第四話 恐怖と不安
時刻は5月29日の午後3時30分。
刀羅が高校に通い始めた週の休日だ。
つまり刀羅が高校生になって初めての休日となる。
刀羅は今、明陽と雪とともに近所のデパートに来ている。
本来この日は刀羅が明陽の家でこれまでの授業のノートを見せてもらい分からないところは教えてもらうはずだったのだ。実際、それはノートを見ることだけで事足るりものばかりで刀羅が教えて貰うということはほとんど無かった。
むしろ刀羅のほうが主要教科ができたため明陽に教えるという中学のときと同じ構図になってしまった。
副教科のほうは前期末までにやればいいので問題はない。
明陽に数学を教えてる時に突然雪が普段から使っているバッグを背負ってやってきて「買い物に行こう!」と言って刀羅と明陽をこのデパートに半ば強引に連れられてきたのだ。
「このスカート可愛いー」
「こっちの方が可愛いって」
そう言って赤いミニスカートを掲げるのは雪だ。
「やっぱこっちの方が可愛いって」
雪に対抗して明陽は黄緑のロングスカートを掲げる。
「「刀羅はどっちの方がいい?」」
今まで刀羅そっちのけで話をしていたのに二人して同時に刀羅に詰め寄ってくる。
普段は大人しい明陽もオシャレのこととなるとこうやってムキになる。
どちらか選べば、選ばなかった方から攻められるだろう。だが、どちらも選ばなければ両方から攻められるだろう。
しばらく考えて
「うーん。こっちかな。」
と言って明陽のほうを指さす。
「やった!」
と言って小さくガッツポーズをする明陽の横で雪は悔しさで顔を歪めていた。
そんな光景を見ながら自分の場違いさを今更ながらに実感し恥ずかしくなってしまった。
刀羅は明陽から目が離せないのもあって行動を共にしているが、女子2人に対し男子1人となれば自然女子の行きたいところが優先され普段なら行かないような場所も行くことになった。
さらに刀羅は木刀を持ち歩いているせいで余計に場違いさが増していた。
「お腹空いたから何か食べよー」
雪がそう言ったのは服屋の次に行ったアクセサリー店でお揃いの指輪を買った後だった。
最初はネックレスかペンダントにするはずだったのだが明陽がすでにペンダントを持っていたので指輪にしたのだ。
「そうだねー何食べたいの?」
「甘い物!」
「...具体的には?」
「うーん。あれ、あれ、えーと」
雪は何を食べたいのかしばらくは思い出せなさそうだ。
「刀羅は何が食べたい?」
「俺は何でもいいよ。明陽は?」
「私はパフェかな」
「ヘビーだな」
と言って刀羅が笑うと明陽が頬を膨らませる。
「あ、分かったラーメンだ」
「「えっ?」」
あまりの驚きに刀羅と明陽の声が重なる。
「いや、お前さっき甘い物がいいって」
「うん。だからラーメン。」
「マジで言ってんの?」
「うんマジ。」
雪が本気で言っているということを理解して刀羅と明陽は唖然としてしまった。
その後流石にラーメンは食えないということになり明陽の希望であったパフェを食べることになった。
おかげで刀羅はまたまた場違いな場所に行くことになった。
今の刀羅の持ち物を考えればどこに行ったって場違いだろうが、流石にここに入るのは躊躇った。
明陽と雪はフルーツパフェを頼み、刀羅はコーヒーを頼んだ。
「このあとちょっと行きたいとこあんだけど」
そう言ったのは刀羅だった。
「どこ?」
と聞いたのはすでにパフェを食べ終わった雪だった。
「それは行ってからのお楽しみ」
「えー何で?」
「何でも。」
そこで雪は追求するのをやめた。
そしてまだ食べ終わらない明陽にちょっかいをかけ始めた。
刀羅はスマホを両手に持って操作する。
左手に持っている方は地図を表示し右手に持っている方はある人とのLINEの画面だ。
「まだなの?」
雪は20分ほど歩いたころには飽きてたらしくもうこれで6回目だ。
「もう少しだから」
と言うがこれも6回目ともなる流石に信じてはくれない。
「ほんとに?」
「ああ、あと3分くらいのはず。」
刀羅は時計を見ると時刻は午後6時20分であった。
ーまだ早いな
「少し休むか?」
雪は首を横に振るが明陽は首を縦に振った。
明陽はもう息があがってしまっている。
それもそうだ今まで結構な距離を歩いてきたし、さらに途中からはずっと登りだったのだから。
普段から運動をしていなと相当キツイだろう。
だから、雪が息があまり上がっていないのが不思議だった。
「話しておきたいこともあるから少し休もう」
そうして刀羅達は5分ほどの休憩をして目的の場所へ向かった。
「2人とも俺が合図したらさっき言った通りにするんだ。いいな?」
明陽と雪は頷いたが顔には不安の色濃く映っている。
「大丈夫だ心配すんな。」
刀羅は2人に笑って言うが2人の不安は消えるどころか一層増した様子だ。
ーまあ、仕方ないか。
そう思っていると目的の場所が見えてきた。
それは後ろを森に囲われた廃工場であった。
刀羅達が今いるのは町外れの廃工場だ。
ここは不良の溜まり場になっているため一般人が来ることはまずない。
ーよし、人はいないな。
「いい加減出てきたらどうなんだ。」
刀羅がいくらか凄みの増した声で言った.。
「やっぱバレてたわけか。」
刀羅よりも一層低くしかし、茶化すような声が返ってきた。
その男は刀羅達が今さっき入ってきた入口のところに立っていた。
男は浅黒い顔に笑みを浮かべ、この場には不釣り合いな黒いスーツに身を包み黒い革靴を履いたその格好はまさにサラリーマンだ。
男はそのまま刀羅達の方へ歩いてくる。
刀羅達から400mほど離れたところで男は立ち止まった。
「いつから気付いてた?」
「変だと気付いたのは服屋で見た時、そして確信したのはアクセサリー屋であんたを見た時だ。」
「大分早いな。結構自信あったのにな。」
男はそう言って笑った
「今日は土曜なのにサラリーマンが服屋とかアクセサリー屋うろうろしてたらおかしいだろ。」
「こっちの世界の男はこの格好してるやつが一番多かったんだけどな」
ー『こっちの世界』ってことはこいつは、
「お前何者だ」
「俺は、そうだなー簡単に言えば異世界人ってところだな」
ー異世界人ってことはこいつも魔法が使えるってことか。
「お前の目的は何なんだ」
「俺の目的はその女だ。」
そう言って明陽を指差した。
「何故明陽を狙う」
「それは3つ目だ答える義理はねぇな」
男は吐き捨てるように言い、手を前に出した。
「大人しくそいつを渡せばお前らは見逃してやるよ。ほら、早く。」
刀羅は「ふっ」と笑うと
「誰が仲間売るかよ!」
そう言って刀羅は胸の前で木刀を構える
「交渉決裂だな。」
そう言った男の声には茶化すような様子は消えていた。
男は前に出した手を引っ込め明陽目掛けて走り出した。
「逃げろ!」
刀羅の声を聞いて雪が逃げ出そうとするが、明陽はその場から動こうとしない。いや動かないのではない、動けないのだ。
明陽は自分が狙われているという恐怖、あの日の悪夢を思い出してしまったからだろう。
「雪!明陽を!」
「分かった!明陽!」
雪は明陽の手を握って走ろうとする。
しかし、明陽は手を振りほどいて刀羅に一歩近づいて
「刀羅!」
叫ぶように言う。
刀羅は一瞬振り向きけかける。
「私、私ー、」
「明陽!俺は前とは違う絶対に戻ってくるだから逃げろ!」
刀羅は明陽の言葉を遮りそう言うと、明陽の返事も聞かず刀羅は100mほどの距離まで迫ってきた男に向かって右手に木刀を持って走り出す
※※ ※※ ※ ※ ※ ※※ ※ ※※※ ※ ※※ ※※ ※ ※※ ※※ ※ ※※※ ※※※ ※※※※
「明陽!走って!」
雪が言うが、明陽は一向にその場から動こうとしない。
「早く!」
と言って明陽の手を強引に引く、
「待って!刀羅が」
また手を振りぼとこうとするが雪が力を強くしたせいでそれは阻止される。
その時刀羅目掛けて火球が飛んでくる。
だが、それを右に避けてかわし刀羅は火球の後ろ火球を出した男に突っ込んでいった。
そして、宙に浮いたのは刀羅ではなく男のほうだった。
「ほら、刀羅なら大丈夫だから。行くよ!」
それでも明陽は頑なに動こうとしない。
「いい加減にして!私達がいても刀羅は助けられない!むしろ足でまといにしかならない!」
そう言って雪は明陽の手を握る力を強めて今度こそ入ってきた入口とは反対側にある窓に向かって走り出した。
雪の言っていることは正しい。
それは明陽にもわかっている。
だか、ここで今ここで逃げてしまったらあの日のようにまた、大切な人を失うんじゃないか明陽にはそう思えてならない。
「それに刀羅には勝算があるんじゃない。」
「えっ?」
勝算があるなど考えてもいなかったことだ
「だってこんなとこに連れてきたのは刀羅じゃん。」
ー刀羅には勝算があるんだ。そうだ。きっとそうだ。
明陽はそう思うことで不安が消えた訳では無いが雪と共に逃げれるようにはなった。
窓に着くまでに明陽は5回は刀羅の方を振り返った。
その度に止まりそうになるのを雪に急かされた。
明陽達が窓のところにつく頃には戦いは過激さを増していた。
窓を開け、最後に刀羅の方を振り返って外に出た。
そして、しばらく走ると開けた場所に出た。
そこには刀羅が言っていた通り飛行機が数台止まっていた。
黒いスーツに身を包んだ180cmほどの痩せすぎと言えるほどの男が出てきて明陽達の方へと歩いてくる。
「明陽ちゃんと雪ちゃんだね?無事でよかったよ」
雪は一歩前に出て相手の姿を見て
「あんたが荒井さんか?」
と無愛想に聞く
「うん。そうだよ。」
そう言うと今度は荒井が明陽達を見て首を傾げた。
「ところで刀羅君はどうしたんだい?」
「刀羅は、私達をつけてきた男と戦ってます。」
明陽がいくらか震えた声で言うと
「何だって!?」
荒井は目を丸くして驚くと、すぐに溜息をこぼした。
その後しばらくトランシーバーで話すと
「とりあえず、この中に話はそこで。」
荒井はそう言って明陽達を一番大きな飛行機の中へと乗らせた。
飛行機の内部は機械だらけで椅子は長くて黒いのが両サイドに2つあるだけだ。
荒井は飛行機の奥に入っていった。
明陽と雪もそれに続く。
「座ってていいよ。」
荒井がそう言うので向かって右側の椅子に二人並んで座る。
雪はバッグを重そうに下ろした。バッグには刀羅の持ち物も入っていた。それらは休憩中に刀羅が雪に頼んで入れさせて貰っていたのだ。
「何か飲むかい?」
荒井が穏やかにそう問いかける。
「あたしオレンジジュースで」
と雪が軽い調子で言う。
「明陽ちゃんは?」
「私もオレンジジュースで。」
明陽はこんなときにと苛立ちを覚えた。
「まあ、焦らないで。はい。これ。」
明陽の心を見透かしたように言って、オレンジジュースを渡してくる。
明陽達がこれまでの経緯を説明し終えると荒井は立ちあがった。
「つまり刀羅君は今、1人で火の魔法使いと戦っているわけだ。」
「はい。」
明陽が答えると荒井はまた溜息をこぼした。
「たくっ彼は何を考えているんだ。」
荒井が呟くような声でそんなこと言い、頭を掻き回す。
「刀羅は、...」
「無事なんですか?」と口にしようとしたその時明陽達が今来た方向から盛大な爆発音が聞こえた。
その場にいた全員がその方向を見る。
そこには山火事のように真っ赤に燃える森があった。
明陽は左手にはめた指輪を触った。
ー刀羅
※※ ※※ ※ ※ ※ ※※ ※ ※※※ ※ ※※ ※※ ※ ※※ ※※ ※ ※※※ ※※※ ※※※※
男は右手を前に出し刀羅の方へ向ける。
「邪魔だ!バグニル!」
男の手のひらから人の頭ほどの火球が飛んでくる。
それを右に飛んで避け、男との距離一気に詰める。
「っんな!?」
「うおりゃぁぁぁあ!!」
男は攻撃を刀羅に避けられた動揺でガードをするのが一瞬遅れ刀羅の斬撃をまともに向け、男は吹っ飛んだ。
刀羅は追撃せずに木刀の先を倒れた男に向け
「お前は火の魔法使いってとこか?」
男は刀羅の斬撃を直接受けた右脇腹を手で押さえて立ち上がった。
「お前何故避けれた?」
「俺は前に魔法使いと戦ったことがあんだよ。」
「それでか。」
刀羅の斬撃のダメージもほとんど回復したようだ。
「んじゃ、あの女の前にまずお前から殺ってやる。」
「出来るもんならやってみろ。」
刀羅は木刀を右手にもち走り出し、男は右手を前に出しまた刀羅へ向ける。
「バグニル!バグニル!バグニル!」
3つの火球連続で刀羅に迫る。
1つ目を右に飛んで避け、2つ目をさらに右に飛んで避け、3つ目を左に飛んで避ける。
しかし、そこには拳を構えた男が待っていて、刀羅がそれに気づいた時にはすでに右ストレートを繰り出していた。
刀羅はとっさに何も持っていない左手でガードする。
しかし、次に繰り出された左アッパーをもろに鳩尾に食らってしまう。
「うがっ!」
さらに男は回し蹴りを繰り出してくるそれを右腕全体でガードする。
しかし、刀羅は2mは吹っ飛ばされ、横倒しになる。
「その程度か。」
今度は男が刀羅を見下す形で言う。
ーくそっ!何でこんな強ぇんだよ!魔法使いだろ!
刀羅は肩で荒く息をしながら立ち上がる。
「舐めんじゃねぇ!」
刀羅は勢いよく走り出した。
「そうこなくてはな」
刀羅が斜め右上に斬り上げる男はそれを後ろに飛び退いてかわし、斬り下ろす、水平斬りその全てをかわしたところで男が反撃に出る。
刀羅の懐深くまで入り込んできて右アッパー、左ストレート、右、そして回し蹴りを繰り出してくる。それを全て避けると今度は刀羅が木刀で応戦する。
そんな攻防が5分ほど続いた。
「さて、そろそろ終いにしよう。」
男は距離をとって今度は右手だけでなく両手を刀羅に向ける。
「終わりだ。ギル・バグニル!」
詠唱と共に放たれた火球はゆうにこれまでの20倍はあった。
大き過ぎて遅く見えるがその火球の速さは相当なものであり、最早避けられない距離まで迫っていた。
刀羅はその大きさに死の恐怖さえ覚えた。
だが、刀羅の闘志は消えていなかった。むしろ、今までにはないほどたぎっていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉお!!」
雄叫びあげ巨大な火球に突進した。
せめて一矢報いるため、この火球を走り抜けようとしたのだ。
すると刀羅が火球と接触する寸前で火球が一瞬で消えた。
だか、刀羅はそのことには気づかない。
目の前には驚愕で体を硬直させた敵がいる。
刀羅は渾身の回転斬りを叩き込む。
男はそのまま向って左横の壁に激突するまで吹っ飛んだ。
男は受身も取れずに地面に体をぶつけながら転がり、最後にはほとんど勢いが収まらないまま壁に激突した。
男は全身から血を流し、白いワイシャツを血で赤く染めズボンはズタズタに破れている。
そのダメージではもう意識を保っているのもやっとのはずなのに男は立ち上がった。
この時刀羅は自分が何のダメージも負っていないこと、周囲に高温の水蒸気があることに気づいた。
ー何故、傷がない?この水蒸気は何だ?いや、今はそんなことよりあいつだ。
そんな疑問は解決されないまま、立ち上がった男を見る。
その目には怒りが色濃く映り、全身から発せられる闘志や殺気は斬撃を食らう前よりも高まっているようにさえ見える。
「お前はここで殺す!いや、殺さねばならない!絶対に殺さねばならない!」
男のその言葉には明確な殺意と焦りそして恐怖を感じているのが刀羅には分かった。
故に刀羅は疑問を抱かずにはいられない。
何故、焦りや恐怖を感じているのかと。
しかし、疑問は増えるだけで解決はしない。挙句疑問について考えている暇さえもなくなった。
何故なら男が刀羅に向かってまたも両手を向けたからだ。
「ギル・バグニル!!」
男はまたも巨大な火球を放つ。
今度はそれを右に走って避ける。
男は右手を下ろし、左手だけを前に向ける
「バグニル!バグニル!バグニル!バグニル!バグニル!」
男の詠唱は続き火球は次々と放たれる。
刀羅はそれを右に左に走って避ける。
あまりの多さに何発かかすってしまい、服には穴や焦げが目立つようになり、火傷も増えダメージは徐々に蓄積されていく。
男のほうも刀羅が与えた斬撃のダメージとは別の理由で疲れているようだ。
ー魔法の使いすぎか?
男は朦朧としていて、目は血走り冷静さは失われていた。
しかし、男の目ははっきりと刀羅を捉えている。
男はまた両手を刀羅へと向ける。
おそらく男の最後の攻撃になる。刀羅はそう確信し木刀を前に構える。
「デ・バル・バグニル!!!」
男が唱えたのはさっきまでとは異なるものだった。
そして放たれた火球は工場の横幅を全て埋め尽くすほど大きいものだった。
「くそっ!まだ、こんなのを隠してたのかよ!」
あまりの強大さに刀羅も尻込みする。
そして、この時男の狡猾さを刀羅は思い知ることになる。
男は入口を背にし、刀羅は明陽達が出て行った窓の方を背にしていた。
この工場は横幅のほうが縦幅よりも狭い構造になっていた。
しかも刀羅は入口から近い方で戦っていたせいで男の攻撃は最大の威力を発揮した。
刀羅に退路はもうない。
それならばと刀羅はまたも火球に突っ込んで行く。
さっき起こった現象に刀羅は賭けたのだ。
唯一生きられる可能性がある選択肢に。
火球との距離があと3歩というところまで迫った時、刀羅は自分の目の前に青い膜状のものが広がっているのを認識した。
ー水か
その水の膜は刀羅を包み込むように張られている。
刀羅はそのまま超特大火球に当たる。
水の膜のおかげで刀羅は火に直接は当たらないのだが、周りには高温の水蒸気が発生し、喉が焼けそうな感覚を味わう。
ーやっぱさっきのはこれか。
火球の中で水の膜に包まれながら刀羅はさっき起こった現象が何だったのかを理解する。
そして、刀羅の意識は段々と何か得体の知れないと強い力に呑み込まれていき、高温の火球の中であるというのに熱さを感じなくなっていく。
だか、その感覚は嫌ではなくむしろ心地よいとさえ思えてしまう。このままこの感覚に身を任せてしまいたい気持ちになってしまうほどに。
しかし、刀羅は突然その力に対しての訳の分からないほど強い恐怖を感じた。
この恐怖が何に対しての恐怖かなど考えている暇もなく、どうにかして呑み込まれていく意識をかき集め得体の知れない力に呑み込まれまいと抗うが、最早それも叶わない。
刀羅が消えゆく意識の中で最後に捉えたのは力に呑み込まれた自分が、いや自分だった何かが咆哮を上げる姿である。
遂に刀羅の意識は途切れてしまった。




