第十六話『速すぎたミーにゃん』
第十六話『速すぎたミーにゃん』
「困ったなぁ……。
あっ、ちょうどいいタイミングでミアンが来たわん。
さっすが。持つべきものは親友なのわん。
よぉし。ここは一切合切ミアンに丸投げなのわん。
……ってことで。
ミアァン! こっちこっちぃ!」
「ミーにゃん!」
たったったったったっ……ぴたっ。
「おっかしいにゃあ。
にゃんにゃのにゃろう、この気持ちは。
ミーにゃんが折角声をかけてくれているのにぃ。
でもって手まで振ってくれているのにぃ。
しかもにゃ。大喜びにゃのにぃ。
……うん? 大喜び? ……そうにゃ。にゃからにゃのにゃん!」
「なぁに立ち止まっているのわぁん! 早く早くぅ!」
「ふつふつと心に湧き上がってくる戦慄の予感。
どうしてそんにゃもんが出てくるのか、今の今までさっぱりにゃった。
しかしにゃがら、やっとその理由が掴めた気がする。
……ミーにゃんにゃ。
大喜びしているミーにゃんのあの笑顔が、この予感を生んにゃのにゃん。
ふぅぅむ。どうしょうかにゃあ。
精霊の間から出てきたばっかにゃのにゃけれどもぉ。
君子危うきに近寄らず、ともいうしにゃ。しょうがにゃい。ここは一つ」
くるっ。
すたすたすた。
「あっ、いきなり急ぎ足であと戻りし始めたのわん。
さては勘づいたなぁ。
んもう、こういうことだけは敏感なんだからぁ。
だけど……ふふっ。このまま逃げられると思ったら、大間違いなのわん。
アタシの超高速飛行。名づけて『瞬飛百歩手前』。とくとみるがいいわん」
ぴたっ。
「にゃ、にゃんと!」
びゅぅん!
「ミーにゃん。今、小耳に挟んにゃのにゃけれどもぉ。
にゃんにゃの? 『瞬飛百歩手前』って」
「えっへん。アタシが新規開発した飛行術なのわん」
「にゃんと! 新規とはすっごいにゃあ」
「えっへん!」
「でにゃ。『瞬飛』とはどう違うのにゃん?」
「うぅっ。痛いところを突かれたのわん。
……ねぇ、ミアン。ものは相談なんだけどぉ」
「にゃににゃに?」
「ここから先はここだけの話ってことにしてくれないわん?」
「内緒の話にゃの?」
「まぁそういうことわん」
「うぅん。どうしょうかにゃあ」
「お願い。頼むわん」
「しょうがにゃい。他ならにゅ親友の頼みにゃ。
ミーにゃん。聴いてあげるから、思う存分ぶちまけにゃさい」
「有難うわん。本当、持つべきものは親友なのわん。
……実はねぇ」
ひそひそひそ。ひそひそひそ。
「ふむふむ……ふむふむ……ふむふむ…………にゃあるほど。
高速飛行よりは上にゃのにゃけれども、『瞬飛』には遠く及ばにゃいと。
でもまぁそれくらいにゃら……ふむふむ…………ほほう。
そぉんにゃ弱点もあるのにゃん」
「……とまぁこれくらいで。
なんといってもまだ開発途中だからね。
『幼児の事情』ってぇのもあるしぃ。要するに今は、生みの苦しみ、なのわん」
「大変にゃにゃあ。ミーにゃんも」
「まぁね。
いぃい? ミアン。あらためていうけど、誰にも内緒なのわん」
「うんにゃ。しっかと肝に銘じておくのにゃん。
でもにゃ。ミーにゃん」
「なにわん?」
「それでもたいしたもんにゃよ」
「うん。アタシもそうだと思っているのわん」
「ウチは尊敬するのにゃん。ミーにゃんの親友であることを誇りに思うのにゃん」
「てへっ。そんなにいわれると、照れくさいわん。
ミアン、褒めてくれて有難うわん」
「にゃら、また」
びゅぅん!
「うん。なら、また。
……って、しまったのわん。
折角そばに来たっていうのにぃ。千載一遇のチャンスだったっていうのにぃ。
みすみす取り逃がしたしまったのわん。こうしちゃいられないのわん。
お待ちなさぁい! 待つのわああぁぁん!」
ぱたぱたぱたぱたぱたっ!
「ええとぉ、ミアンは……ふふっ。
しめた! 射程距離に入ったわん。今こそ、奥義を発動する時なのわん。
それぇっ!」
どっぴゅぅぅん!
「ミアァン! お待ちなさぁい!」
ぴたっ。
「はい、にゃん」
「そ、そんな急にとまるなんて」
どっぴゅぅぅん!
「ふぅ。間一髪にゃ。
頭の上すれすれを通りすぎていったにゃあ」
「でもって急に頭を引っ込めるなんて……ううん、もうそれどころじゃないわん!
とまれとまれとまるのわあぁぁん!」
「あ、前方から霊翼竜アーガが飛んできたのにゃん」
ぐっしゃ!
「うがっ!」
ひゅぅぅっ!
「正面衝突したミーにゃんが落ちていく……。
あ、真上からどういうわけか大木が落ちてきたのにゃん」
どがっ!
「うがっ!」
「大木の根っこ部分に引っついたまま落ちていく……。
あ、真上から今度は隕石が落ちてきたのにゃん」
ががん!
「うがっ!」
「ちょうど釘を金づちで叩くようにゃ感じにゃ。
釘の先に引っついているミーにゃんのダメージはいかばかりか。
お気の毒にゃん」
ごごごごごおおぉぉっ…………ががん!
「隕石は転がり落ちてにゃ。
大木は地面に突っ立ってにゃ。
でもってミーにゃんは……おっ。
てっきり地中に埋まってしまったと思っていたのにぃ。
あっぱれ。虫の息にゃがら、大木の直ぐ横で仰向けに倒れているのにゃん」
「く、く、悔じいのわぁぁん……」
「ふつふつと心に湧き上がってきていた戦慄の予感が消えた。
あの悔し顔を見た途端にゃ。
にゃんという心地良さにゃろう。
柔らかにゃ陽射しを浴びて。優しいそよ風に撫でられて。
全ての存在がウチに優しく微笑みかけている。
現実は夢にゃんかよりもはるかに素晴らしい。
そう語りかけているようにさえ、思えてしまうくらいにゃん。
全てはミーにゃんのおかげにゃ。
『瞬飛百歩手前』の弱点を教えてくれたからにゃん。
ほんのわずかにゃ間しかもたにゃい。
一度発動したら、直ぐにはとめられにゃい。
これらを教えてくれたからこそ、ウチはとまったのにゃん。
ミーにゃん。有難うにゃん。
さてと。これからどうしようかにゃあ。
戦慄の予感が消えたっていうのに、そそくさと精霊の間に戻ってもにゃあ。
やっぱ当初の目的通り、
ミーにゃん同盟の友にゃちが集まっている『遊び場』に行こうかにゃあ」
「ミーにゃあぁん! ウチは先に行くにゃよぉっ!
ミーにゃんも悔し涙が消えたらにゃあ!
でもって、いつもの笑顔に戻ったらにゃあ! 直ぐにでも来てにゃあぁん!」
すたすたすた。
「んもう。ミアンごときに悔じいやら情けないやら。
……うん? 待てよ。
なぁんか走馬灯のようにいろいろと想い出してきたのわん。
特にぃ……。
さっきミアンがこっちに戻ってきた時のあの速さ。
でもって、立ち去った時のあの速さ。
どちらも、『瞬飛』そのものじゃない?
でもまさかね。あのミアンがそんなはずは。
あとは、と。
そもそもミアンとはなんか別の話をしようと思って、
それで呼んだんじゃあ…………」