第十一話『干物に愛を込めてにゃん』
「ツルを使っての木渡りは楽しいわん。
ここら辺は特にね。一本の木から何本ものツルが伸びていて、しかも細いものから太いものまで揃っていると、まさに選りどりみどりの状態。
アタシに合う太さのツルもちゃんとあるのが嬉しいわん。
さてと、それじゃあ今日は……うん。これにしよう、っと」
ぎゅうっ。
「ええと、それでミアンは……」
「ミーにゃあぁん! こっちにゃよぉっ!」
「うふっ。居た居た、って……、んもう、ミアンったらぁ。
ちょぉっと目を放した隙に、まぁた変な真似をおっ始めているのわん」
「ミーにゃあぁん! 早くぅっ!」
「はいはい。判っているわん。
あれこれ考えるより、直に聴いたほうが早いのわん……ってことで。
ミアァン! 行っくわぁん! それぇっ!」
びゅうぅん…………ぱたっ。
「ふぅ。なんか切れそうだったけどぉ。とにかく無事に辿り着いたわん」
「危にゃかったにゃあ、ミーにゃん」
「まっ。結果良ければ全て良しなのわん。
もっともぉ、たとえ落ちたとしても、密林状態のここなら地面には落ち葉がわんさか積もっているから、実体波を纏っている今でも全然痛くないけどね」
「痛くにゃいけど、格好悪いにゃん」
「そうなのよねぇ。ついこの間もさ。ミーにゃん同盟のみんなで木渡りしていたら」
「そういやあミーにゃんったら、一番高く上がったところで、ものの見事にツルをぶっちぎったんにゃって?」
「情けなくもね。で、そのまま、どさっ! なのわん。
みんな、『ねぇ、大丈夫なの?』って声をかけてはくるものの……、顔がね。『こういうのを見るのもたまにはいいわね。面白くて』といわんばかりに半分笑っているのわん。
んもう。恥ずかしいったらありゃしない。今想い出しても顔が赤らんできちゃうわん」
「それってミストにゃん?」
「みんなよ。ミアンも……あれっ? そういえば、ミアンは居なかったっけ。
ねぇ。あん時、どこに行っていたの?」
「ちとお腹がすいたもんでにゃ。近くを流れる小川で魚を釣っていたのにゃん」
「ミアンの魚釣りってアレでしょ?
水面に尻尾の先をつけてお魚さんを誘うっていう」
「うんにゃ。尻尾を上下させるとにゃ。恐らく餌と勘違いしているのにゃろうにゃあ。
我こそはと、争って食いついてくるのにゃん。
でもって口にくわえてくれたら……ぶふっ。ここまで来たらしめたもん。
すぐさま尻尾を振り上げるとにゃ。その勢いでお魚にゃんは尻尾から外れて宙を舞う。
でもって落ちてきたところを……、ジャンプして、すかさず、ぱくっ、とにゃん」
「美味しかった?」
「うんにゃ。にゃかにゃかの味わいにゃった。
と、ここで、ふと気がついたのにゃん」
「なにをわん?」
「生魚はもちろん美味しいのにゃ。しかしにゃがらウチの記憶が正しければ……、
味つけした干物を焼いた奴も、これまた違った美味しさがあったはず、ってにゃ」
「そうかもね。反論はしないわん」
「ウチの全身に震えが起きたのはその時にゃん」
「てんかん?」
「あのにゃあ……。
真実に辿り着いた際、誰もが経験するという武者震いにゃん」
「どぉっちでもいいわん。で? どんな真実に辿り着いたのわん?」
「焼いたから美味いんじゃにゃい。いや、美味しいのにゃよ。美味しいのにゃけれどもぉ。
『干物』を焼いたからこそ、ウチはまた格別にゃる美味しさと出逢えたのにゃん。
つまりにゃ。ごっほん。
陽の光を思いっ切り浴びたことで、お魚にゃんの『うまみ』が更に増した。
『焼く』という行為がその『うまみ』を半端にゃく引き出した。
とまぁこういうわけにゃん」
「ふぅぅん。でもぉ。それが判ったからどうだっていうのわん?」
「ネコもおんにゃじかも、と思ってにゃ」
「ネコも? はて? どういうことわん?」
「干物ににゃれば、おのれのうまみを、持ち味を半端にゃく引き出せるんじゃにゃいの?
ミアンから、パーフェクト・ミアンににゃれるんじゃにゃいの?
そう思ってにゃ。こんにゃ格好をしてみたのにゃん」
「……やぁっと判ったのわん。
『なぁんで木と木の間にツルが張られているのわん?』
『どうして逆さまになってツルにぶら下がっているのわん?』
とまぁいろいろ腑に落ちなかったんだけどぉ。これって干物のつもりだったのわん」
「うんにゃ。でもにゃ。ウチは思い違いをしていたのにゃん」
「そりゃそうよ。いくら干物の格好をしてもそれだけで自分を高められるわけが」
「その通りにゃ。格好だけじゃダメにゃん。本物の干物ににゃらにゃければ」
「本物? それって一体」
「毛皮をはいで生肌をさらすのにゃん。それしかにゃい。それしかにゃいのにゃん」
「ちょ、ちょっと待つのわん」
がばっ。
「ねぇミアン。お願いだから、後生だから、土下座して謝るから、
それだけはやらないで欲しいのわん。
姿も能力も今のミアンでいいわん。今のミアンが最高なのわん」
「今のウチが最高?
はて? 干物の格好だけでも効果があったと、そういいたいのにゃん?」
「んもう! 干物はこの際、忘れるのわん!」