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絶希  作者: 自来也
第一章 謎多き始まり
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第二話スタート地点へ

目覚めてから1ヶ月新たな道へ踏み出すための準備を刀羅はしていた。

あれからさらに約1ヶ月過ぎた。

長かった髪を切り、ジャージに身を包む刀羅は準備を終え演習場へ向かう途中だった。

この施設には1ヶ月いることになるが大きすぎて未だ全貌を把握しきれてない。さらに一つ一つの場所の規模も桁違いだ。

今、向かいっている演習場はこの施設の中では2番目に大きいらしい。その大きさは東京ドーム3個分に相当する。

さらに、設備のほとんどが最新鋭の物ばかりだ。

ここには最新鋭の技術を生み出す場所もあるらしいがその場所は未だ知らない。


正直こんな広い演習場が必要なのかと最初は疑問に思ったが、使う人数が10人単位下手すると100人単位でしかもそれぞれ用途がバラバラなため遊園地感覚で遊んだりするこもある。

故に演習場は演習で使っている人もいれば遊んでいる人もいる。

遊んでいてもそれなりに鍛えることが出来るので一石二鳥である。

とそんなことを考えているとふとあることを思い出した。

ー明後日でここに来て1ヶ月かぁ。早いな。


刀羅は明後日からこの施設から出ることになる。

それは刀羅が頼んだ稽古の期限が1ヶ月であったからだ。

明後日からはここではなく家に戻り、高校に通うことになる。

高校は受験で合格した明脳めいのう高校ではなく荒井に頼んで明陽と同じ海淵かいえん高校に行くことになる。


明脳高校は進学校の中でもレベルが高く全国にその名を轟かせているほどだ。それに対して海淵高校は中の下レベルである。

そんなところに行くのは勿論明陽がいるからである。

刀羅は明陽を守ることと同時にあの事件で魔法を使える輩がいたのかをつきとめるためには明陽と一緒にいることが不可欠だと思ったからだ。

勿論両親からは強い批判があった。しかし、スカイプを使って理由を話すと普段は母の言いなりの父が珍しく強い口調で母を説得してくれた。

流石の母も父の剣幕押し負け海淵に行くことを許してくれた。

さらには「出来る事は手伝うから!」と最初の猛反対はどこへやら母を説得した父よりも乗り気だった。

この母の変貌ぶりには刀羅も父も唖然とした。


そんなことを考えていると演習場に着いた。

演習場には刀羅の教官の仙堂龍せんどうりゅうがいた。

年齢は30代前半といったところだ。身長は刀羅より少し大きいくらいだ。軍人上がりの仙堂の屈強な体には傷が体にいくつかある。その中でも顔の傷は痛々しさとその強面も相まって恐怖を増幅させる。

刀羅も最初は足がすくんだ。

だが、訓練以外だと訓練生と話したりしていることが多く結構人気がある。その代わり教え方や訓練の効率はいいが、結構スパルタだ。

仙堂はこの施設の中で最も教えるのがうまく教官としての実績だけでなく強さもこの施設で1,2を争うほどだ。

そんな凄腕の教官が刀羅を見てくれるのは刀羅が仙堂の出した試験に合格したからだ。

その試験は仙堂に一撃でも与えればいいというものだった。

木刀を使うことが可能だったので刀羅は木刀を使った。


こう見えても刀羅は剣道全国2位の実力者だ。ちなみに1位はあの事件で死んでしまった大里海生だ。

あの事件で刀羅が出遅れたのは大里海生の死が少なからず影響していた。刀羅の憧れであった海生の死は刀羅を恐怖させるのには十分過ぎた。


試験の方は何発か喰らったがクリアすることができた。

現在の状況は仙堂の呼び出しによってのものだ。

「やっと来たか。」

腕を組んで低い声でそう言われると少し構え気味になる。

「すいません。」

と素直に謝ると「まあいい。」と言った。

説教がないようなので少し安心した。

「お前は明後日から高校に通うことになるが準備は出来たのか?」

「はい。大体は終わってます。」

「そうか。必要なものがあれば遠慮なく言うといい。」

わざわざそういうことを言ってくれるこの人はほんとにいい人だ。

顔には出さないが刀羅のことを心配してくれているのだ。

そう思うととてもうれしく思えた。

「はい。ありがとうございます。」

と微笑みがちに言うと仙堂は頷くと

「じゃあ訓練に入るぞ。」

やはり仙堂の切り替えの速さには慣れないと思いつつ「はい。」と答えると

「じゃあ今日は組手にする。」

「組手ですか?」

「そうだが、嫌か?」

「いえ、少し驚いただけです。武器ありですか?」

「うむ。そうだな最初は武器なしで後から武器ありでやる。」

「は、はい。」


正直武器なしの組手は嫌だ。

理由は仙堂が強すぎるからだ。

スピード、パワーさらに実践による勘の鋭さそれが集約された仙堂に刀羅が武器なしでは仙堂に一発当てることも容易ではない。

だが、これは刀羅だけがそうであるわけではない。むしろ刀羅はこの施設にいる訓練生の中では上位に入るほどの実力をつけていた。


だが、組手が強い=身体能力と高いではないのだ。確かに同年代の中でならずば抜けているかもしれないがこの施設ではそうもいかない。

何ヶ月、何年も訓練をしている訓練生にたった1ヶ月訓練したそれもその前までの1ヶ月昏睡状態だった高校生が上位に入れるはずがない。


なら何故刀羅が訓練生の中でも上位に位置するほど組手が強いかというとそれは常に考えて戦っているからだ。

なにもそれが他の訓練生が考えずに戦っているというわけではないが刀羅は観察力と分析力に長けていた。

さらに、刀羅には分析した結果を上手く使う方法を考えられる頭があった。

そして何よりも刀羅は実践を経験していた。

その経験が刀羅の戦闘センスを高めていた。


そして刀羅と仙堂の組手が始まるとギャラリーが集まり始めていた。

ギャラリーは組手をしてる二人を円形にとり囲んでいる。

ギャラリーは興奮した目を見開いてこの組手を見ている。

いつも誰かが組手をするときはギャラリーがいるが刀羅と仙堂の組手のときにはやたらその量が多い。

ギャラリーの大半は面白半分の観戦か、組手の結果を賭けているやつらだ。中には真剣に観察しているやつもいるが、それは極少数だ。

しかしそれも何度か経験すると気にならなくなる。


武器なしの組手は10戦3勝7敗の結果に終わった。

その直後に武器ありの組手を始めるにはお互い体力が残っていなかったため、30分ほど休んでから組手を始めることになった。

正午に近かったのでギャラリーの大半は食堂に行った。


すると、タンクトップにハーフパンツといったラフな格好に人懐っこい笑みを浮かべながら為岡涼至ためおかりょうじが話しかけてきた。身長は刀羅より少し低いぐらいだ。鍛えられた肉体はそれぞれパーツがラフな格好も相まってかなり誇張されている。

彼は刀羅より6つ上の22歳でこの施設の中で刀羅を除いて一番若かった。それもあって刀羅がこの施設で最も親しくしている訓練生だ。


刀羅がここで腐らなかったのはこの人の存在が大きい。

「やっぱ、すごいな。仙堂教官に3回も勝てるんだから。」

やや興奮気味に言い、隣に座ると水筒とタオルを渡してくる。中身はスポーツドリンクだった。食堂のおばちゃんがつくってくれたらしい。

「ありがとう。」

と言い水筒を受け取ってそれを飲み、タオルで噴き出る汗を拭く、

「これもいるか?」

と言って涼至がおにぎりを差し出してくる。

「流石にそれは遠慮するよ。」

「そっか。」

と言って差し出したおにぎりを食べ始めた。

10戦も組手をしたあとすぐに何かを食べようとは思えない。さらに30分後にはまた組手が始まるのだから余計何かを食べる気になんてなれない。

「やっぱ仙堂教官化け物だよ。あんだけ動き回ってんのにまだ全然動けるって顔してんじゃん。」

おにぎりを一つたいらげた涼至が仙堂を見てそう言った。

「はは、あの人本当に強いからね。結構ダメージ与えてると思ったんだけどね。」

「ダメージが全くない訳じゃないだろうけど何せあの筋肉だからな。」

「それ関係あるの?」

と刀羅が真剣な顔で言うと

涼至は吹き出して

「知らん!」

と真顔で言うのでこれには流石の刀羅も吹き出して笑った。

ちなみに刀羅が涼至に敬語ではないのは涼至が「この中で一番若いのは俺だと思いたいから敬語はやめろ。」と言ったからだ。

聞いた時は唖然としてしまったが、今思えば、あれは涼至の配慮であったのだと思う。


涼至と談笑しているうちに30分が過ぎ食堂に行っていた仙堂が戻ってきた。

「仙堂教官来たぞ。」

「あ、行かなきゃ。じゃ後で。」

「おう。頑張れよ。」

「うん。」

と短い応対をして刀羅は仙堂の方に走っていく。


仙堂の元に着くとそれを確認した仙堂が近くに生える棒の先端に取り付られたタッチパネルを操作すると地面からSFで出てきそうな黒い箱が出てきた。

黒い箱の扉が開くと中に訓練用の木刀や棒、さらに斧がそれぞれ4つずつ入っていた。

どれも訓練用ということで木で作られている。

仙堂はその中から木で作られた斧を取り出す。

俗に言うバトルアックスだ。

木で作らとはいえ100キロはあるだろうそれを仙堂は持ち上げ軽く振り回す。

続いて刀羅は木刀を取り出す。

刀羅も同じように軽く木刀を振り回す。

向い合う二人を見れば明らかに仙堂に軍配が上がるだろうと思うだろう。

だが、それは刀羅の剣の実力を知らない者からの評価だ。

刀羅の実力を知る者なら少なくとも4分の1は勝つと思うものもいるだろう。

仙堂がタッチパネルを操作すると今度はドアほどの大きさの真っ暗なTV画面のようなものが出てきた。

ーやっぱSFだなぁ

と思っているお

「構えろ。」

と仙堂が言い、木の斧を構える。

それに習って刀羅も木刀を構える。

二人の周りにはこれから始まる組手を見ようというギャラリーが武器なしの組手の時の倍はいる。

そして「ビー」という機械音が鳴り両者が同時に地を蹴り勢い良く踏み出す。



木と木が弾き合う音が演習場に響く。

「うおぉぉぉぉぉ!」

という凄まじい雄叫びと共に振り下ろされる斧を横に飛び紙一重でかわし、次に、薙ぎ払われる斧を後ろ飛んでかわすと左足を踏み込み一気に間合いを詰めて

「でやあぁぁぁぁ!」

という気合いの雄叫びを放ち木刀を顎目掛けて斬り上げる。

だが、その一撃は重量感のある斧を持つ男には似合わない器用さを発揮し斧の柄に弾かれるー。

寸前、刀羅はさらに右足を踏み込み、踏み込んだ右足を軸に半回転し右手に握る木刀を振り上げ仙堂の手から10cmも離れない辺りから斧を折る。

途中で折れた斧は先端はそのまま横倒しになる。

突然重量を無くした仙堂の体はよろける。

刀羅はその隙を見逃さず木刀を仙堂の首元に近づけ

「勝負ありですね。」

その言葉に仙堂は悔しさに顔を歪め「ああ。」と答えて立ち刀羅と向き合った。

汗だくで肩で息をする二人がお互いに礼をする。

戦績は10戦6勝4敗で刀羅が勝ち越した。

この結果には仙堂も周りで見ていたギャラリーも驚いた。

そして誰よりも刀羅が驚いた。

「少し待ってろ。」

と言って仙堂は刀羅に背を向け部屋へ向かう通路に消えた。

横を見ると時間を刻み続けたタイマーは“02:56”と表示されていた。

それとは別に時刻を刻んでいる時計は午後6時指していた。

そして周りには使い物にならないほどにガタガタになったり折れた武器の破片が落ちている。

正確には木片だが、


そうして2,3分程待っていると仙堂が竹刀などを入れるほどの長い袋を担いで戻ってきた。

そして刀羅の前までくると

「選別だ。受け取れ。」

と言ってその袋ごと刀羅に差し出した。

「あ、ありがとうございます。」

それを受け取ると

「開けてみろ。」

と腕を組んでいつもの調子で言う。

「あ、はい。」

と言って袋を開けると中には剣が入っていた。

袋からそれを出し鞘から抜くとそれは本当の剣であった。

それもかなり上物であることが伺える。

それを見て唖然とする刀羅を見て仙堂は笑みを浮かべ

「選別だ。俺らは明日からいないからな。渡せるのが今日しかなくてな。」

「え、あ、えっ!?」

とどぎまぎする刀羅を見て堪えきれず仙堂が笑う。

「そんなに驚くなよ。」

笑いながら仙堂がそう言う。

だが、これが驚かずにいられるだろうかいやいられまい。

まだ高校生になったばかりの刀羅に「選別だ。」と言って渡されたのは本物の剣だ。驚くなという方が無理がある。

なんとか笑いをどうにか抑えた仙堂が

「何も人を殺すために使えとは言わん。ただ、これが必要になる時がきっと来るだろう。その時になったらこれを使うんだ。いいな?」

剣を鞘にしまった刀羅は「はい!」と答え、それを聞いた仙堂は納得したように頷いた。

「あの、それで明日からいないっていうのは?」

と鞘にしまった剣を貰った袋の中にしまった刀羅が聞くと

「ああ、そうかお前には言ってなかったな。昨日の夜に起こった地震の救助に行くんだ。一応俺ら自衛隊扱いなんでな。」

薄々勘付いてはいたがやはり彼らは自衛隊なのだ。

そして地震は確か昨日の午後7時ごろに兵庫だかで震度6強の地震起こったという話だ。

「まあ、2,3週間は向こうに行くことになるからお前が出てく時には立ち会えんのさ。」

それで選別が剣である。仙堂らしいと言えばらしいが高校生に剣とはなんとも物騒なプレゼントだ。

「ありがとうございます!」

「よし!飯食うぞ!」

「「「はい!」」」

その演習場で見ていたギャラリーも声を揃えていった。


その後食堂では3時間ほどの宴会が行われた。

宴会の最初に乾杯の音頭を任された刀羅は食堂にいる全員の注目を集めるなか、その場所いる全員に1ヶ月の感謝を泣きそうになるのを必死に堪えて言い切ると酒の代わりにオレンジジュースの入ったグラスを掲げ乾杯の音頭をとった。

その後は飲めや食えやの大騒ぎだ。

開始から2時間30分を過ぎたあたりで食堂で寝そうな勢いのやつらが出てきたため教官達がお開きにした。


刀羅はその場を仙堂からの選抜を持って涼至と共に後にし部屋へ戻って備え付けの風呂に入ったあとしばらくしてから涼至がやってきた。

涼至も風呂に入ったようで髪が若干濡れ、服もタンクトップにハーフパンツから黒いジャージに変わっている。

時刻は21:30を回っていた。

「いいのか?明日早いんじゃないのか?」

「大丈夫さ。ここで寝さえしなければいいんだから。」

と言って部屋へ入り込み、冷蔵庫からお茶を取り出した。

「流石にこれ以上酒は飲めないからね。」

と言ってコップにお茶を注いで刀羅の向い合うように座る。

涼至は宴会で結構飲まされていたが、思考はまともであるようだ。

もしかしたら、酒を飲めない刀羅への気遣いなのかもしれないが

「いやー、楽しかったねぇ。」

と言ってコップ注いだお茶を一息に飲んだ涼至が言う。

「ああ、そうだな。」

「しかし、お前よく仙堂教官に勝ち越したな!」

やはり、少し酔っているのかいつもよりやや興奮気味だ。

「今日は調子が良かっただけだよ。」

「それでも仙堂教官に勝ち越すのはすごいって。俺なんていくら調子良くったって10戦やっても1勝もできる気がしねぇもん。」

「そりゃ涼至素直過ぎるからね。」

と茶化すと

「この、言うようになったじゃねぇか。最初の頃は張り詰めて誰とも話せなかっくせに!」

と言って刀羅の頭をグリグリとやってくる。

「痛い、痛い、痛い。」

と言って笑いながら涼至の手を叩く。


そしてこの1ヶ月間のことを話しているうちに11:30過ぎた。

「流石にもう戻るわ。」

「うん。」と答える刀羅が寂しそうに見えたのか

「そんな寂しそうな顔をすんなって。」

「!?いや、そんな顔してねぇよ!」

と言い涼至も刀羅も笑う。

笑い終わり

「涼至1ヶ月ありがとな。お前がいなかったから俺耐えられなかったと思う。だから本当にありがとな!」

「なんだよ、改まって気持ち悪いなぁ。」

真剣に言ったのに笑われて刀羅が拗ねると

「悪かったって、機嫌直せって。」

そう言う涼至の顔が面白くって刀羅は吹き出してしまう。

「うん。機嫌直ったんならいいや。」

と言って刀羅に背を向けドアノブに手をかけると振り返って

「1ヶ月お疲れ!高校頑張れよ!じゃあな!」

「おう!お前も救助隊頑張れよ!じゃあな!」

と刀羅が言うの聞きドアノブを回して「おうよ!」と答えるとそのまま廊下へ消えた。

それを見届け、刀羅は溢れそうになる涙をどうにか堪えベットに入って寝た。


残りの施設での2日間は仙堂から貰った剣を振ったり荒井と海淵高校に行く手筈の確認やらをして時間を潰した。


そして5月26日実際には5月25日の深夜刀羅はエレベーターに乗り、その後中からは周りが見えないようにされたベンツに乗り、1ヶ月いた施設から去るのだった。

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