第百三十四話『迫りくるモノにはポジティブにゃん』
第百三十四話『迫りくるモノにはポジティブにゃん』
たったったったったっ!
「ごめんごめん。どうやらミスっちゃったみたいだ。
ごろごろと転がってきては、しぃぃん。
ごろごろと転がってきては、しぃぃん。
君がおネムの間ね。ずぅっ、と轟音と静寂が繰り返されていたんだよ。
そりゃあ待ちに待ったっけ。でもってやっとこさ、
『居なくなったなぁ』なぁんて思えるくらい、
長く静まり返っていたもんだからね。
『今がチャンス!』と思って、
みんなを急き立てて、君やミロネ君も起こして、
穴から飛び出してみたところが……はぁっ。
これ、だもんね。
いや、引き返す音が聞こえないから、おかしいとは思っていたんだ。
だけど、まさか後ろに陣取っていたなんてねぇ。しかもたっくさん。
きっと、こっちが動き出すの見計らってたんだろうなぁ」
たったったったったっ!
「ミクリにゃん、口より先に足を動かしたらどうにゃん?
どんどん遅れていってるのにゃよ」
「それもそうだね」
たったったったったっ!
「ミアン。もう少しスピードを上げられない?
これじゃあ、追いつかれるのは時間の問題なのわん」
「ミクリもですよ。もっとパワーアップをお願いしますですよ」
「んにゃこといったって。にゃあ、ミクリにゃん」
「いきなり、こんな切羽つまった状況に追い込まれたんだ。
いささか気が動転してしまってね。
霊力をコントロールするのが難しいんだ。
思いっ切り走りたくても、今はこれが精一杯さ」
「ミーにゃん。ウチもおんにゃじにゃよ」
「だったら、このまま潰されるつもりなのわん?
無理を無理と認めちゃったら、その先はないのわん。
克服してこそ、未来が見えるのわん。
もっともぉっと強い自分になれるのわん」
「おっ。ミーナったら、なかなか良いことを喋りますですねぇ」
「えっへん!
アタシの手にかかれば、こんなお説教の一つや二つ、
おちゃのこさいさい、なのわん」
「ミクリにゃん。今の聴いたにゃん?」
「聴いた聴いた。いいたい放題だねぇ。全くぅ」
「ごめんなさいね」
「すまない」
「別にミストにゃんやミロネにゃんが謝んにゃくたって]
「ううん。こればかりは感謝しなくちゃ」
「気が動転して思うように身体を動かせないのは、
オレたち翅人型だって同じだからな」
「とはいっても、こちらにとっては致命的ね。
なんせ翅が使えないんだもの。逃げるに逃げられないわ」
「走ったって、この身体の大きさじゃ、たかがしれている。
こうやってミアン殿やミクリ殿の背中に乗っけてもらわなければ、
今頃ぺっちゃんこになっていたはずだ。
みんなの分も含めて心から礼をいわせてもらう。ありがとう」
「ありがとう、ミアン、ミクリ」
「にゃって、ミクリにゃん」
ぽっ。
「ぷふっ。なぁんか照れくさいや」
ぽっ。
「こらぁっ! ふたりともなにやっているのわん!」
「誰が、スピードを落としていい、といいましたですかぁ!」
「はあぁ。
にゃあ、ミクリにゃん。
ウチらの背中には慈悲の聖者と暴君とが混在しているのにゃん」
「嘆いてもしょうがないよ。
暴君だけじゃなかったんだ、とか思えば?
きっと心に安らぎが与えられると思うよ」
「ネコごとにゃと思って。ほら、ウチの背中は見にゃさい。
ミーにゃんとミムカにゃん。暴君にゃらけにゃんよ」
「悪いねぇ。こっちはミスト君とミロネ君。
君がいうところの慈悲の聖者たちさ」
「この差ってどこからくるのにゃん?」
「まぁこれも運命って奴だよ。
どうだい?
運命を変えるのが難しいなら、
逆に自分を運命に合わせてみるっていうのは?」
「はて? どういう意味にゃん?」
「叱咤にも似たふたりの叫びをね。
励ましの言葉と受け取ってみたら、ってこと」
「ぶふっ。ミクリにゃんったらぁ。
相も変わらずポジティブにゃん」
「ははっ。そりゃそうさ。
だってネガティブだと思いっ切り走れないからね」
「にゃあるほろぉ。思わず目からウロコにゃん。
にゃらばっ!」
たたたたたたたたっ!
「うわん! は、速すぎるのわぁん!」
「死に物狂いで、しがみつかないといけませんですぅっ!」
たたたたたたたたっ……びゅうぅぅん!
「んわっ!」「んぐっ!」
「すっごいなぁ。閃光になっちゃったよ。たいしたもんだぁ」
「ミクリったら、見惚れている場合じゃないわよ」
「ミスト殿のいう通りだ。こっちもスピードを上げないと。
ほら、どんどん離れていってしまうぞ」
《どんにゃもんにゃい! と肩をそびやかしにゃがら、つづくのにゃん》