第百三十二話『迫りくるモノの正体にゃん』
第百三十二話『迫りくるモノの正体にゃん』
「もし気分を害したのなら、お詫びする。
言葉足らず、舌足らず、のせいと、自分でも判ってはいるのだが、
あいにくと、こればかりはどうしようもない」
「ふふっ。それでこそ、『ミロネ』って感じね」
「ねぇ、ミロネん。
あの『飛んだり』『はねたり』『転がったり』する、
忙しげの、どでかな丸いもんって、一体なんなのわん?」
「見たところ、
『土と岩をこねて造ったおまんじゅう』って感じにゃのにゃけれども」
「いい得て妙だな。
あれは『土岩球』といって、
まさしく地中の土地と岩が球の形に固められたものだ」
「でもさ、ミロネ君。どうしてあんなモノが現われたんだい?」
「マザーの記憶に依れば、
いにしえの昔から……では表現が誇大すぎるか……、
天空の村が生まれた時から、
いい換えるのなら、
惑星ウォーレスの上空を漂う浮遊島となった時から、
時折、出没するとのことだ」
「そんな昔から。
ミロネ。奇っ怪獣とは違うの?」
「ああ。
ミスト殿。アレを造ったのは他の誰でもない。
地の妖精だ。。
彼の霊体たちが反乱を起こした結果に他ならない」
「反乱? 地の妖精たちが?」
「いつの世にも、
不穏分子、不平分子というのは多かれ少なかれ存在する。
今の世を、今の自分を是としない連中だ。
どこであろうと、どんな者たちの間であろうと、だ」
「騒乱を起こすきっかけともなりかねない連中ね」
「騒乱といっても、一概にそれがダメとはいえない。
不平分子の大半はアウトロー的存在だが、
中には『革命』と称して自分たちの思い通りの世界を築こうとし、
それに成功したり輩も少なからず居るからだ。
発生した騒乱が良かったのか? それとも悪かったのか?
こればっかりは後世の判断に委ねるしかどうしようもない」
「あのぉ、ですねぇ、ミロネ。
不平分子の一般論はそれくらいにしてくださいませです。
今、問題としなければならないのは、、
土岩球を操っている地の妖精たちでありますよぉ。
彼ら彼女らは一体がなにを不満がっているのか、
それをお聴きしたいのでありまぁす」
「そうね。ミムカのいう通りだわ。
不満の中身次第では、静まらせることも決して不可能じゃないものね」
「ずいぶんと前の話になるが、マザーも神霊殿に尋ねたことがある。
それに依れば、どうやら問題は地の妖精たちの『意識』にあるようだ」
「意識?」
「知っての通り、神霊と呼ばれるガムラ殿は地の精霊だ。
地の妖精にとっては『親分』に当たる存在。
だから、なのだろう。地中のみならず、天空の村全土が、
自分たちの支配下にあると思い込んでいるふしがある」
「だったらガムラさまに、『違う』と説き伏せてもらえば」
「ところが、あながち間違いともいえないのだ」
「へぇ」
「天空の村に関する決定については、
六大精霊全ての同意を得なければならない、との掟がある。
しかしながら、それも状況次第だ。
六大精霊が揃わない、意見がどうしても割れる、
などの特異な事態が発生した折りには、
無条件で神霊殿の判断にしたがう、とされている。
これを地の妖精たちは拡大解釈しているわけだ。
親分の意志一つで、天空の村の動向を左右出来るのだから、
親分が実質の支配者。
ならば、親分と一心同体といってもいい自分たちもまた支配者。
自分たちの思い通りの色に変えてなにが悪い。
とまぁこういう理屈なのだそうだ」
「ずいぶんとまぁ尊大な考えね」
「いや。そうでもないよ、ミスト君」
「というと?」
「みんなの前でこんなことをいうのもなんなんだけどね。
そこんところの考えは地中ネコも似たり寄ったりなのさ」
「そうにゃの? にゃらミクリにゃんも?」
「うん。ボクたちこそ天空の村の支配者、と自負しているよ。
とはいってもね。
『なんかやってやろうか!』なぁんて息巻いている強硬派は、
まぁ皆無とまではいかないにしても、ごくごくわずか。大半が、
『下々のことは下々に任せて置けばよい』の穏健派なんだ。
それで強硬派が立ち上がっても、一斉に、
『まぁまぁ。
ここは一つ、ゆっくりと考えようや』とかなだめまくって、
丸め込めちゃえるってわけ。
ボクたちがことを起こすこともなく、
のんびりとその日その日を地中で暮らしているのは、
そうした裏事情があるからなのさ。
多分、だけど、地の妖精だって同じようなもんじゃないかなぁ」
「にゃら、どうして向こうは騒ぎを起こすのにゃん?」
「一口でいえば、数の多さだよ。
それが、ボクたちの常識が通用しない別世界を造り出しているんだ」
「別世界とはにゃあ。いかにも抽象的にゃ物言いにゃん。
にゃもんで、こちとらには、さっぱりのぱり、にゃん。
にゃあ、ミクリにゃん。
お互いアホネコ同士。
もちっと具体的に喋ってはもらえにゃいのにゃん?」
「あっ、ごめんごめん。つい調子に乗っちゃって
じゃあ、こういえばいいかな。
地中ネコなんかとは較べられないほどの小っちゃい身体が、
『地』という空間に、ものすっごい数でひしめき合って生きているんだ。
あれだけ居たら、なにが起きても不思議じゃないよ」
《ある意味、数が起こす奇跡にゃのかも、と、つづくのにゃん》