第百七十九話『絶世の美少女にゃん』
第百七十九話『絶世の美少女にゃん』
「イヤでぢゅ」
「はぁう」
「なんでぢゅ?
そのあきらめたような顔と、大きなため息は」
「やれやれ。
身体のでっかくにゃった妖魔が、
ミーにゃんみたいにダダをこねて」
「ダダじゃないでぢゅっ!
今更遅い、といっているのでぢゅよ。
既にお前ちゃんの友だちはみぃんなアタヂのモノ。
それは紛れもなく現実なんでぢゅ。
お前ちゃんは現実に背くつもりでぢゅか?」
「相手の許しも乞わずに、無理矢理、じゃにゃいの。
そんにゃもん、あんたのとはとうてい認められにゃいのにゃん」
「ならばどうするつもりでぢゅ?」
「今いったじゃにゃい。返してもらうのにゃん」
「なら、こちらも繰り返しいわせてもらうでぢゅよ。
ぜぇったいにイヤでぢゅうっ!」
「はぁう。
――もうダダっ子もダダっ子。大ダダっ子にゃん。
ひょっとすると、ミーにゃんどころか、
いじけたイオラにゃんよりもひどいかもしれにゃい――」
《あら。なにか呟いたかしら? ミアンちゃん》
《にゃんでも。
……っていうか、不意に心の中で話しかけてこないでにゃ》
「なにぶつぶつ呟いているのでちゅか?」
「イオラにゃんが……ううん。
ハニヤにゃんがあんまりにも『困ったちゃん』にゃもんで、
途方に暮れているところにゃん」
「なにぃっ。化けネコの分際で妖魔を愚弄する気でちゅかぁ?」
「愚弄されるようにゃマネをするからにゃん」
「うううっ。おのれぇ。黙って聴いていればぁ」
「ぜぇんぜぇん黙っていにゃいじゃにゃいの」
「んがぁっ!
もはや勘弁ならぬでぢゅ。
お前ちゃんも他の者たちと同様、
囚われの身となるがいいでぢゅうっ!」
どすんどすん。どすんどすん。どすんどすん……ぴたっ。
じろじろ。
「へぇ。一歩も退かぬなんて。
なかなか肝が座っているでぢゅねぇ。
うん。気に入ったでぢゅ。
アタヂは妖魔ハニヤ。
黒も黒。真っ黒ライオンのハニヤでぢゅ。
勇猛果敢を思わせるこのタテガミが目印のハニヤでぢゅ。
逃げなかったご褒美に、
この名を記憶に留めたまま、糧にしてやるでちゅよ」
「わざわざの自己紹介、痛み入るのにゃん。
にゃら、お次はウチにゃん」
「なんでぢゅって」
「まぁまぁ。これもご褒美と思ってにゃ」
「ふん。
やりたければ、勝手にやるがいいでぢゅよ」
「にゃらば」
ぐいっ。
「――と前に出てにゃ――
ウチの名はミアン。見ての通り」
「ふむふむ。見ての通り?」
『絶世の美少女にゃん!』
「あ…………」
かきぃぃん!
「にゃんと! 凍りついてしまったのにゃん!」
ぶるぶるぶる。ぶるぶるぶる。
「アタヂは、どぼじてしまったのでぢゅかぁ……」
「にゃあんか、かちんこちん、とにゃってしまったもんでにゃ。
ほら。焚き火をして、あっためていたのにゃん」
「それはありがとうでぢゅ。
――ええとぉ確かぁ、
アタヂの常識を根底から覆す言葉を耳にしたようなぁ……はっ!
お礼をいったり記憶を辿ったり、
なぁんてしている場合じゃないでぢゅ――
さぁ。早く自己紹介を始めるのでぢゅよぉ」
「焚き火のあと始末をしてからにゃ。
はぁ。やれやれにゃん」
《あきれにゃがらも、つづくのにゃん》