第四十五話『失敗にゃってあるのにゃん』
第四十五話『失敗にゃってあるのにゃん』
「うははっ。こいつは笑わせるでやんす。
いやね。この患者さんったら、
『当分の間、思うように食べられなくなりそうだからさ。
ここぞとばかりに食いまくっていたよ。あははっ』
なぁんて入院日に大笑い。
聴けば、そりゃもう朝から晩まで食い続けたとか。
実際、身体を見れば、今ほどではないにせよ、
この写真とは段違いの大太りの姿になっていたのでやんすよ。
それを半分までやせさせたんですから、
感謝感激雨あられ、というのが本当じゃないんでやんすかねぇ」
「うっ。
……で、でもぉ。証拠が、証拠があるのわん?
この写真よりも太ってしまったという証拠が?
ううん、それよりもなによりも、
退院直後は半分になったという証拠が?」
「はて?
治療はとぉっくに終わっているのでやんすよ。
患者さんだってお前さまも目にしている通り、
退院直後の原型を留めないほどのお身体になってしまっているのでやんす。
なのに今更どんな証拠を示せと?」
「写真よ。写真。今、アタシが見せたような」
「だからさっきも聴いたじゃありやせんか。
この天空の村にカメラがあるのか、って」
「ううっ。なんてちょこざいないいわけを。
だったら、だったらぁ……。
そうよ。被害者よ。
元々このおばさんネコが、『被害に遭った』って、
アタシんところに駆け込んできたから、それで。
ねっ、おばさん」
「あれまっ。なんか逆なようなぁ……。
『なんか面白い事件はないわん?』
って聴かれたから、のような気がするんだけどねぇ」
「き、気のせいわん」
「そうかねぇ」
「とぉにかく。
アタシがおばさんから被害の件を聴いたのは間違いないわん」
「何分あん時は、夢中で木の実をほお張っていたもんだからねぇ。
自分でもなにをいったのかさっぱりなのさ。
あはは。笑っちゃうだろう? あはは」
「あはは、じゃないわん!
調査の発端は、おばさんの言葉なのわん。
それがあやふやなら、どんなに調べようと、
結果もまた、あやふやなものになってしまうのわん」
「そうかい。そりゃ済まなかったねぇ。あはは」
「だったら、なんのためについてきたのわん?」
「そうさねぇ。ひまつぶし、ってとこかねぇ」
「ダメ。アウトわん」
がっくり。
「もうどうしようもないわん。手がつけられないのわん」
「お話の途中で大変申しわけありやせんが……。
それで、どうなんでやんす? 証拠とやらは示して頂けるんでやんすか?」
「それはぁ……く、くっそぉ。最後のつめが甘かったのわん。
ええいっ、しょうがない。今回はアタシの負けと認めてあげるわん。
でもね。これで終わったと思ったら大間違い。
いつか必ず、お前のの罪を暴いてやるから。
首でも洗って覚悟しているがいいわん!」
ぱたぱたぱた。
「おぅおぅ。捨てゼリフだけは一丁前でやんすね。
ではまたいつの日か。へぼ探偵さまぁ」
くるっ。
「こらぁっ! アタシはミーナ。
迷探偵ミーナなのわあぁん!」
くるっ。
ぱたぱたぱた。
のっしのっし。
「おぉい。おばさんネコのわたしを置いていかないでおくれよぉ」
ぴたっ。
「あっ、うっかりしていたのわん。
おばさん。帰りも念動霊波を使って送っていってあげるわん」
「ありがたいねぇ。助かるよ。
それにしても、あんたの念動霊波って安定しているよねぇ。
ついおネムしてしまうくらい、安心だよ」
「当然なのわん。
いつも親友を起こさないように気を遣って家まで運んでいるんだもん」
「やれやれ。とんだネコ騒がせな」
「おい」
「と、後ろからあっしの肩に手を乗せたお前さんは誰でやんすか?」
「見ての通り、翅人型妖体の幼児だ」
「これはこれは。お子さまがあっしになにかご用で?」
「あるからここに居る。
村に棲んでいるなら、『保守空間』というのを聴いたことがあるだろう?」
「ま、まさかぁ」
「オレは保守空間マザーミロネの影霊ミロネだ。
聴けば無免許で薬を使った治療を施しているそうだな。
詳しく聴きたいから一緒に来てもらおうか」
「ひぃっ! あ、あんたがぁっ!」
くるっ。たったっ!
がしっ。
「待て」
「ひぃっ!」
ぴたっ。
「もう一度いう。オレは保守空間の影霊だ。
天空の村の保守管理が我らの使命。
逃げれば、今この場でマザーの裁可が下される。
有無をいわさず、『処刑』という名の裁可が貴殿の身に下される。
それでも構わないというなら]
ぱっ。
「ほら、手を離した。あとは好きにするがいい」
「あああぁぁぁっ!」
ぺたん。
「あ、あっしは……」
「案ずるな。要するに逃げなければ良いのだ。
こちらでも調べてみたが、貴殿の評価はすこぶる高い。
苦情もあるにはあるが、
そのほとんどが誤解や思い込みに依るもの、との見解で我らは一致している。
ここはおとなしくついてきたほうが賢明だ。
薬園での薬の取り扱いは極めてかぎられた者にしか認められていない。
もっとも貴殿もそれを知っているから、こうして秘密裏にやっているのだろうが。
確約こそ出来ないものの、
事情次第では薬園の長にマザーが口添えをすることも検討している。
『免許をやってはもらえまいか?』とな。
どうだ? 悪い話ではないと思うが」
「マザーミロネ様がぁ」
がばっ。
「ははぁっ。仰せのままにぃ」
ふかぶかぁっ。
「ひれ伏すとは、いささか大げさだな。
では行こうか、薬師メディス殿」
「は、はい! でやんす」
「ミーにゃん」
「なにわん?
さっきからどんなに喋っても、ぜぇんぜぇん口を利こうとしなかった癖に。
一体なにがいいたいのわん?」
「ミーにゃん。ウチも一緒についていくから、
明日ふたりで薬師メディスにゃんのところへ謝りに行こうにゃん」
「えっ。……でもぉ」
「自分のアヤマチを素直に認めるのも一つの勇気と思うのにゃん。
そしてその勇気をミーにゃんは持ち合わせている。ウチはそう信じているのにゃん」
「ミアン……。うん。明日、行くわん。頭を下げに」




