第百三十七話『伝家の宝刀を落としてしまったのにゃん』
第百三十七話『伝家の宝刀を落としてしまったのにゃん』
「――いっつも思うんだけどぉ。ネコってお得なのわん。
あのネコ口といい、コンパクトにまとまった、あの箱座りといい、
もわんもわんでふさふさしたアタシの大っきなアホネコさえも、うふっ。
可愛いわん。可愛いわん。可愛いわんったら可愛いわん。
……なぁんて見惚れている場合じゃなかったっけ――
いぃい? ミアン。
日常、良く見かけるなにげないものにこそ、
実は意外な真実が隠されていたりもするのわん」
「ふわああぁぁんにゃ。
にゃからといって、
んにゃもんを見つけ出すヒマがあったら、
毛繕い、にゃいし、おネムでもしているのにゃん」
「こらぁっ!
仮にもこのアタシがお説教しているんじゃない。
なのに大あくびで返事するなんてぇ。
泣く子も泣く迷探偵ミーナの助手とあろうものが、
そんな態度でいいと思っているの?
否、もってのほか。ぜええぇぇったいに許されないのわん!」
「うんにゃ。確かに泣く子は泣くのにゃあ」
「そこを頷いてどうする! っていいたいわん」
「――相も変わらずの怒りんぼさんにゃん――
まっそれはそれとしてにゃ。
ふわああぁぁんにゃ。
にゃあ、ミーにゃん。つかにゅことをお尋ねしたいのにゃけれども」
「えっ。
――アタシ、またなんかやっちゃったかなぁ。
ひょっとして、アレかなぁ。それとも、やっぱアレかなぁ。
覚えがありすぎて、どれをいってんのか、さぁっぱりのぱり。
ぜぇんぜぇん見当もつかないのわぁん――」
まごまご。
「な、なんなのぉ?
いっておくけどさぁ。
答えられることは答えられるけど、答えられないことは答えられないのわん。
なもんで、そこんとこ、よろしくぅっ」
「――ぶふっ。
突然、攻めから守りに移ったもんで、しどろもどろにゃん――
ミーにゃんミーにゃん。
そんにゃに尻込みして予防線を張るようにゃ質問じゃにゃいにゃよぉ。
にゃもんで安心して、ゆるぅりぃ、としてにゃ」
「そぉお?」
ほっ。
「だったら」
だらぁぁん。
「あのにゃあ。
誰が、肘枕で寝そべろ、といったのにゃん?」
「うるさいことはいわないのわん。
それでそれで? なにか御用なのわん?」
「あるから聴こうとしているのにゃん」
「なるほどね。それも一理あるのわん。
――さてと。アタシもここら辺りが潮時、いや、正念場かな。
これ以上、会話を長引かせたって、あとに引きそうもないしぃ。
しょうがない。観念するとするのわん――
さぁミアン。煮るなり焼くなり好きに質問するがいいのわん」
「ミーにゃんったらぁ。
――しゃん、として、あぐらをかいたにゃあ。
こういうのを『まな板のコイ』っていうのにゃろうか――
も一度いうけどにゃ。覚悟を決めるほどの質問じゃにゃいって」
「じゃあ、なんなのわん? 焦らさすにさっさといって欲しいのわん」
「にゃら、さっさというのにゃん。
ウチって、いつ助手ににゃったの?」
「なにを今更なのわん。
アタシとミアンは親友同士。一心同体の間柄じゃない。
アタシが迷探偵を名乗った時点でミアンの運命は決まっていたのわん」
「やれやれ。難儀にゃことにゃん。
まぁにゃんにしてもにゃ。
失くしたモノを見つけ出したいと願うのは誰しもおんにゃじにゃ。
ましてやミーにゃんのは伝家の宝刀ともいうべきピコピコハンマー。
あきらめろ、というほうが無理というものかもにゃ」
「うん。そうなの。
あれがないとね。不安で不安で夜もおちおち」
「大いびきをかいておネムしていたのにゃん。
んもう、うるさくってうるさくって。
ほとほと参ってしまったのにゃん」
「な、なぁんて濡れ衣を押しつけるのわん!
アタシ、これっぽっちだって覚えがないのわん!」
「いびきにゃよ。覚えているほうが奇跡というものにゃん」
「ミアン。そんないいわけが通用すると思って。
アタシはこうみえても迷探偵。
しかもイオラの森のお姫さまで、神秘な妖精とくる。
どこをどぉつついたってあり得ないのわん。
――ここよ、ここ。
いぃい? ミーナ。今こそ、攻めに転じる絶好の機会なのわん――
なのに、どこまでも、いびきをかいた、っていい張るなら、
証拠をみせてもらわなきゃあ。
もし出せないというのなら……ふふっ。そうねぇ。
ごめんなさい、とアタシの前で、ひざまずくのわん」
「はい、証拠にゃん」
「ミーナちゃんったら、本当にうるさくってうるさくって。
どうにもとまらないから、ワタシ、ミアンちゃんと一緒に外へ出て、
終わったはずの森のパトロールにまた出かける羽目に」
「うわあぁん!
――四の五のいわず、土下座だ。土下座。それしかないのわん――」
がばっ。
「ミアン、イオラ。
この度はご迷惑をおかけしまして、
大変申しわけありませんでしたのわん。ごめんなさいのわぁん」
ふかぶかぁ。
「あったにゃよぉ!」
ピコピコォッ!
「あぁら、本当。ミーナちゃん、良かったじゃない」
「あったって……。
そんなはずはないのわん。オモチャ箱の中は何度も探したのわん」
「きっと、拾った誰かが放り込んでおいてくれたのね」
「うんにゃ。
ミーにゃんがどれだけ信頼されているかを物語っているのにゃん」
「信頼されている? アタシが?
――んなアホなぁ……って、自分で思ってどうするのわん? ――
ま、まぁその点については議論の余地があるとしてぇ。
放り込む? 精霊の間にも入らないでどうやってなのわん?」
「ほら。
ミーにゃんのオモチャ箱って外からでもアクセス出来るじゃにゃいの」
「アタシはね。でも他のみんなは」
「ふふっ。実はね、ミーナちゃん。
こんなこともあろうかと、ミーナちゃんが立ち寄りそうな場所全部に」
『毎度お騒がせのミーナちゃんが、
「こりもせずにまたまた落としやがったなぁ、あいつぅ。
もうどうしようもないのなぁ」とあきれんばかりの、
得体のしれないオモチャがありましたら、
誠に恐縮ではございますが、
ここへお入れくださいますよう、謹んでお願い申し上げます』
「なぁんて表に書いた真っ赤っ赤なボックスをね。
森のあちらこちらに配置してあったのよ」
「なぁんだ。それでなのわん。きゃはははっ」
「それでにゃんよ。にゃはははっ」
「それでなのよぉ。ほっほっほっ」
「きゃははは……って、笑いごとじゃないのわん!
それじゃあまるで、アタシが学習能力のないアホみたいなのわん!」
かきぃぃん!
「…………」
「…………」
「凍りついてしまったのわん……」
「ミアンもイオラも、お願い。
なにか喋って。なんでもいいからやさしく慰めて。
心が冷えて冷えてたまらないのわぁん」
「はっ!」
ぶるぶるうっ。
「はっ!」
ぶるぶるうっ。
「あああっ! やっと、やっと戻ってきてくれたのわぁん」
「にゃら一言いわせてもらうにゃ」
「はいはい。いっていってぇ」
「ミーにゃん。
くれぐれもフォローしにくい言葉は控えてにゃん」
「そうね。お願いよ、ミーナちゃん」
「…………うん」