第百四十六話『泣いてしまったのにゃん』
第百四十六話『泣いてしまったのにゃん』
「はるか大昔のこと。惑星ウォーレスから湧き上がってきた、
『死の灰』と呼ばれる噴煙のせいで、森の一部に悪しき毒素が蔓延。
幾つものエリアが草木の生えない荒地と化した。
そのまま手をこまねいていたら、
荒地が更に拡大するのは目に見えている、といった状況だったんだ。。
そこで森の精霊シャナ殿は大地を回復させるために、一つの手を打った」
「それが『幸せの苗木』なのわん。
これを量産、でもって植えつけることで土成分を活性化。
雨神フーレが降り注ぐ『霊水の雨』の効果と相まって、
今のような青々と茂った大地へと戻すことが出来たのわん。
……とまぁそんなところかなぁ。
でもミロネん。
なんで今の今、『幸せの苗木』なんてお古なモノを探しているのわん?」
「実は天空の村の東側先端が、荒廃の一途を辿っている。
原因を調べてみたところ、思いがけない事実を知らされた」
「へぇ」
「天空の村の真下に横たわる毒ガスの雲海から、
時折、ガス弾が発射されているのは、みんなも良く知っていると思う。
何百年かに一度ぐらいの頻度で、このガス弾が東側先端に墜ちるんだ」
「でもただのガス、無毒な気体だって聴いているのわん」
「保守空間でも、ずぅっ、とその認識でいた。
だから、気にもとめなかったんだ。ところが」
「違ったのわん?」
「荒廃の進み具合が著しい。こちらの予想をはるかに上回る勢いなんだ。
よもや、と半信半疑ながらも今まで以上に微細に調べたところ、
ガスのごく一部に微量ながら、毒素らしきものが検出された」
「らしき?」
「これまでに発見されていない未知なる種類のモノだったからだ。
当然、保守空間では総力を上げて詳細に吟味することになる。
そして出た結果は……、
自然界を破壊するに足る猛毒の成分であることが判明した。
樹木や草花を枯らすばかりか、水や土までをも腐敗させる力がある。
しかも、腐食が新たな腐食を生むという連鎖反応まで起こすときては、
荒廃を招くきっかけとなったのは、もはや疑いようがない。
このまま放置すれば、やがてはイオラの森に、
いや、天空の村全体に被害を及ぼすこととなるだろう。
保守空間としては、もっとも憂うべき事態だ。
『なんらかの対策を早急に講じねばならない』
との結論に至ったのは、いわずもがな、だ」
「それで苗木を、というわけなのね」
「苗木から放たれる霊波の力には、
土成分の活性化はもちろん、毒素の浄化を促す作用も併せ持つ。
これが手に入れば、東側先端を元の姿に戻すことは可能だ」
「でもそれって今もあるのわん?」
「ミムカ殿の記憶の中に、苗木の関する情報が隠されていた」
「ミムカんの?」
くるっ。
「本当なの? ミムカん」
「もちろんでありまぁす。なにしろミムカは」
「森の妖精なのでありまぁす、とかいいたいのわん?」
「んもう、セリフの奪取は良くないでありまぁす」
「ミムカや。良ぉく覚えておいで。
万が一、天空の村の大地についた瑕疵が拡がるようなら、
『幸せの苗木』を使うといい。
はるか大昔に自分がこしらえたもので、大半は使われてしまっておるが、
その残りが今もなお薬園の」
「と、ここで、がばっ、と目が覚めてしまいましたですよぉ」
「なぁんだ。夢の話かぁ。
てっきり本当にあるんだとばかり」
「あるんだ。今ミムカ殿の喋った内容が、
保守空間内にも、シャナ様の記録としてちゃんと残っている。
ただ偶然というか、不思議なことに」
「なにわん?」
「こちらのも、『薬園の』までしかない。
故意なのか、それともなんらかの理由で情報が途切れてしまったのか、
理由は不明だ。
まっそれはともかくとして。
『苗木』の存在自体は間違いない、という認識で、こちらは一致した」
「だから、ミアンとミストんが探していたのわん。
でもさぁ。ミアンはミストんに頼まれて、だろうけど、
ミストんは、どうして関わったのわん?」
「ごっほん。答えは、不肖ながらこの私が。
愛のなせる技ですよ、ミーナさん」
「愛? ちょっとミリアん。どうしてここに愛が出てくるのわん?」
「愛はどこにでもあるのです。ほら、そこの道端にだって」
「にゃんと! にゃら、ウチの尻にも?」
「…………ごっほん。今はミストさんの『愛』について語ろうと」
「ミーにゃあん。今の聴いたにゃん?
ウチの折角の質問が、ぐすん、袖にされたのにゃん。ぐすん。
無視されてしま……ふわあぁんにゃあ! ふわあぁんにゃあ!」
「うわん。うずくまって泣き出してしまったのわぁん。
ミリアんったらもう、とんでもないことをしてくれちゃってぇ。
ううっ。 可哀想なのわぁん。こっちも、ううっ。
もらい泣きしてしまいそうなのわぁん」
「ミリア君。ここはちゃんと謝ったほうがいいと思うな」
「えっ」
「わたしも思うの。友だちに意地悪してはいけないって」
「ええっ!」
「そうだな。いじめは犯罪だ」
「えええっ!」
「天誅! でありまぁす!」
「え」
ピコピコオオォォン!
「ぶくぶくぶく……」
ばたっ。
《硬質ピコピコハンマーで泡を吹いてぶっ倒れたまま、つづくのにゃん》