第百六十八話『黒ネコにゃんとミストにゃん』
第百六十八話『黒ネコにゃんとミストにゃん』
「とまぁ自己紹介も済んだことだし、それじゃあまぁ」
ぐぃっ。
ぱたぱたぱた。
「ミスト君ミスト君。
黒ネコ君の首をつかんでどうするつもりなの?」
「決まっているじゃない」
にこっ。
「お持ち帰りよ」
「ほぉら。ここがわたしの棲み家。霧の都よ。
わたしも含めて目の前に拡がる一切の光景が、
なにを隠そう、霧の見る夢なの」
「にゃん?」
「――ふふっ。首を傾げているわね。
まぁ最初だし、無理もないか――
いずれは判るわ。
これからも来ることになるだろうしね。
さぁ。わたしのあとについて来て」
ぱたぱたぱた。
すたすたすた。
きょろきょろ。
「にゃん?」
「どぉ? 珍しいでしょ?
ここにある透明な建物はどれも、ぷよぷよ水で造られているの。
だからね、こうやって」
ぱたぱたぱた……びゅうぅん……べちゃあっ!
「にゃにゃっ!」
どろどろどろぉっ!
しゅぱっ!
「復元終了、っと」
くるっ。
「ねっ。黒ネコくん。今見た通り、体当りしたら壊れたでしよ?
わたしはね。潰れた瞬間、溶解水となれるの。
とはいっても、決して壊し屋なんかじゃないわ。
ここは創作品の展示場。建物を壊すことで空いたスペースに、
また新たな作品を作ってもらうっていう寸法よ。
欲求不満の解消も出来るから、まぁいうなれば一石二鳥」
「ミスト! 早くここから逃げてぇ!」
「あら。ドナの声だわ」
「にゃん?」
「ああ、ドナっていうのはね。わたしの幼なじみなの。
――でも逃げてって、どういう…………はっ!
わたしとしたことが、なんてうかつなぁ! ――」
がしゃがしゃあん! がしゃがしゃあん!
「し、しまったぁっ!」
どろどろどろぉっ! どろどろどろぉっ!
どろどろどろどろどろおおぉぉっ!
どろどろどろどろどろおおぉぉっ!
「あぁあ。だから、早く逃げろ、っていったのにぃ。
ミスト! どこに埋もれているのぉ!
生きていたら、返事しなさぁい!」
ずぼっ。
「ぎょっ!」
「確かに。生きていなかったら返事は出来ないわね」
ずぼっ。
「ぎょぎょっ!」
「にゃん!」
「ごめんねぇ、ミスト」
「謝らなくてもいいわ。
今日の大規模撤去を提案したのは、わたし。
それを忘れたのもわたし。
みぃんな、わたしのせいだから」
くるくるくる。
「あら。意外に面白いわね。
しゃがんだ格好で、
地面にネコ差し指で円を描くのって」
「ミストったらぁ。そんなにすねなくても」
「にゃん」
「あぁあ。楽しいわぁ」
「とまぁそんなこんなで、
なかなかデンジャラスなふるさと案内になったわ。
ふぅ。なぁんか疲れちゃった。
ということで、あとはみんなに任せるから。
それじゃあ、黒ネコくん。またね」
ぱたぱたぱた。
「にゃあ、ミーにゃん。ミストにゃんったら」
「あっ。ミアンも気がついた?
なんだろう?
ツキモノが落ちたような、ひどくやつれた感じなのわん」
「飛び方もふらついているしにゃ。
あんにゃミストにゃんって、今までに見たことがにゃいのにゃん」
「♪にゃんにゃんにゃん」
「でもって、こっちは元気いっぱい……」
きょろきょろ。きょろきょろ。
「おや? 一体なにをしているのわん?」
「多分、さっきのミストにゃんとおんにゃじにゃん」
「うん? 同じ?」
「品定めにゃん」
きょろきょろ。きょろきょろ。ぴたっ。
ぴょおぉん!
「にゃあぁん!」
《黒ネコにゃんが次にジャンプした先は……、で、つづくのにゃん》