第百十話『得もいわれん美しさにゃん』
第百十話『得もいわれん美しさにゃん』
のっしのっしのっしのっしのっし。
ぴたっ。きょろっ。
「はぁうっ!」
ばたん!
「た、大変なのわん!
アタシのアホネコが、『真実を映し出す鏡』の前でいきなり倒れたのわん!」
ぱたぱたぱた。
「ミアン! しっかりするのわん!」
ふるふるふる。ふるふるふる。
「一体なにがあったのわん!
ミアンの動向を細大漏らさずチェックしていたのにさっぱりなのわん。
影日向と見張っていた努力がムダになったのわん。
『なにそれぇっ!』って悲鳴を上げたくなるくらいのがっかりなのわん」
「…………」
「ミアァン!
アタシを残して自分ひとりで逝ってはダメなのわん!
ぜったいに、ぜぇったいに、いけないのわぁん!」
「ミーにゃん……」
「あっ! 意識を取り戻したのわん!
やったわん! アタシの願いが奇跡を生んだのわん!」
「心配をかけてごめんにゃ。ミーにゃん」
「いいわんいいわん。ミアンが無事なら、それでいいわん」
「しかしにゃがら、こんにゃ風ににゃるにゃんて。
ウチとしたことが一生の不覚にゃん」
「一体全体なにがどうしてあんなになったのわん?
さっぱりのぱり、なのわん」
「ことの起こりといえばにゃ」
「ふむふむ」
「最初は『真実を映し出す鏡』の前を素通りするつもりにゃったんよ。
にゃもんで、とことこっ、と歩いていたらにゃ」
「待って。そこは、のっしのっし、なのわん」
「どっちもおんにゃじようにゃもんにゃ」
「違うのわん。
でもってミアンも、『違うのにゃん』って認めるのわん。
でないと、わざわざ見張っていた甲斐がないのわん」
「あのにゃあ」
「誰が、『あのにゃあ』といえ、なぁんていったのわん?
もう怒ったわん。
『違うのにゃん』というまでは、ここをてこでも動かないのわん。
ミアンも動いちゃダメなのわん」
「ここは精霊の間、ウチらの棲み家にゃから、
別に動かにゃくてもいいのにゃけれども……。
ふぅ。しょうがにゃい。
泣く子とミーにゃんには勝てにゃいもんにゃあ。
にゃらばっ。ごっほん」
『違うのにゃん』
「うん。それでいいわん。胸が、すうぅっ、としたのわん」
「ウチは、ほっ、としたのにゃん」
「にゃもんでまぁ歩いていたのにゃけれども、
ふと何気に鏡のほうを向いたらにゃ。これがまぁにゃんと」
「なにかあったのわん?」
『この世の中にこれほど美しいおネコさまが居たにゃんて!』
「それはもう、
はっ、とするくらいの美しさを目の当たりにしたのにゃん。
にゃもんで、にゃろうにゃあ。
次の瞬間、くらくらぁっ、ときてにゃ。
ミーにゃんの叫び声で気がついた時には床に伏して…………おや?
これこれ。ミーにゃん、どこに行くのにゃん?」
「やっと判ったのわん」
「にゃにがにゃん?」
「アタシがムダに時間を費やしてしまった、って。
ムダに、はらはらどきどき、してしまった、って。
んもう、自分で自分に腹が立つくらい、いまいましいわん」
「ってことはにゃ。
美しさに、はっ、としてはいけにゃいのにゃん?
ウチが気を失っているのをを心配してはいけにゃいのにゃん?
ミーんにゃん。あんまりにゃよ。いくらにゃんでもそれは」
「ち、違うわん!
アタシがいいたいのはね。
ミアンが美しいといったのは鏡に映った自分の姿でしょ?
つまり、自分を見て卒倒したのわん。
それなのに、ううっ。それなのに。ううっ。アタシはなんてことを。
本来、笑い話で終わるはずのもんなのに、
はらはらどきどき、してしまった。
そんな自分が許せないのわん。だから、イライラしたのわん。
なもんで、口にしたのわん。『ムダ』ってね」
「そこにゃん!」
「えっ、どこわん?」
きょろきょろ。
「毎度毎度、変わることのにゃいワンパターン。
(ああでも、ミーにゃんにゃら、『わんパターン』かもにゃあ)
お疲れさまにゃん」
「う、うっさいわん。それよりなにが、『そこにゃん!』なのわん?」
「お尋ねの儀あらば、お答えするのにゃん」
「なに気取っているのわん?」
「ごっほん。
一見、ムダとも思える行為。実はそこにこそ、
とぉんでもにゃい未来へのカギが、
仰天の繁栄へと通じるカギが、
隠されているのにゃん。
(久し振りにゃん。『そこにこそ』。
上から読んでも下から読んでも『そこにこそ』。
けだしミリアにゃんの名言にゃ。
それをウチ自身、使う時が来るにゃんて。
いやはや、
未来がどうにゃるにゃんて誰にも判らにゃいもんにゃにゃあ)」
「ほほぉ。
これは新説なのわん。早速伺わせてもらうとするのわん」
「にゃにを?」
「にゃにを、って……。決まっているわん。
未来へのカギについての言及なのわん」
「あのにゃあ。
ミーにゃん。あんた、何百年ウチと暮らしているのにゃん?
一口にムダといっても多種多様にゃよ。
それら全部をひっくるめて、ひとまとめにした発言ないし演説が、
ウチにぶっ放せるにゃんて本気で思っているのにゃん?」
「そうはいうけどさぁ。これでお話は終わり、っていうのもねぇ。
なんだかあんまりなのわん。
ねぇ、なんとからならないのわん?」
「にゃんとかにゃらにゃいかと問われるのにゃら、
そりゃまぁにゃんとかにゃらにゃいこともにゃいのにゃけれども」
「本当に? でも、どうするのわん?」
「一言で済むのにゃん」
「一言で?」
「ごっほん」
『ケースバイケース』
「にゃのにゃん!」
「……いつから、『アチラ』の言葉を使うようになったのわん?」