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絶希  作者: 自来也
第二章 高校生影月刀羅
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第八話 歪な探り合い

踏み入ってしまった領域。

そこに何があってそこで何をしなければならないのか。その全てを知らない。

語られたのは到底真実とは思えない内容。見せつけられたのは現実とは思えない数々の光景。その中で思い知らされた自身の無力さと無知さ。

そして、理解する。これでも半分にも満たない世界の一端であると。

襲い来る容赦ない集団。まさに人外の身体能力で敵を打ち倒すムラマサ。それが人体改造で得たという道徳的倫理観を無視した行いの産物であると。

しかし、これは刀羅がこれから歩んで行かなければならない世界の一端でしかない。

それを理解し果てしない世界に対して絶望を味わうと同時にその世界を知りたいという欲が湧いてくる。


「ここは俺の行きつけでね」


刀羅の対面に座りそう言ってナプキンを巻くのは刀羅をこの世界に連れ込み、数分前に自らの行いの報復に巻き込んだ男ーーー荒井優希。

数分前に命を狙われ走って息が上がりゼエゼエ喘いでたとは思えない落ち着きぶりを見せている。

そのことに呆れながら部屋を見渡す。


部屋は外からはブラインドで中からは厚い鉄の壁が他の侵入を遮る完全個室。広さはカラオケの大部屋ほどでそこに置かれているのは刀羅と荒井が座る椅子と料理を置くためだけのテーブルのみ。

そのテーブルも椅子も上質なものであり、普段はお目にかかることの出来ない高級品。

それならもちろん出される料理も豪華。

三ヵ月前ならばその場の雰囲気に圧倒され尻込みするところだが、すでに経験済みである刀羅にとっては気圧されるまでには至らない。


「緊張するかい?」


「いいえ。それよりさっきの奴らは一体なんなんですか?それに、その銃も何で俺によこしたんですか?それと...」


「そんなにまくし立てられたって答えられるのは一つずつだから」


落ち着き払った様子で言うと銃をテーブルの空いてるスペースに置いて口を開く。


「そもそもこれはあの時ーーー俺が見舞いに行った日に渡した紙袋の中身ってことは分かってるみたいだね」


「ええ、だからよく分からんないんですよ。俺は銃を使った経験なんて無いですし、説明もなかったですし」


「あーそっか。じゃあ後で練習だね」


説明しなかったことを悪びれる様子もなく銃の練習を約束させられる。マイペースに話を進めながらもやることはやる当たり荒井らしいと言えば荒井らしい。


「それで、あげた理由だけどーーー」


言葉をわざと区切り刀羅の様子を伺う。頬が緩み、


「なんのことは無い、前回の戦いが危険だったから飛び道具でもあれば楽かなーーー」


「それは本当の理由じゃないんですよね?」


荒井は鋭い追求を受け、緩んだ頬を硬くし顎を引いて刀羅を見据える。その瞳には厳しく見定めるような鋭さを滲ませる。

対する刀羅も決意を瞳に込め、視線をそらさずお互いに睨み合う。

息の詰まるような沈黙が数秒続き、荒井が口を開く。


「そうだ。本当の理由は君に敵を確保して欲しいからでーーー」


「荒井さん、何故俺らがまとまって襲われるってこと前提なんですか?」


さらに鋭利な追及を受けても表情の変わらない荒井。

その手応えのなさに刀羅は表情には出さず訝しむ。


「前提ーーー確かにそう考えてこれを渡した。その前提は君たちが作り出した、というのは正確じゃないね。君が彼女を想うからこその前提だ。これで、君が自分か彼女達かを選択する時に迷わず自分を選択するような奴だと思うなら渡してない」


真剣そのもの態度で語り、水を飲む。グラスを置き舌なめずりする。

その一挙一動を見逃さないように追いながら、至る思考の結論ーーー


「ということは、あなたは俺や明陽、それに雪を加えた三人の高校生の妄言とも取れる証言をーーー複数の魔法使いにこれからも襲われるという証言を信じたわけですか?」


踏み入ることを恐れず、段々と鋭利になっていく言葉の刀を突き立てる。

荒井は言葉にかそれとも刀羅の態度にか顔を強ばらせる。


「君達の証言では狙われているのは明陽ちゃんだと言う。もちろん襲う相手が魔法使いだなんてことをバカ正直に信じたわけでもない。それに、今も信じているわけじゃない」


「なら、何故。あの施設に運び、修行させ、海淵に入る手続きまでして、あの日戦力まで派遣し、この銃を渡したんですか?」


鬱屈うっくつ していた思いを疑問を加速度的に鋭利さの増す言葉の刀に乗せて振る。


「どれにもそれぞれ理由はある。けど、結局は君達の話の全てではなくその一部ーーー明陽ちゃんが襲われるという点が事実だからだよ」


態度を変えず、微妙に表情を曇らせながらもそこ言葉には自信があり確信のある。


「けど、その理由は話せないと?」


言いながらに思う、引き時かと。これ以上踏み込むことによる危険が起こるとも限らない。刀羅にではなく明陽達に。


「ああ、その通りだ。」


わざと間をとって「分かりました」と答えて視線を銃に送る。


「これ、俺が使う時っていうか持っているだけで捕まるってことにはならないですよね?」


「ああ。不用意に外で出したりしなきゃ大丈夫。例え、捕まったとしても出してあげるよ」


確証のない物言いに顔をしかめて荒井に視線を戻す。

これ以上この話題での追及は意味を成さないと判断し話題を変える。


「会社を潰したって言ってましたけどあの男達は何の会社を?」


「あれは特に関係ないよ。と言っても話す義務はあるね....でも、飯食いながらにしよう」


豪勢を昼食を食べながら男達の正体、動機についての説明を聞いた。

男達の正体は荒井と業務提携を結んでいた会社の社員もとい、子分だった。そして狙われたのは荒井が経営する会社がその業務提携を破棄して同じような大手の会社との業務提携をした事が原因だと語った。

だが、それは刀羅からすれば荒井といなければ関係のない話。

最後まで聞き終えるのもさして時間はかからなかったが、疑問も沸かず熱が冷めていいった。


「悪かったね。これだけは本当にね。そういえば左肩大丈夫?」


本当に申し訳なさそうな顔をする荒井に言われて左肩を動かすと鈍痛が走り、顔をしかめる。

金属バットを相当の勢いで振る腕力だ折れているかもしれない。


「分かんないですけど動かせます」


だが、この場でそれを認めてしまっては訓練の時間を取れなくなる可能性もある。

それは、いつくるともしれない敵を相手にする刀羅にとっては避けたいものだ。


「そう。でも、一応病院に行くかい?行きつけの所ならすぐ見てもらえるよ」


「行きつけ...って。頻繁に外科に通う用事でもあるんですか?」


刀羅の問を受けて口元を緩めて微笑を浮かべて答える。


「そんな余裕も趣味もないよ。いくら、好みの看護師や女医が至って頻繁ってほど行かないよ」


微笑を浮かべながら答える荒井に無言のまま冷めた視線を送る。

荒井は相変わらず微笑のまま刀羅の視線を受ける。

色々とツッコミどころの多い荒井の発言は無視して話を進める。


「一つ改めて聞いておきたいことがあります」


「ムラマサのことかな?」


頷いて肯定を示し、先程のムラマサの登場から敵の撃破までを思い返す。

遅れて頬を叩くほどの風圧を起こす脚力。敵を瞬殺する技量。それでいて、全く疲れていないという驚異の体力。

その全てを夢や幻想と断ずるに刀羅は知りすぎていた。だからこそ改めて確認せねばならない。徐々にでも未知を既知に変えていかねばならない。

そのために納めた刀を鞘からだし今度は致命傷を確実に与えなければならないのだ。


「あの男を俺に付けたのはーーー荒井さん、あなたの意思ですか?」


「当然。あれだけの力があっても結局は組織の一員に過ぎないからね。あいつも」


引きつった微笑を浮かべたまま答え、背もたれに深く寄りかかる。

刀羅は同調するようにテーブルに当たらないように前のめりに身を乗り出して口の端を歪めて問う。


「あいつは馬鹿だと。そう、あなたは言いましたね?」


即座に「ああ」と返事をする。


「そこで、思ったんですよ。あの男ーーームラマサが俺に教官を名乗り出たのは独断だったんじゃないかって」


「大胆な発想、けど安易だね。俺の話を信じたのだとしたら」


荒井の含みのある言い方からは深読みすれば嘘もつくという意味もある。それを暗にであれ示したのは信頼を築いてかなければならない関係において愚でしかない。

安易なのはどっちだ。


「確かに信じましたよ。けど、それは論理的に考えれば分かることじゃないですか。俺が聞いたあの問いに嘘で答えた場合絶対嘘だとバレる。そういう嘘はつく方がリスクが高い、そう考えませんか?荒井さん」


「それでも、他にも理由はあるんだろ?独断だと決め手になる理由が」


微笑を浮かべたまま問う荒井は楽しんでいるようにも見える。

しかし、もう刀羅としてはそれが答えだとも言える反応だった。


「敢えて言うなら、ムラマサが教官を名乗ってから、昨日までこちらが連絡を取るまでそれがなかったことと、昨日の態度ってとこですかね」


微笑を浮かべたままさらに背もたれに深く寄りかかり、「ふーん」と目を細める。


「隠し立てしても意味が無さそうだからいうけど。君の推測通りあいつは俺の指示ではなく君に教官、として付くことに勝手にしやがったわけだ」


微笑から苦笑に変わり、また微笑に戻る。


「それで、君の聞きたかったことは全部かな?」


「なら、一つ。真実を答えてください」


「ーーー真実....?」


目を閉じ即座には答えず沈黙が走る。敢えて作った沈黙は荒井を緊張させるため。本気にさせるため。

そして、何より刀羅自身が本気になるため。

覚悟を決め、闘士を宿した瞳で真っ直ぐ荒井を見据えて態度は至って冷静。言葉は鋭利に


「ーーーあなたの目的はなんですか?」


突き刺す。

またも流れる沈黙。刀羅は視線を一挙一動から情報を読み取るために荒井から離さない。

対する荒井は微笑も苦笑も消えた顔に冷酷な意思の宿る瞳も一瞬。

自嘲じちょうじみた笑みを浮かべる。肘掛けに両肘を乗せ指を組み合わせる。


「ーーー真実というならば、語れることはない」


沸き起こる激情を無理くり押さえつけ、目の前の男を睨む。

目の前の男は刀羅を利用するというのにその目的については知る立場にはないと宣言したのだ。自分の目的にはお前の意思は必要ないとお前の目的は必要ないと否定したのだ。

それをどうして良しと出来ようか。出来るわけがない。

たぎる激情を押さえつけ平然を装い問う。


「俺は知る立場にないと...そう、言いたいんですか?」


「そうだ。君は知る立場にはない」


敢えて刀羅の言葉に合わせて否定し現実を突きつける。それは刀羅に対しての荒井なりの配慮である。刀羅とてそれに気づけないわけではない。

だが、そこに含まれるもっと直接的な意味が刀羅の中で形を成し怒りを露わにする。

それは荒井という男の拒絶に対してであって、力及ばない自分に対してでもある。

吐き出せば自分をも破滅させかねない感情を内に抱えながら、ギリギリの平静を保つ。


「俺や明陽は駒でしかないと....駒としての役目を果たせさえすればそれでいいと、あなたは俺に言うんですか?」


「....」


沈黙という肯定を選んだ。それは最も刀羅の怒りを煽る選択である。

荒井はそれを理解しながら、沈黙を選ぶそれは言えないからではなく、言うまでもないことだからだという事だ。

だが、刀羅は反抗を示し抗うことを許されない。例え利用されるだけの駒として扱われていたとしてもだ。

それはあまりにも無力で無知である刀羅自身の過ちだ。ここで、抗い荒井の援助を得られなくなれば刀羅は明陽を守る手立てを失い、敵に対抗するための最低レベルの武器でさえ手に入れない。

それと同時に荒井は知りすぎた刀羅だけでなく明陽も雪もその家族も排除する。

それがどれだけ罪深く世間の非難を浴びるようなものであったとしても荒井は迷いなく実行する。それが荒井優希という男だ。


「さて、行こう。時間がないから」


立ち上がった荒井は俯いて座ったままの刀羅を促す。

自分へ怒りは収まらず溜まり続ける中、おもむろに立ち上がり荒井の案内に従う。


「正しい判断だよ」


事実を述べた荒井の言葉は刀羅に届かない。

自身への怒りを募らせ決める。


「利用してやる....」


低く重く呟いた言葉は数歩先を歩く男の耳には届かない。

ただ、自分の中で決意を伴ったどす黒い感情として渦巻いていく。

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