第四話『栄えある作品のタイトル。それはにゃあ!』
第四話『栄えある作品のタイトル。それはにゃあ!』
「ミーにゃんミーにゃん」
「どうしたの? イオラの木の枝の上でうずくまっちゃったりして。
あっ。ひょっとして、どっかに引っかかっちゃったとか?
だったら、実体波を解除すれば」
「違うのにゃん。にゃあ、コロンにゃん」
「うん。あたしちゃんとね。お喋りしていたのん」
「えっ、コロンが? そうなの? ふぅぅん。珍しいこともあるもんなのわん。
イオラの花たちの中では珍しく無口なのにぃ。
普段はいくら話しかけても、うん、とか、そうね、ぐらいしか喋らないのにぃ。
一体どうした風の吹き回しなのわん?」
「それがねぇ。とぉっても面白くて。気がついたら、こうして喋っていたのん」
「へぇぇ。閉じた貝を開くような面白いことをねぇ」
「ミーにゃん、貝ってにゃんにゃの?」
「イオラから聴いた話に依るとね。なんでも海辺の砂浜に潜っているんだって。
身体を硬い殻で覆っている生き物らしいのわん」
「にゃんでイオラにゃんがそんにゃことを知っているのにゃん?」
「天空の村がまだ惑星ウォーレスの大地とくっついていた頃の話だから、
うぅぅん、と大昔だとは思うんだけどぉ。
村の直ぐ目の前が海だったみたいなの。なもんで、『潮干狩り』と称して砂を掘って貝を採る生き物の姿を……人間たちも含めてね。
もうそれは数えきれないくらい目にしたそうなの」
「そんにゃもん採ってどうするのにゃん?」
「食べられるんだってさ。貝の種類に依っては結構美味しいらしいのわん」
「にゃんと! これは聴き捨てにゃらにゅことを聴いてしまったのにゃん」
「ぷふっ。ぷふふふっ。今の聴いた? ミーナお姉ちん。
ミアンお姉ちんったら、『聞き捨てならないことを聴いた』のん。ぷふっ」
「……コロンったらぁっ。そんなに面白いわん?」
「うん!」
「なんか……とぉんでもない妹に生まれ変わったような気がするのわん」
「しまったぁのん。あたしちゃん、貝になりたいのん」
「ウチはアホににゃりたい」
「大丈夫。今ならどっちもなれるわん」
「ミーにゃん、これこの通り」
ぱんぱん。
「後生にゃ。イオラにゃんに頼んで貝とやらを採ってきてはもらえにゃいにゃろうか?」
「ふぅ。こっちはこっちで大変だし……。
前足を合わせて拝まれてもねぇ。
今もいったように、大昔の話なのわん。イオラがどんなに頑張っても」
「そこをにゃんとか」
「ミアン、諦めるのわん。どうあがいても過去になんて飛べやしないのわん」
「あのにゃ」
「なにわん?」
「百歩譲ってにゃ。一個だけでもいいのにゃよ」
「あのね……。
どっこの世界に貝一個が欲しくて、過去に飛ぶ者がおるのわん!」
「ぷははっ。キレてるのん。
ミーにゃんお姉ちんも、ミアンお姉ちんに負けず劣らず面白いのん」
「こらぁっ! コロン! 年上を笑ってはいけないのわあぁん!」
「ぷははっ。年下に笑われるような年上ではいけないのわあぁん! ぷはっ」
ぼぉぉぜん。
「あんなに無口な妹だったのにぃ。
へ理屈ばかりか、口真似までやらかすようになってしまったのわん」
「ミーにゃん。生き物はみにゃ成長するのにゃん。花もまた然りにゃん」
「いくらなんでも変わりすぎなのわん。
……そういえば、コロンがこうなったのって、ミアンのせいだったはず。
ねぇ、ミアン。どんなことをしたら、コロンは面白がったの?
アタシも見てみたいのわん」
「ミーナお姉ちんったら、最高! そうこなくっちゃのん。
ねぇ、ミアンお姉ちん。さっきの、やってやってのん」
「あのにゃあ。コロンにゃん。
にゃあんか勘違いをしているみたいにゃのにゃけれども。
あれは面白いんじゃにゃいんよ。
みめ麗しき作品像にゃから、『感動した』が正しいのにゃん」
「でも、面白かったのん」
「あのにゃあ」
「すとぉぉっぷ!
これじゃあ、いくら話してもらちがあかないのわん。
ミアン。四の五のいわず、さっさとやるがいいわん。
でないと、……アタシ、マジでキレるのわん」
「ミーにゃん。おどかしっこはにゃしにゃん」
「おどかしっこじゃないわん。本気なのわん」
「ぶふっ。ミーにゃんたら、妹の前で意固地ににゃっているのにゃ」
「うん? なにかいったのわん?」
「いんにゃ。にゃんでも。
ふぅ。こうにゃったら、しょうがにゃい。
ふたりとも。それぞれの目ん玉で良ぉく鑑賞するのにゃよ」
「いうに及ばずなのわん」
じろじろっ。
「コロンもですのん」
じろじろっ。
「にゃら始めるのにゃよぉっ!」
つむりっ。
「おや? 目を瞑ったのわん」
「うわぁい! これこれぇっ! ぷはははっ!
ミアンお姉ちんったら、最高っ!」
「なんかコロンがずいぶんとはしゃいでいるわけどぉ。
ふぅぅむ。目を瞑った以外には、なぁんにも変化がないのわん。
ミアン。これはどういうことなのわん?」
「さっきいったじゃにゃいの。ウチは今、みめ麗しき作品像にゃんよ」
「ミアンが、みめ麗しき作品像?
それで? 作品のタイトルはなんなのわん?」
「じゃっじゃじゃあぁん!
ついに発表の時がきたのにゃん」
「いよっ。ミアンお姉ちん、待ってましたのん」
「栄えある作品のタイトル。それはにゃあ!」
『「眠れる森の美女」にゃん!』
「あ……あのぉ……」
がっくり。
「ふぅ。喋る気力も失せたのわん……。
自分を支えるなにかが、木っ端微塵に砕かれてしまったのわん」
「ぷははっ。ミアンお姉ちんもミーナお姉ちんも最高のん!」
「なんでこんなもんをコロンが喜んでいるのわん?
ふぅ。もうツッコミをする自信すらなくなってきたのわん。
あぁあ。アタシも貝になりたいのわん」