第百八十一話『可哀想でもイヤにゃん』
第百八十一話『可哀想でもイヤにゃん』
「いうこと、いちいち、ごもっともでぢゅ。
話せば長いことながら聴けば短い物語。
要するにでぢゅね。アタヂはダマされたのでぢゅ」
「ダマされた? 誰ににゃん?」
「アタヂが棲んでいた世界にある日、
『予言の珠』なるモンが降臨したのでぢゅよ」
『三日後の朝。向こうの山のふもとに、精霊ないし妖精が現われるであろう』
「とまぁこんなお告げをしたのでぢゅよ。
実をいうと、アタヂって身体が弱いナマネコだったんでぢゅよ。
でも霊力はネコ一倍あってでぢゅね。それをなんとか開花させて、
もっともぉっと、強いナマネコになれはしまいか、
なあんて考えていたのでぢゅよ。
『精霊が来てくれるなら、相談に乗ってくれるかもしれないでぢゅね』
そう思って三日後、『予言の珠』の案内で山のふもとに行ったところが」
「逢えたのにゃん?」
「逢えたどころか、現われたのはネコ型妖魔だったのでぢゅよ」
「にゃんと!」
「アタヂを一目見るなり、『気に入った』とかいって口に咥えて」
「可哀想ににゃ。食べられてしまったのにゃん」
「食べられたら、ここには居ないでぢゅ」
「それもそうにゃん。
いやあ。お姉さん、一本取られてしまったのにゃん。
にゃあっはっはっ」
「それで、でぢゅね」
「おや? スルーされてしまったのにゃん。とほほにゃん」
「突然、目の前に、もくもく、と黒雲が湧き上がってきたと思ったら、
妖魔はためらうことなく、その中へと突入してでぢゅね。
なぁんか、ぐにゃぐにゃっ、とした、
わけの判んない空間に連れていかれたのでぢゅ。
でもってそこで、
あれよあれよという間に、『妖魔の念』なるモノを命に組み込まれて、
妖魔化してしまったのでぢゅ。
艶のある黒い毛並みと『薄黄緑の地に黒の瞳』の目はそのままでぢゅが、
…………こぉんなにも大きい姿になってしまって。
…………妙な力も与えられて」
「ハニヤにゃんったら、大変にゃ目に遭ったのにゃあ。
ご愁傷さまにゃん」
ぱんぱん
「――前足の肉球を合わせて拝まれても困るでぢゅねぇ――
慰めてくれなくたっていいでぢゅよ。
にゃって自分の置かれている境遇については、
嘆いている、というよりもむしろ、怒っているのでぢゅもん」
「おやおや。幼子にゃがら勇ましいことにゃん」
「アタヂは許せないのでぢゅよ。
『こんな身体になったのも、
元はといえば、いい加減な予言をしたあの珠のせい。
今度会ったら粉々に噛み砕いてくれるでぢゅう!』
とまぁおのれのそんな硬い意志に引きずられるように、
ここまで来たのでぢゅよ」
「にゃあるほどぉ。事情は良っく判ったのにゃん。
……ああでもにゃ。
にゃからって、にゃんでウチの友にゃちを襲うのにゃん?
やってはいけにゃいことと思うのにゃけれども?」
「いいも悪いもないでぢゅ。
妖魔となってからは、
この方法しか糧を得る手段がなくなってしまったのでぢゅもん」
「ナマネコだった頃のように食べられにゃいの?
獣や魚の肉とか、あと美味しい木の実にゃんか?」
「ダメ。
食べても、おのれの糧にはならないのでぢゅよ」
「それはまた……。いやはや、にゃんとも可哀想にゃことにゃん」
「同情してくれるなら、核をちょうだいでぢゅ」
「イヤにゃん」
ぶんぶん!
「とはいってもにゃ。これはあんたの『ダダ』とは違うにゃよ」
「ふぅ。毛繕いも終わったにゃ。
でもって、話も一段落したにゃ。
こうやって対峙もしたにゃ。
さぁてと。どうするにゃ? ハニヤにゃん」
「むろん、こうするでぢゅよ」
くわっ。
ぴかぁん!
「あの赤い光芒にゃん! にゃらばっ!」
「『ねこねこ反射』ぁっ!」
「うおっ! なんと! アタヂの大事な光芒があぁっ!」
「にゃあんにゃ。にゃあんにも変わんにゃかったのにゃん」
「こちらにはね返された時にはさすがにたまげたでぢゅが……、
どうやら、なんともなさそうでぢゅね」
「自分で自分を取り込んにゃら、どうにゃるのにゃん?
にゃあんて興味津々にゃったのにゃけれどもぉ……。
どうにもにゃらにゃかった。やれやれ。ありふれた結末にゃん。
ということはにゃ。あんたも、ありふれた妖魔ってことにゃん」
「ありふれたでぢゅとぉ!」
ぎらぎらぁっ!
「ふにゃっ! 双眸の輝きが一段と強くにゃったのにゃん」
《短気もんはこれにゃから、と困りにゃがら、つづくのにゃん》