第百八十六話『多数決に嘆くミリアにゃん』
第百八十六話『多数決に嘆くミリアにゃん』
「誰かがワタシとは真逆な提案をしたら、
まるで子ネコたちが親ネコにでも甘えるかの如く、
次から次へと手を挙げて、
『はいはい』
『あたしもあたしも』
はぁ。思い知らされましたよ。『正しい』は『正しくない』って」
「ちにゃみにどんにゃ提案をしたのにゃん?」
「ご存じの通り、これまではごくごく普通に、
同好会並びに宗教団体といった、
私を長とするサークルへの勧誘でした。
しかしながら、
私自身にもそろそろ飛躍の時期が到来したのではないかと思いまして。
『天空の村の全権を、それがダメならせめてイオラの森の全権を、
是非とも『幸せ』の祖たる私にぃ!』と、
森中を歩き回って訴えたのですよ。はい。
転んで、ずっこけて、
それでもめげずに、前へ前へと地面を踏み締めました。
どうしてそんな思いをしてまで、とお考えになるかも知れません。
しかしながら、私に全権が委ねられた瞬間、その疑問は氷解します。
世界が、がらっ、と変わるのです。
だってそうでしょう?
どれほどの困難な問題に直面しようとも、
私の『こうしなさい』で、
スムーズに処理出来るし、
あっという間に解決までこぎつけるじゃありませんか。
生きとし生けるモノ全てが、
頭を抱えることなく楽しい日常を送れるようになるのです。
ああぁ。
なんという、まさに夢のような世界。
それが、あとちょっと手を伸ばせば届く、っていうのにぃ。
現実のモノとなる、っていうのにぃ。
悲しいかな、『多数決』なるシステムに邪魔されて、
『正しい』『正しくない』が『正しく』決められない、
混沌とした日々を、カオスな世界を、
誰もが甘んじなくてはならないのです。
これって不幸以外の何物でもありません。
そうじゃないですか? ミーナさん。
私のいっていること、間違っていますか? ミアンさん」
すぅっ。すぅっ。
すぅっ。すうっ。
「――あららっ。ふたりとも仲良くおネムなんかして。
ふぅぅん。こうやって見ると、どちらも寝顔が可愛い……って――
こらぁっ!」
「ふにゃ?」
ぱちくり。
「うん?」
ぱちくり。
「ええとぉ、ウチはぁ」
くるっ、
「ミーにゃんミーにゃん。ウチっておネムっていたのにゃん?」
「さぁ。アタシも自分がどうなっていたのか想い出せないのわん」
「ミーにゃんも?
ふぅぅむ。ふたりとも覚えていにゃいのにゃら、
にゃあんにもにゃかったのかもしれにゃいのにゃあ」
「そうかも。
きっと、ほんの一瞬、ぼぉっ、としていただけなのわん」
「でもにゃ。
ウチ、夢の中で誰かに『こらぁっ!』って怒られたようにゃあ」
「奇遇。アタシもそんな気がしてならないのわん」
「怒っていたんです」
「ふにゃっ!」
「うわん!」
「それと悟られずに、
向き合うふたりの間に、ずぶっ、と顔を割り込ませるって、
結構大変……すみません。
きつきつなもんで、もう少し開けてくれませんか?」
「……とまぁこんな内容の話をぺらぺらと喋っていたのですよ。はい」
「はぁ。
やれやれ。迷探偵の出番がないまま、
おネムった理由がとぉっても判ってしまったのわん」
「ミーにゃん。ウチ、途中までは聴いたようにゃ気がするのにゃん」
「奇遇。実はアタシもなのわん」
「どこまでか覚えているのにゃん?」
「それが……あいにく、なのわん」
「実はウチもにゃん。とにゃると……」
「この勝負、引き分けってことになるわん」
「まぁいいにゃん。にゃんといったってウチとミーにゃんは」
にこにこっ。
「親友同士だもんね」
にこにこっ。
「あのですねぇ。
私を置き去りにしてなに楽しそうにお喋りしているのですか?」
「まぁまぁ。
ミリアにゃん。ちと待っててにゃ」
「待ってて?」
「ミーにゃん、ちょっと」
「うん」
こそこそこそ。こそこそこそ。
「……でいいにゃん?」
「もちろんなのわん」
「ごっほん。
ミリアにゃん。長々とお待たせしたのにゃん」
「あっという間に終わった気がするのですけど?」
「気がしても、気にしにゃいで。
にゃらば、今のミリアにゃんの意見に対し賛成か反対か。
要するににゃ。『正しい』『正しくない』のいずれかを、
決めたいと思うのにゃん」
「えっ。これから?」
「にゃら、おっ始めるとするのにゃん。
まずは賛成の方ぁ、手を挙げてにゃあ」
「――ええとぉ、それじゃあ――
はいっ!」
「でもって、
お次は反対の方ぁ、手を挙げてにゃあ」
「はい、にゃん!」
「はい、わん!」
「採決の結果、
二対一をもって、『正しくない』と決まりましたのにゃん」
「ええっ!
三にんしかいなくても『四面楚歌』ぁっ!」
《にゃんぼにゃんでも今時、『あんたにゃけ』はちとまずいのにゃん》