第百七十七話『無理強いのミリアにゃん』
第百七十七話『無理強いのミリアにゃん』
「ほぉ。今度は顔面じゃありませんね。
いいでしょう。合格です」
「ミリアにゃん。にゃにが合格にゃの?」
「決まっているじゃありませんか、ミアンさん。
私とお近づきになれる特権を得たということですよ」
「災難にゃ特権にゃ」
「……ごっほん。
ならば早々に自己紹介といきますか」
『ええとぉ……とりあえずはネコ型妖精です。はい。
薬園の樹木群が生んだ傑作とでも思って頂ければ。
あと目立つところといえばぁ……ふぅぅむ。
顔が真ん丸……あっ。ネコだから当たり前ですよねぇ。
目も、「黄色地に光沢きらりんの黒色」と至って平凡ですしぃ。
となるとぉ……、
薄緑色のふんわりとした毛並みに覆われた身体、ぐらいですかねぇ。
そうそう。このピンク色の首輪なんてどうです?
先祖伝来の形見なんですが、実は念動操作で操ることが出来るんです。
メガネにもなったりします。
でもって、切り札「無気力波」まで使えちゃうという、
まっことスグレものなのですよ。でもこれは内緒ですよ。はい。
とまぁ容姿を並べ立ててはみたものの、
あんまり、ぱっ、としませんでしたねぇ。
……ということで、
起死回生の意味も込めて性格なんぞ話してみますか。
見ての通り、「おしとやか」で、「清楚な少女」で、と、
いいとこずくめな女の子なのですよ。はい。
ドジっ子などという噂もあるにはあるのですが、
自分では良く判りません。
実は生まれた際、奇妙なことがあったようで。
だから、なのかもしれません。
「夢想」とか「妄想」なんて呼ばれるモノが趣味なのです。
ここで豆知識を一つ。
薬園の樹木群はこれまでにも何度となく、
自分たちの妖精を造り出してきました。
しかしながら、
こんな趣味を持った命なんて今までにひとりもいなかったそうです。
まっ、それはともかくとして。
私の夢はですね。
自分がリーダー、もしくは、会長、もしくは、教祖になって、
生きとし生けるもの全てを幸せにすることなのです。
その第一歩として、今までにさまざまな同好会を提案してきましたが、
悲しいかな、現実の壁って結構、手強いのですよ。
幸せになりたくない命なんてありっこないのに、
なかなか賛同が得られなくて難儀しているありさま。
私が思うに、多分みんな恥ずかしがり屋さんなのです。
「自我」という殻に閉じこもってしまい、
外へ一歩踏み出すのを躊躇しているのです。
ならばその殻を壊して差し上げればいい。
とまでは判っているのですが……、これがどうにも上手くいきません。
黒ネコさん。どうしたら、
みんなの心を解き放てるのですか?
新しい自分へと誘えるのですか?』
「にゃん?」
「黒ネコにゃんが首を傾げるのも無理はにゃい。
にゃって自己紹介のはずが、
最後は『お悩み相談のお客』みたいににゃっているのにゃもん」
「しかしながら……二度も飛びついてくるなんて。
なにやら運命的なものを感じますね。
判りました。早速『可愛いもの同好会』にご加入を。
ささっ。ここに肉球を、ぷちっ、と」
「にゃんにゃん!」
ぶんぶん!
「おや、盛んに首を振っていらっしゃいますね。
一体どうして…………あっ!
私としたことがなんてうかつな。
誰かにとっての常識は、
必ずしも、他の誰かにとっても、とはかぎらないのです。
私の目からすれば、迷惑千万、な風に映っても、
あなたにとっては、
『是非、お願いします』のサインだった。
叫んだり首を振ったりしているのも、
『押したいのに思うように押せない。一体どうしたらいいの?』
と困っていたから。
どうです。私の読みは?
……なぁんて聴くまでもありませんよね。
判りました。そうと判れば、『愛』を自認する私のこと。
早速、お手伝いをして差し上げましょう」
「にゃんにゃん!」
ぶんぶん!
「ほらほらぁ。あんまりはしゃがないで。
いくら私を会長とする同好会の一員になれるとはいっても、
そこはちゃんと礼儀を正してですねぇ」
《無理強いはいけにゃいのにゃん、との自戒を込めて、つづくのにゃん》