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絶希  作者: 自来也
第一章 謎多き始まり
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第六話 山積みの問題

風呂から上がると、案の定探野は病室に戻っていた。

「何してたんですか?」

「患者様の御家族が迷ってたからご案内してたのよ。」

「そうなんですか。」

部屋を見ると、刀羅が食べた料理の残骸はどこかへ消えていた。

「美味しかった?」

「ええ。とっても。」

「よかったわ。なんせ、作ったのが一流だからね。」

「ここってほんとに病院ですか?」

刀羅の質問に微笑を浮かべて探野は答えた。

あの食事にしても内装にしても刀羅には病院というか高級ホテルのように思えてしまう。

それでも、医者や看護婦がいるのだから病院ではあるのだろうけど...。

「ええ。けど、あなたは特別なのよ。」

「特別?何で?」

「うーん...なんていうかね...」

探野は困り顔になって思案しているようだ。

困り顔をやめて答えを出したようだ。

「まあ、そこら辺はあの人に聞いて。」

答えは曖昧なものだった。はぐらかされていると言ってもいい。

「あの人?」

「うん。そっ、君の見舞いにいつも来てくれる女の子達と最初に一緒に来た男の人。」

「あー」

あの人とはおそらく荒井のことなんだろう。

確かに、あの人なら何かやりそうだが、ここまでのもてなしを果たしてわざわざさせるのだろうか。それは甚だ疑問である。

「私詳しいこと分からないし」

詳しいことは分からなくて何故荒井なら話せるとどうして分かるのかも疑問だが、それを聞いたところで意味はないだろう。

「9:40」予定通りなら母は20分後に来るはずだ。

とりあえず荒井に連絡をすることにした。

明陽にも連絡をするべきなんだろうが、きっと今は授業中だろうから、昼休みの時間にLINEをしようと思ったしだいだ。

荒井にもLINEで済ませるつもりだ。

あの人は何だかんだ忙しいだろうという考えたからだ。

荒井から貰った連絡用のスマホを取り出した。

そこで、刀羅は単に意識を取り戻したということだけを報告するだけでいいのか、それとも他にも色々と伝えるべきなのかを迷った。

結局、意識を取り戻したことだけを報告した。

しばらく待ってみたが、既読もつかないので床頭台の上に置いた。

「女の子に連絡したの?」

「違いますよ。」

「なーんだ。つまんないの。じゃさっきの電話は?」

人のプライベートにズケズケと入ってき過ぎである。

もう、嫌というよりは面倒臭い。

「母さんですよ。」

答えなかった場合さらに聞かれそうな気がして答えてしまう。

「心配してたでしょ?」

「はい」

「そうだよね。私また用事入っちゃったから行かないとなんだけど大丈夫?」

また、用事とはさっきの男云々の話なのか疑いたくなってくる。

「あなたってどういう立場の人なんですか?」

「私?私は一応君専属ってことだったんだけど君元気そうだからさ、他のとこにも駆り出されちゃったの。」

そんな杜撰ずさんな管理体制でよく病院が成り立っていたもんだ。

「まあ、そういうことだから。」

扉の前まで行って探野は急に刀羅の方に向き直った。

「忘れるとこだった。はい、これ。」

そう言って探野が手渡し的なのは小さく折りたたまれた厚紙だった。

表紙には『蘇生合東京病院』と書かれている。

「何ですかこれ?」

「この病院のパンフレットよ。」

探野はニタニタと笑っている。

こんな病院名なはずがない。刀羅が騙されるのを楽しみにしてるんだろう。

だか、御生憎様おあいにくさまだ。こんな簡単なイタズラに引っかかるほど刀羅は間抜けじゃない。

「漢字間違ってるんじゃないですか。『蘇生合東京病院』なんて。」

「それで、合ってるわよ」

「マジですか?マジで『総合』じゃなくて『蘇生合そうごう』なんですか?」

「ええ。そうよ。」

いや、冗談に決まってる。どうせ、刀羅が騙されるかを試してるだけだ。

「いや、嘘ですよね。いくら何でもこれはないんじゃないですか。」

「私も最初嘘だと思ったんだけどね。本当にこの名前だから。」

「ないない。それはない。流石にこれはないですよ。」

「頑固ね。それなら、見舞いに来てくれる人に聞いてみな。私時間ないから行くわ。じゃあ、後で。」

そう言い残して探野は出ていってしまった。

「逃げられた...」

母が来る時間も迫っているし、状況的には色々と結果オーライだ。

病院の名前についても母にパンフレットを見せずに聞けばいいだけの話だ。


母の到着は予定の「10:00」から、10分ばかり遅れた到着だった。

両手に大きい袋を持って現れた。

「元気?」

母は開口一番そう言って、病室に入ってきた。

「まあね。見ての通り。」

刀羅はベッドの上でシャーペンと紙を用意して待機していた。

病院名について聞くつもりだったが、母の格好が病院に来るには少し派手過ぎる気がした。

実際、母はあまり派手なものよりは地味めのもの好むのでそれには違和感を覚えた。

「この後、どっか行くの?」

「ん、ああ、昔の同僚の結婚式にね。」

昔の同僚っていったてもういい歳だろうに結婚式を挙げるのか。

言ってしまえば、偏見だと言われ面倒なことになりかねなさそうなので、心の中で留める。

母が買ってきたものを仕舞い終えるのを待って、お待ちかねの疑問解消に取り掛かる。

「まあ、いいや。とりあえずさ、ここの病院名その紙に書いて?」

「ん?何で?」

「いや、まあいいから。いいから。」

母が書いた病院名は驚くべきことに『蘇生合東京病院』であった。

「マジかよ...」

「何か言った?」

「いや、何も。はぁ」

最後の溜息は聞こえない様に小さく漏らす。

まさか、本当に『蘇生合東京病院』であるとは、何とも常識外れかつセンスのない名前だ。

蘇って生まれるのでは、1度死んでいることになる。いや、これは物騒すぎる。ぐにでもこんな名前を変えるべきだ。

「明陽ちゃんには連絡したの?」

「まだだけど。」

「早くしなさいよ。あの子が1番心配してくれたんだから。」

「今は駄目でしょ。学校が昼休みのときにするよ。」

「そう?なら、いいわ。」

刀羅は買ってきてもらったジンジャーエールでも飲もうかと母が冷蔵庫に入れたのを取り出そうとする。

「ねぇこれ何?」

「見れば分かるでしょ。コーラよコーラ」

「いや、何で?俺ジンジャーエールって言ったじゃん。しかも、何で1.5リットル2本なんだよ。多いわ!」

「あれ、そうだっけ?まあ、いいじゃん。どうせ明陽ちゃん達も後で来るんだから。」

「あ、そだね。ってなるか!1本でいいわ!2本も飲めんし飲まんわ!」

「なんなら、もう2,3本いる?」

「聞いてた?いらんっての」


それまでソファに座っていた母が立ち上がって、キャスター付きのテーブルのとこまできて、刀羅と向き合う。

一気に母から感じる雰囲気が鋭さを増す。

「あんた、テスト大丈夫なんでしょうね?これで、酷い点数だったら許さないわよ。」

こういう時の母には逆らえない威圧感がある。

起きてから今言われるまで忘れていたが、テストとは、来週の水曜から行われる前期中間考査だ。

「まあ、授業の感じなら大体の教科は問題ないけど...世界史とか生物の暗記系はちょっとまあ、微妙だけど。」

「随分弱気な発言ね。」

これは、刀羅を煽る母の決まり文句の一つだ。

「明陽のノート見せてもらったけど、あいつの前半部分あんま書いてねーし、たまに絵とか描いてたりするから何とも言えんのさ。」

刀羅のこの発言を聞いた母は溜息を漏らす。

刀羅は構わず、言い訳を続行する。

「それに、授業中に教科担任が言っただけのことはメモしてないから。もし、そこら辺から出せれることになると取れないし。」

「分かったわよ。仕方ないわね。今回だけよ。」

どうやら、刀羅の言い訳が通ったようだ。

「うん。」

「ただし、総合で学年10番には入りなさいよ。」

訂正、あまり言い訳通ってなかったようだ。

「言われなくても。」

勘違いしないでもらいたいが、別に母に言われなくても総合では学年1位を目指すつもりだし、あの学校で刀羅が遅れとるというのは想像出来ないし、したくもない。

最初の定期考査2週間前というのに寝てるやつらばかりで、まともに授業も聞いてるやつのほうが少ないというのに、どうして刀羅が負けようか。

「言ったわね。」

母の目が鋭いものから、『してやったり』と言うかのような目に変わった。

「それじゃあ。私もう行くわ。」

「あ、うん。行ってらっしゃい。(家じゃないけどね)」

()の部分は母には聞こえないように言う。

「行ってきます。(家じゃないけど)」

()の部分は刀羅に聞こえないように言う。

お互い聞こえていないのに抱いたものは同じだったようだ。


母が去ってやっと1人冷静でいられる時間が持てたと言っていい。

さっきまではこの病院名が気になっていたし、来客があると分かっていて、あまり長い時間1人ではない事が分かっていたから、敢えて何も考えなかった。

その前までは探野がいたし、その前はあまりの空腹にまともな思考ではなかった。

荒井に送ったLINEも母が去った後に見たが、やはり既読はついてなかった。

きっと、忙しいんだろうと考えてしばらく放置することにした。

明陽への連絡はまだ、時間的に止めておくのがいいという結論に至り、それも放置した。


「第1にあいつらは何故、魔法を使えるかだな。これは結局異世界人ってことだから。それとも、人体実験によるものか。」

呟きながら、バッグに入っていたノートに書き込む。

4日前に刀羅が戦った男は異世界人と言っていた。

勿論、それを鵜呑み出来るはずもない。

しかし、他の可能性も低いように思える。

「人体実験と異世界人ねぇ。どっちもどっちだな。」

2つを丸で囲み下に線を伸ばす。

「まず、異世界人だとして。何故、明陽を狙う?そもそも明陽が欲しいのか?それとも、明陽の持ってる何かが欲しいのか?」

刀羅は動機を挙げてみるがそれよりも先に考えるべきことがあると気づく。

「てか、そもそも何で明陽の居場所が分かる?探したから?何かを感じたから?誰かが教えたから?」

探すにしたって対象が分かってなきゃ意味がない。

なら、やはり何かを感じたのか、誰かが教えたのか。

「何かを感じて明陽を見つけられるなら、どうやったって見つかるな。けど、誰かが教えたなら...誰が?」

誰かが教えたということはあの時、明陽がデパートにいた事を知り得る人物。

「俺、明陽、雪、明陽の母さんに、荒井。」

除外出来るのは状況的に自分だけだ。

しかし、明陽にしても雪にしてもわざわざ危険な目に遭うようなことを教えるだろうか。

明陽の母さんは確かに自分が危険な目に遭うようなことはないが、明陽のことを危険に晒すとも思えない。誰かに操られていたというなら、別かもしれないが。

荒井も知っていたが知らせたのはあの男の尾行に気づいてからだ。


「マジで偶然か?」

最も楽な回答を口にするがそれはないと直ぐに否定する。

「対象を知らせることは荒井にだって出来るけど..」

もし、尾行がデパートに入るより前からなら、荒井だって...。いや他の誰にだって出来る。

「クソっ、絞りきれねぇ。」

とりあえず誰かがスパイって可能性は捨てきれないが、全員確証が無さすぎる。

「あの男が偶然明陽のいる所にいた。本当に偶然か?」

偶然にしては出来すぎている。

2ヶ月前にのことしても...。

「2ヶ月前のやつと同一人物?いや、多分それはない。」

これだけは刀羅の中で確信めいたものがある。

2ヶ月前の男よりはチャラかったような感じがあるし、声も明らかに違う使う魔法も違う。4日前の男は火を2ヶ月前の男は真空派のようなもの(ということは風ということになるのだろか。)を使う。

それに、2ヶ月前の男よりは、弱かったように思う。

そういった部分では全然違う。

しかし、魔法使いであること明陽を狙ったこと突然現れたこと。

これらは一致していた。

「人体実験はうーん...呪文唱えてたしな。人体実験なら、わざわざ言わねぇよな。ってことは異世界から来た魔法使いなのかよ。」

そう結論付けた。

そこで今、自分が言っていることを思い返して、只の頭いかれた中二病野郎か、精神病かなんかじゃないかと言われても否定できないなと苦笑する。

「これ以上はあの人から、情報貰えねぇと無理だな。」

相手のことについてはだ。


刀羅の考えるべき大きな問題の一つそれは、

「あの力はいったい?」

そう、刀羅が今ここで生きいられるのは男が放った火球をおそらく刀羅が発露した何らかの力によって防げたからだ。

もし、あの時その力が発露しなかったら、刀羅は確実に焼け死んでいたことだろう。

「まず、あれどんな種類の力なんだよ。魔法?それとも...思いつかん。とりあえず魔法ってことにしとこう。」

「そもそも、魔法の基準ってあんのか?いや、そこは今はいいか。問題はあの力が制御出来るかだけど...」

実際、力を使うというよりは発生させていたと言った方がいい。

発生させている間、刀羅は己の奥底から湧いてくるこれまでに感じたことのない恐怖と、最後の記憶の断片を思い出す。

火の中で咆吼ほうこうする自分の姿。

「多分制御出来ねぇんだろうな。ってことは、頼れねぇな。」

制御出来ない可能性があるなら、それには頼れない。

「てか、頼る云々の前に発動条件も分かんねぇじゃん。これって、どうやって発動させないようにするかも分かんねぇってことじゃねぇか。」

うっかりで発動して、気づいたら皆死んでました。では、済まない。

「もうちょっと真面目に考えるか。で、発動条件は...」

刀羅なあの力を発生させた時、周りは特に変化があったわけではなかった。

「はずだけど。敵に集中し過ぎて周りのことなんてよく覚えてねぇや。」

頭を掻きむしる。

「ダメだ。思いつかねぇ。そもそも、不確定要素が多すぎんだよ。あー、頭おかしくなりそうだ。」

これ以上考えたところで分からないものがただ、複雑化するだけである。


ノートを閉じてバッグに戻して、探野に貰ったパンフレットを開く。

開くと中には院内図が書かれていた。

流石に何号室というのは載っていないが、患者がいるのは6階から10階まで1〜5階には検査やら、何やらと細かく分類すれば色々と違うのだろうが、刀羅がそんなこと分かるはずもない。

1階には食堂、内科、小児科、リハビリテーションと書かれてあった。

「リハビリかぁ...」

リハビリの場所なら、ジムのような器具があるかもしれないという刀羅の偏見というか、願望から刀羅は頭を悩ませる。

もし、刀羅がいない時に誰か特に荒井が訪れたらどうする?そもそも、この部屋から出ていいのか?

「書き置きしておくか。」

結局、疑問を全て置去りにして行くことにした。

『リハビリテーション室に行ってきます。』とだけ書いたメモ紙をキャスター付きのテーブルの上に置く。

スマホやら、財布等の貴重品を先程見つけたバッグの中に放り込む。

その前に、荒井との連絡用の方を確認する。

刀羅は、「11:20」とロック画面に表示された時刻を確認する。

しかし、相変わらず返信どころか既読もついていない。

「そのうち見るでしょ。」

電源を切って、バッグに入れそのまま刀羅は病室を出る。

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