第百九話『過去にゃん、現在にゃん。とくれば、未来にゃん』
第百九話『過去にゃん、現在にゃん。とくれば、未来にゃん』
「ミーナ、ミアン、良ぉく聴いてちょうだい。
わたしたちは今、『現在』という時間の流れの中に居るわ」
「うん。でもミストん。それがどうしたのわん?」
「にゃあんか面白い話でも喋ってもらえるのにゃん?」
「面白いかどうかは別として。
『過去』なくして『現在』は語れない。と同時に、
『現在』なくして『未来』は語れないわ。
『過去』に残した足跡こそが、
『現在』へ、『未来』へと進む礎となるのよ」
「いちいちごもっともなのわん。だけどぉ」
「にゃにがいいたいのか、さっぱりのぱり、にゃん」
「まぁまぁ。ガマンもたまには必要じゃない?
……ということはよ。
『過去』を変えられれば、
『現在』も『未来』も変えられる。
自分の好きな『未来』を築けるのよ」
「えっ。そんなことが出来るのわん?」
「ウチ、ちぃとも知らにゃかったのにゃん」
「あら。イオラさまやフィーネ先生からなにも聞かされていないの?」
「なぁんにも」
「にゃあんにも」
「そう。じゃあどうしようかしら。
ふぅぅむ…………そうねぇ。
わたしも聴いた話だから上手く説明出来るかどうか。
やっぱり、おふたりのいずれからか、教えてもらったほうがいいかしら」
「でもさ。ちょいと気になる話なのわん。
折角、喋り始めたんじゃない。このまま続けてよ。
こっちの好奇心をかき立たせておきながら、
『はい、さよなら』って、 すたこらさっさと逃げるのは、
あまりにも身勝手すぎるというものわん」
「ウチからも頼むにゃ。一応、話すにゃけは話して欲しいのにゃん」
「と熱く語るふたりであった……なぁんてね。
しょうがない。なら、喋ることは喋るわね。
ただ、今もいったように上手く話せるかどうか自信がないの。
悪いけど、それでガマンしてね」
「もちろんなのわん」
「こっちも上手く聴けるかどうか判らにゃいもん。お互いさまにゃよ」
「ありがとう。そういってくれると、すっごく助かるわ。
あとで、
『ああじゃない』『こうじゃない』とか詰め寄られるのって、
好きじゃないもの」
「にゃら」
「うん。続きを話すとしようかしら。覚悟して聴くのよ。いいわね」
「うん。覚悟して聴くわん」
「うんにゃ。覚悟しにゃいで聴くのにゃん」
「ちょ、ちょっとミアン。そんなことをいったら」
「どっちでもいいわ。もう心は決まっているから」
「へっ? ……なにそれ?
なぁんかアタシひとりだけが墓穴を掘ったみたいなのわん」
「過去を変えれば、現在も、未来をも変えられる。
ところが、いざ『過去』に戻ってみたら、
途端に、そこは『過去』じゃなくなるの。『現在』となってしまうの。
これじゃあ、まずい、と思って、
もちっと『過去』へとさかのぼってみたら、
またそこが『現実』となってしまってね。
これじゃあ、まずい、と思って、
また更に『過去』へとさかのぼってみたら、
またまたそこが『現実』となってしまってね。
これじゃあ、まずい、と思って、
またまた更に『過去』へとさかのぼってみたら、
またまたまたそこが『現実』となって」
「ちょいとお待ちにゃさい。
にゃあ、ミストにゃん。それにゃとキリがにゃいんよ」
「ミアンのいう通りわん。
どうしても続けたい、っていうのなら、
次で終わりになるよう取り計らって欲しいのわん」
「事実を無理矢理ねじ曲げることは出来ないわ。
……ということで。
これじゃあ、まずい、と思って、
またまたまた更に『過去』へとさかのぼってみたら、
またまたまたまたまたそこが『現実』となって……あらっ」
きょろきょろ
「居なくなったみたいね」
「ミスト!」
「ドナ」
すたすたすた。
「あの娘たち、帰ったの?」
「ええ。たった今」
「良かったわ。あなたが加わってくれれば、今日中には片づけられそうね」
「そんなに荒らしたかしら?」
「ええ。いつも以上にね」
「そう。ごめんなさい」
「へぇ。今日は割りと素直じゃない。
……にしても、どうしてなの?
『これから忙しい用事があるから』って断わればいいじゃない。
なのに、いっつもいっつも、
とりとめのない話を持ち出しては、
向こうから帰るように仕向けるんだから」
「追い出された、という風に受け取られたくなかったの。
さっきの話じゃないけど、
『過去』に気まずいことがあれば、
それは『現在』に及び、
ひいては『未来』にまでも繋がる。
それだけは避けたかったの。
ミーナやミアンはわたしの大切なお友だちだから」
「あんたにそこまでいわせるなんて。
たいしたもんね。あの娘たちって」
「ミーにゃん同盟の仲間もね。……ミリアはともかくとして。
わたしは、いえ、わたしたちは霧が見る夢の中の存在。
なのに、現実の世界へと出ていける。遊べる。お喋りが出来る。
それもこれもみぃんな、イオラさまのおかげ。
ミーナたちのおかげだもの」
「考えてみれば、こっちよりも不思議な存在かもね」
「ありがたいことよ。出逢えたのをとぉっても感謝しているわ。
……そうそう。あと、もうひとり居るわ。
忘れてはならない、大切な存在が」
「誰なの?」
「いつもそばに居てくれて、なに気兼ねなくお喋り出来る相手。
怒ったり喜んだり泣いたり笑ったりし合える相手よ」
「それって」
「もちろん、あなたよ。ドナ」
「まっ」
ぽっ。
「さぁ行くわよ」
ぱたぱたぱた。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
ぱたぱたぱた。