盛の『ちょんちょん』と、左側のほうに残っている数字から察するに、
三十分ぐらいみたいにゃのにゃん」
「ひぃっ! 四時間だったのが、たった三十分?
困るわん。この土壇場でそんな無理難題を突きつけられても。
三十分なんて途方もなく短い時間に、
どうやったらヒロインの勇姿を見せつけられるというのわん?
知っているなら直ぐにでも教えて欲しいわん」
「ミーにゃん」
にこっ。
「なに笑っているのわん?」
「微笑みかけているのにゃよ。
この天使のようにゃネコスマイルに抗える者にゃど誰も居にゃいのにゃん。
どうにゃん? ミーにゃんも興奮は収まったにゃろう?」
「あのね……。
みんな、あきれてものもいえなくなっただけと思うのわん」
「にゃめろんはミーにゃんが持っているのにゃん」
「当ったり前なのわん。
ヒロインが愛ネコを駆使して襲いかかる敵どもを突破。
めでたくゴールインとなるのわん。
懸賞品のにゃめろんはミアンに捧げたっていいのわん」
「いらにゃい」
「あれっ? グルメを自認するミアンにしては珍しいわん。
一体どうしてなの?」
「にゃめろんは確かに美味しい果物にゃん。
でもにゃ。果物園にさえ行けば、年柄年中、売るほどあるのにゃん」
「ミアン。それをいったらおしまいなのわん」
「にゃあミーにゃん。
敵ども、とはいってもにゃ。ウチらを除けば、二組にゃけにゃん。
ほら。ミクリにゃんの背中にはミムカにゃんが乗っているのにゃん」
「なぁんかとぉっても手強そうな感じがするわん」
「にゃら、『強敵組』とでも名づけたらどうにゃん?」
「うん。ぴったりなネーミングなのわん。
それで、もう一組は、と」
きょろ。
「あっ、ミリアんの背中にはミストんが乗っているわん」
「こっちは、とぉってもブキミにゃ気がするのにゃん」
「だったら、『ブキミ組』と命名したらいいのわん」
「ミーにゃん。ウチらは『可愛い組』にしようにゃん」
「うん。これまたぴったりなのわん」
「そういえば、ミロネにゃんは?」
「危なそうだから、自分はオーブンを監視するんだって。
なにかあったら、大至急こっちに知らせてくれるみたいなのわん」
「にゃあるほど。にゃんといっても保守空間のお務めにゃもんにゃ。
まさに適材適所にゃん」
「ぐすん。どうして私が乗り手じゃいけないのです?」
「あのね、ミリア。それはあなたがネコだからよ」
「念のためにいっておきますけど、私は走りませんからね。
走ったら、こけるに決まっています。
知っていますかぁ? こけたら痛いんですよぉ。
ついこの前もですね。
ええと、下り坂でしたか、滑って転んですってんころりん。
身体はおろか、顔までも思いっ切り、
ずずずぅっ、とやってしまいましたからねぇ。
もうこりごりですよ」
「痛覚を切る、っていうのはどうかしら?
痛みなんて感じなくなるわよ。なんといってもわたしたちは霊体なんだし。
傷ついた身体だってリフレッシュさせればそれで済む話じゃない」
「ダメです。
自分に、『傷ついた』という自覚を持たさないかぎり、
いつまでたっても、こけっ放しのまま。
とてもじゃないですけど、ネコ型としての成長なんて見込めません」
「まっ。それも一理あるわね」
「私としてはもう二度と、いえ、三度と、いえ、四度と……。
ねぇ、ミストさん。私って今までに何度ぐらい、ずっこけましたっけ?」
「さぁね。聴かれても答えようがないわ。
あなたのそばに年柄年中、居るわけでもなし」
「冷たいじゃないですか。『友だち同士』ですよね? 私とミストさんって」
「だったら妄想も、わけの判んない勧誘もやめてくれない?
『友だち』なのよね?
迷惑をかけるのはもうおしまい。いいわね」
「うっ……それはそれ、これはこれです。
私から妄想をとったら、なにが残るというのです?
私は私でありたい。私として生きたいのです。
ミストさんなら判ってくださいますよね?
『友だち』なんですから」
「あら。意外に粘るわね。必死ね。
顔をドアップにして迫っているし、私の両手を自分の両手で挟んでいるし。
でも、息を吹きかけられるほど近い、っていうのはどうかしら?
私、女の子同士でその気はないのだけど」
「うわっ」
「おや? 慌ててあとずさりしたわね」
「す、済みません。興奮しすぎたみたいで気がつきませんでした」
「まぁいいけどね。
それで? ずっこけた回数は想い出したの?」
「へっ?
……そうです。その話をしていたんですよ」
「忘れていたのね。本当、やれやれな子だわ」
「うっ……とにかくっ、もうあんな目には遭いたくはないのですよ。
だから間違っても走らせてはなりません。
同じところに留まって、
相手が来るのを、じぃっ、と固唾を呑んで待っているのです。
いいですね。判りましたね。ミストさん」
「うっさい子ねぇ。これじゃあ勝負もなにもありゃしない」
「専守防衛も立派な一つの戦い方です。
どっちみち私が動かなければ、『はい、それまでよ』じゃないですか。
ちょっとでも騎ネコ戦を楽しみたいのであれば、
ここは私の希望を素直に受け入れるべきですよ。
ねっ、そうしませんか?」
「だから迫ってこないで」
「ミストさん!」
「……ふぅ。負けたわ、ミリア」
《専守防衛に熱くにゃる友にゃちを横目に、つづくのにゃん》




