第百三十一話『迫りくるモノから逃げるのにゃん』
第百三十一話『迫りくるモノから逃げるのにゃん』
「ミーナさん。あんまりです、それは」
「大丈夫。まだ手が空いている者は居るのわん。
ねぇ、ミストん、ミムカん」
「所詮、誰しもひとりでは生きていけない。
であるなら、困った者同士、助け合うのもまた自然の理、か。
なぁるほどね。一見、身勝手そうに思えるミーナの言動や言葉も、
『苦労は、ひとりにおんぶ、ではなく、みんなで』
という意味にとらえるなら、一理も二理もあるのかも。
……ということで。
それじゃあ、ミムカ。一番仲のいいあなたにあとを任せるわ」
ぱたぱたぱた。
「うわっ! ひとごとでありますかぁ!
どうしてミムカの役回りとならなければならないのでありますかぁ!」
「運命なのです。それが。
ミムカさん。あなたが生まれたのは、
私と一生、添い遂げるためなのですから」
「そんな一生、認めてたまるかぁ、でありまぁす!」
「ほらほら。土岩球がやってきましたよ。
さっさと私の背中にくっついて、ともに逃げましょう」
「んもう! ミムカに選ぶ権利はないというのでありますかぁ?」
「ありませんよ。生まれた時から。
ほら。四の五のいわずに、ちゃちゃっ、と翼ネコになりましょうよ。
私たちはミロネさんとミクリさんみたいに、
『呪の言葉合わせ』なんてまだるっこいことをしなくても、
相性の良さで十分フュージョンが成り立つんですから。
ほら、早く早く」
「急かさないでくれませんですかぁ。
判りました。判りましたですよぉ。もう全くぅ」
ひゅうぅっ!
きかっ!
ぱさばさっ!
「ミムカさん、みなさい。やれば出来るじゃないですか」
「…………」
「おや?
感極まって声も出ない、と。
まぁまぁ。気持ちは判ります。ええ、判りますとも。
それじゃあ、あとはこの前みたいに勝手に飛んでください。
私としては安全運転で、安全な場所に辿り着きさえすれば、
もうなにもいうことはありませんから」
「ふぅ。相も変わらず、丸投げなお方でありますねぇ」
「でないと、とんでもないことになりそうで」
「なぁるほどぉ。
ご自分という存在が、良ぉく判っておいでなのでありますねぇ。
とぉっても納得しましたですよぉ。
ではではぁ、お待ちどうさまでございましたぁ。
ご要望にお応えして飛びますですよぉ。それぇっ!」
びゅうぅん!
「うふっ。
なんのかんのと、ぼやきまくっても、最後はつき合ってくれる。
やっぱりいい娘ね。ミムカは」
「そりゃあアタシのライバルだもん」
「ウチも大好きにゃん」
「ねぇ、ミロネ君。
あのやさしさって、やっぱり『森の妖精だから』なの?」
「さぁな。ただこれだけはいえる」
「なに?」
「オレたちにとって、なくてはならない友だちだ」
「そうだね。その点に関してはボクも頷かざるを得ないなぁ」
「ふぅ。やっと洞穴に逃げ込めたのわん」
「ミーナ殿。安心するのはまだ早い。
この洞穴は風化の度が激しいから、
あんな衝撃を叩き込まれたら、あっという間に壊れてしまうぞ」
「だったら、どうすればいいのわん?」
「も少し先の地面に穴が開いているから、
そこでしばらく身を隠すっていうのはどうだ?」
「なるほどね。それなら洞穴が壊されたとしても、
なんとかなりそうな気がするのわん」
くるっ。
「ねぇ、みんなはどうしたらいいと思うわん?」
「ウチもミロネにゃんに賛成にゃん」
「ボクも右に同じ」
「っていうか、それしかないわね」
「ミムカとしてはですねぇ。
『どこでもいいから、「これ」とのくされ縁を早く切りたぁい』
そんな差し迫った心境なのでありまぁっす」
「ぷふっ。ミムカさんったら、照れちゃって」
「ムカぁっ!
ミリア! 照れて、じゃありませんですぅっ!
怒って赤くなっているのでありまぁっす!」
「飛び込んでみたものの、やっぱ狭……ううん、結構広いわん」
「入り口部分こそ細いものの、下のほうは拡がっているもんにゃあ」
「七にんでこの広さなら十分だね。
ミロネ君。最初から知っていたのかい?」
「むろんだ。
なんといっても、覗き見は保守空間の得意とするところだから」
「ミロネ。そこは『覗き見』じゃなくって、『監視』としたら?
保守空間マザーミロネさまは紛れもなく、大精霊のひとり。
ならば影霊であるあなたも体裁を重んじる姿勢は大事と思うのだけど」
「ミスト殿。これだけはいっておく。
マザーはマザー。レミロはレミロ。そしてオレはオレだ。
一つのモノから派生したものではあっても、
それぞれが個を持つ以上、違う存在と認めてもらわねば困る。
誰それがこうだから、あなたも、などと、
一色単にひっくるめられるのは、それこそ迷惑至極というものだ」
「そうね。ごめんなさい」
「いや。自分の意見を述べただけだ。謝るには及ばない」
《ああまでいわれたら謝るしかにゃいのにぃ、と、つづくのにゃん》