第百三十話『迫りくるモノから守る手荷物にゃん』
第百三十話『迫りくるモノから守る手荷物にゃん』
「うん。みなまでいわなくても判っているよ」
「ほぉ」
「ふたつの心で一つの身体を動かすのって難しいもんねぇ。
ううん、ほとんど不可能といっていいんじゃない?」
「そうだ。だから、この身体は貴殿に動かしてもらい、
オレは意識だけを働かせることにした」
「なるほどね。
それでなんの支障もなく、ボクの思い通りに飛べる、ってわけか」
「とはいえ、こちらにもやりたいことはある。
ミクリ殿。ちょっとばかし、『口』を貸してはもらえまいか?」
「口を?」
ぱたぱたぱた。
「ミロネぇぇん!
……って、あれっ? どこに居るのわん?」
「ここだ。ミクリ殿と一つになっている」
「あっ、ふたりも出来るんだ」
「一応は。
イオラ殿の命の欠片を託されているそちらと違って、
呪の力で工夫をこらさなければならないのが、なんとも面倒だが」
「ご苦労さまなのわん。
そういえば、ミムカんとミリアんも出来たっけ」
「あのふたりについていえば、ミムカ殿の霊力が大きく貢献している。
さすが、『森の妖精』を自称するだけのことはある。
それにだ。理由は定かでないが、
ミリア殿の霊力は相手のそれと感応する力が極めて強い。
だから、やすやすとフュージョンか実現出来る」
「早い話が、相性がいいってこと?」
「に、とどまらない。恐らく誰ともだ」
「これが他の妖精であれば、
不思議な話なのわん、っていうところだけどぉ」
「ミリア殿なら納得。だろう?」
「まぁね。ふふっ」
「それはそうと、少しばかり遅かった気がするが?」
「全ては一緒だった手荷物のせい、ってとこね。
慌てふためいてくれちゃってさ。操るのに一苦労したのわん」
「手荷物?」
ちらっ。
「ミリア殿か。操って、ということは、念動霊波を?」
「うん」
「そうか。……困ったな」
「どうして?」
「実は、今さっき例の奴がミアン殿に襲いかかった」
「えっ!
それでそれで? 一体どうなったのわん?」
「寝ぼけていたらしく、なかなか動き出そうとしない。
だから、『このままじゃあ』とミクリ殿が懸念して、
向こうのほうに吹っ飛ばしたんだ」
「ほっ。
なんにせよ、難を逃れて良かったのわん。
ミクリん、ありがとう。とぉっても感謝するのわん」
「しかしながら、それから先は判らない。
ミアン殿のことだから、大丈夫とは思うが」
「だったら、アタシが追い駆けてみるのわん」
「だが、ミリア殿は?」
「こうするのわん」
ぶちっ。
「うわぁっ!」
ひゅうぅぅっ……べちっ。
「頭から落ちたな」
「大丈夫。霊体だもの。死にっこないのわん」
「それはそうだが」
「んなことよりミアンよ。ミアンが心配なのわん。
アタシ、あとを追ってみるわん」
「やれやれ。
それじゃあ、ミーナ殿。よろしく頼む」
「任っかせなさいわぁん!」
びゅうぅぅん!
「光と化したか。……一刻も早く、というわけだ。
良い親友を持たれたな。ミアン殿」
「ええとぉ。
まだ飛んでいるなら、もうそろそろ目にしたって……居たあっ!」
すやすやすや。すやすやすや。
「あ、あのねぇ」
がくがくっ。あわあわ。
「この非常事態に、すやすやおネムのアホがどこに居るのわん!」
「むにゃむにゃ……ミーにゃん、ここにゃよぉ……むにゃむにゃ」
「うわん! 偶然にしたって、返事にぴったりの寝言なのわん!
……と突っ込む前に、じゃなくって、突っ込んだ後にぃ」
びびびびびび!
「ふにゃふにゃふにゃふにゃ」
「よぉし。ミアンをキャッチしたのわん」
「ふにゃ……おや?
ミーにゃん、お早うにゃん。ええとぉ」
きょろきょろ。
「ええとぉ、こんちお日柄も良く」
「なに寝ぼけマナコをこちらに向けて、
寝ぼけたあいさつを吐いているのわん?
さっさと一緒にここから避難するのわん」
ぱたぱたぱた。
「ぶふっ。ミーにゃんったら、にゃあんか急いでいるみたいにゃん」
「急いでいるのわん!」
「戻ってきたか」
「うん。ミアンも確保したのわん」
「のようだな」
「でも、ミロネん。これからどうするのわん?」
「このまま永遠と逃げ続けるわけにもいくまい。
ミーナ殿。とりあえずは、あの洞穴に逃げ込もう」
「うん。それがいいわん」
ぱたぱたぱた。
「ちょ、ちょっと待ってくださぁい」
「おや? ミリアん」
「おや? じゃありません。
いきなり念動霊波を外して地面に落としたばかりか、
置き去りにしたまま行こうとするなんて。
あんまりです。ひどすぎますよ」
「きゃはっ。ごめんごめん。
でも、しょうがないのわん。
アタシの手荷物は『コレ』で、いっぱいいっぱい、なのわん」
「ミーにゃん。『コレ』って、ひょっとしてウチのことにゃん?」
「ひょっとしなくてもね」
「ふにゃん!」
ががあぁぁん!
「ウチが……ウチが……手荷物にゃんて……」
「だったら、私はどうなってもいいというのですかぁ?」
「ねぇ、ミリアん。
助けられるものなら、助けてあげたいのわん。
でもね。ひとりひとりの力にはかぎりがあるの。でしょ?
だとすれば、よ。不公平だろうがなんだろうがアタシは……、
自分が一番守りたいものを守る!
無意識であっても、救いの手を差し伸べてしまう相手を、
アタシは守る!」
きっぱり。
「そんなぁ」
「どう思われたって構わないのわん。
それがアタシ。アタシはミーナ!」
《手荷物にゃんて……。寝ぼけ頭で呆然としたまま、つづくのにゃん》