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絶希  作者: 自来也
第二章 高校生影月刀羅
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第六話 夜の密会

カラオケには2時間。何曲か歌って主導権が雪に移った段階で刀羅は歌うのをやめた。

元々、上手い方ではないし状況も状況でかなり歌いづらいので結果的に良かった。

後半は雪と明陽のデュエットか雪の独唱がほとんどだった。

雪のほうは誘っただけあって上手かった。

対する明陽も雪ほどではないもののそれなりだ。


カラオケを出た時にはもう日が落ち、闇に侵食された街。

昼とは違う光ーーー街灯や車のライト建物の光が街を包む闇を怪しく照らしている。

この人工的な光に暖かさなど感じない。

人工物は自然に勝てない。どれをとっても自然の雄大さ力強さには叶わない。

そんなことを刀羅は考えるようになっていた。


「とりまコンビニ行こ」


「暗いよ」


「ええ、いいじゃん。何かあるから」


雪はなんとしてもコンビニに行きたいらしく明陽の説得にかかる。

刀羅はそんな様子を傍観しているも、意識と思考はそれとは全く違う方に向く。


刀羅の目的は何なのか。

当然、明陽を中心にした友を守ること。それが一番の目的だ。

しかし、自分の行動を冷静になって振り返ってみた時、本当にそのために行動をしているのか。違う目的のために明陽を守ることを放棄しているのではないか。

入院中の雪との論争の中で雪に言われた言葉が今になって刀羅の心に疑心を生み、自信を削いでいく。


自分は本当は明陽を餌に敵をおびき寄せているのではないか。復讐のために関係のなかった雪までも危険に道連れにしているのでないか。

自分の大切な人を守ると決意を固め、自分を戒め、辛い訓練にも一生懸命にやったというのに。

それだというのに、自分がその大切な人を危険な目に合わせ、思い出す必要のないトラウマまで思い出させてしまった。

ー何故だ...何故だ


「ーーーーおい、おい」


投げかられた声の主を見ると心配そうな顔をして刀羅見る顔が二つ。

心配そうに瞳を揺らす可愛い少女と、訝しむような表情を浮かべて首を傾げる少女。

どちらも黙って刀羅のことを本当に心配そうに見つめている。


「ああ、ごめん。で、なんだっけ?」


平静を取り戻し話題を変える。


「あ、いや。コンビニ着いたけど。」


「マジかよ。何買うんだよ?」


「飲み物と夕食。」


答えに抱いた疑問が口をつく。


「お前親いないの?」


「ーーーー聞かなくね?普通?家庭の事情なんだから」


「....悪い」


聞くべきではなかったという後悔と反省をして素直に謝った。


「まあ、別にいいんだけどさ。ただ、親がいないってわけじゃなくて....」


決まり悪そうに黙る雪を見て自分がこんな思いをさせてしまったと、自分の無神経さが嫌になる。


「言いたくないなら、言わなくていい。聞いた俺が悪かった。」


「ああ、うん。」


雪は相槌を打って黙ると明陽と顔を見合わせ刀羅を見てくる。

その態度に狼狽しつつ、隠すため敢えて向いた方向にはたむろしている不良。また、向きを変えれば会社帰りのサラリーマン。


「行かねぇの?」


向きを変えて周囲に意識を散らしてみたものの、二人の視線が突き刺さって全く落ち着かない。


「アンタ、何かあったの?素直に謝ったりして変だぜ」


「そうだよ。変だよ。雪に謝るなんて」


「そうそう、アタシに謝るなんて.....おい!アタシに謝るなんてってどういう意味だよ!」


「まあまあ。刀羅?」


「くっ...はっはっはっ」


堪えきれず笑い出した刀羅は周囲の注目を集めている事に気づいているが、堪えきれず笑い続けた。

心配してくれたこともそうだが、こうやって無理して普段刀羅と雪がやっている事を見せてくれたことが刀羅は嬉しかった。

不安を少しだけ、ほんの少しだけ払う。

そして、決意する。


波が収まって笑い止むと明陽と雪が困惑していたが、それを無視してコンビニに入る。続いて明陽と雪も入ってくる。

刀羅は適当にジュースを雪は弁当と飲み物明陽は悩んだ末に餡饅あんまんを買った。

明陽が餡饅あんまんを食べ終わるのを待って、家に帰る。


家に帰った刀羅は行動を開始する準備を始めた。

寝る準備まで全てを整え、親には勉強するからと部屋に入らないよう事前に告知する。スマホは電源切っては充電器に挿す。

そして、必要なものをその他諸々準備を整える。

これで、邪魔入らないよう布石は打った。


「さて、やらねぇとな」


立ち上がり、窓際に近づく。

窓を開け静かなことを確認する。

普段よりは小さめのバックを担いで窓から出る。


「バレたら、殺される。」


静かに窓を閉め、壁にしがみつき窓のへりをつたう。

誰かに見られれば通報されかねない状況だ。

雨宿り用の屋根に移って、バックから靴を取り出す。

重心をかける足を変えるたびに軋む音に肝を冷やす。

なんとか靴を履き、防犯砂利の置かれてない玄関に飛び降りる。

足をつたう衝撃に奥歯を噛んで耐える。音は、最小限に抑えているはずだが痛みもありよく分からない。

誰も出てこないところを見ると成功したようだ。


「さあ、夜の散歩だ」


玄関を出て歩道に出たところで低く呟く。

そして、しばらくは歩いて十分な距離が取れたと判断した時点で走り出す。

最初からトップスピード。もちろんずっとはもつはずもないので途中2度ほど歩いたが、それでも10分で目的の場所についた。

そこは、ボロアパートだ。そのアパート自体に今は人が住んでいない無人アパートだ。

地元の人間でもこのアパートには近づかない。

何故か。それは、端的に言えば事故物件であるから。それもかなり壮絶な。

だが、そんなことは刀羅にとってはどうでもいい。むしろ有難い。

辺りにはもう少し綺麗な空き家もあるのだがここのように手軽に入れはしない。

そして、空き家もこのアパートを中心に空き家になっているのでここが一番人気がない。


刀羅は1階の入口から2番目の部屋に土足のまま入る。ほこりが舞い咳をする。暗い中を走ってきたこともあり、目は十分に暗闇に慣れている。

誰も手入れしてないのがありありと分かる。下を見ればところどころに穴があり、上を見れば小さいが穴が空いていて場所によっては空が見える。

バックを下ろし、中からスマホを取り出す。

アドレス張にある唯一の番号に電話をかける。


「出てくれよ。」


懐中電灯をバックから取り出して、明かりをつける。

バックを窓際に押しやって窓を開けたところで電話の相手が出る。


『やあ、刀羅くん。』


「どうも荒井さん」


電話の主はもちろん荒井優希。置いてきたスマホは普段刀羅が使うもの。

今持っているのは荒井から貰った連絡用。


『要件は?』


荒井は電話越しにも分かるほど急いでいる。

何かと忙しい立場らしいのは刀羅も知っているので、手っ取り早く答えることにした。


「3つあります」


『ーーーー3つ。それは今じゃなきゃ駄目なのかな?』


「直接会って聞けるんだったらそっちの方がいいですけど」


電話越しには確認しづらいものもある。直接合うほうがそれより遥かに得られる情報は多い。


『なら、明日でいいかい?奇跡的に時間は取れそうだから。』


「そうですか。なら、1つにします。今聞くのは」


1つ以外は重要度が低いというわけではないのだが、今は刀羅も時間はない。

その中でも確認したいことが1つある。


「俺に仕向けた男はどういうつもりですか?」


『仕向けた?ああ、ムラマサのことか。』


名前は恐らくあだ名か偽名なのだろう。

『ムラマサ』とはなんとも恐ろしい名前だが、それはあの男の貧相という印象には合わない。

だが、今はそれどころではない。聞かなければならないことはあり、時間は少ない。


「それでどういうやつなんですか?どういうつもりですか?」


刀羅は質問を畳み掛ける。


『あの男なら君の戦力になるよ。それは保証しよう。君、いや、君達は狙わられるが可能性は極めて高いと言えるからね。その意味ではちゃんとした護衛だよ。』


一度言葉を区切って、刀羅の了承を待っている。

刀羅は了承を示す代わりに質問で返した。


「あの男は俺の護衛に加えて、監視、教官をやるとも言ってましたけど?」


『まあ、確かにそうだ。監視も護衛のついでみたいなもんで、教官になるかどうかは君の意向次第といったところだね』


「なら、頼みます」


『分かった。じゃあ、どんな奴っかってのだけど....』


荒井は言葉を切り、黙ってしまう。

数秒が立って荒井が口を開く


『バカだわ。』


「....馬鹿?」


『そう、バカ。』


刀羅は思わず聞き返したが、荒井の答えは変わらない。


『そうだな、頭のほうが使い物にならないとまではないかないけどさちょっと考えなしだから。というか、かなりお人好しな部分があるからね。』


「つまり、性格的に...ってことですか?」


『まあ、そうだね。最終的に損をする感じのやつなのかもね。とりあえず、頑張って』


「ちょっと待って下さい」


話を切り上げようとする荒井を止める。


「明日の時間とか場所は?」


『あー、うん。とりあえずはそこでいいよ。12時に』


荒井の言葉に抱く違和感。

しかし、敢えて言葉にはしない。だが、答えは分かっている。


「ここって?」


『君が今いるアパートだよ。昼もその時でいいなら家で食わなくてもいいよ』


荒井の答えは刀羅の予想通りだった。

荒井はムラマサという男からの報告かこのスマホのGPSか何かで刀羅の場所を特定している。


「あなたも趣味が悪いですね」


『仕方ない、これが仕事だから。ーーーー帰りはあいつの背中にでも乗るといい。乗せてくれればだけど』


刀羅が家に入る際、玄関から入れはしない。

かと言って裏口がある訳でもないのでだとしたら、自分の部屋の窓からということになるのだが、果たして可能だろうか。

それをよんで荒井があの男に乗れと言うならそれはあの男の身体能力が相当なものであるということなのだが。


「それで、窓から入れると?」


『上手くやれば入れるんじゃない。と、言うことであとは明日。くれぐれも怒らせないようにね。じゃあ』


捲し立てるように言うと荒井は電話を切った。

荒井の言葉の裏にはここにいることも刀羅がムラマサと会おうとしてることも気づいてると言っている。


「....めんどくせぇ」


刀羅は窓からバックを外に出して自分も出る。

そして、深く息を吸い込む。


「ーーーームラマサーー!」


夜の闇の中刀羅の咆哮ほうこうとどろき闇に吸い込まれていく。

しばらく時間が経ってからもう刀羅が1度叫ぼうかと思った時ーーー方向は分からないが闇から何かが近づいてくる音に気づいた。

音が止まり、近づいてきた何者かは正体を現した。刀羅はその方向に懐中電灯の光を向ける。


「君は分別がつかないのか?」


細い整った顔を曇らせ、闇の中から歩み出てきたのは長身の男ーーーームラマサだ。


「それと、眩しいから出来れば向けないで欲しいなそれ」


刀羅は懐中電灯でムラマサの顔を照らすのをやめた。

嫌悪を露にムラマサを睨みつける。


「アンタは俺の監視はいつからやってた?」


答え次第では刀羅がこの男に抱く嫌悪をは増幅する。

だからこそ荒井との会談の前にハッキリさせなければならない。

これからの対応においても重要な観点になってくる。そこに、荒井が手を加える前の状態で会うことが必要なのだ。

無論、現段階で荒井が手を回している可能性もある。むしろ、その可能性が高い。

男は思い出さそうと腕を組んでいたがそれを解いて刀羅の視線を真っ向から見つめ返してくる。


「僕は君が病院に行っている時からかな」


その言葉には嘘がないと刀羅は直感した。

男は刀羅の聞きたいことに対する答えをハッキリとは答えていない。

それは病院に入ってからかそれとも本当に送られている最中なのか。どちらとも取れるような答えだ。

前者であるなら刀羅の嫌悪も薄れる。しかし、後者なら理由次第で嫌悪は増幅する。

刀羅が考えていることを察したのか、ムラマサが補足をする。


「僕は、というよりも僕達はあの場ーーー君が倒れていた工場行ってその時に僕が君の監視になった」


ムラマサは後者であることは認めたが、重要なことが一切語られていない。

『僕達』というのはおそらく荒井とこの男のことだろうが、そこにいた理由はーーーー


「俺が荒井さんに頼んだ援護隊の中にいたってことか?」


「そうそう。僕は他の仕事終わって帰ってきた時だったのに無理矢理連れ出されてね。それで、行ったら君は倒れてるし男の方は死んでるしで、大変だっんだよ。それにーーー」


刀羅は耳を疑った。

ムラマサから発せられた言葉が信じられなかった。

ー死んだ?死んだ?俺が俺がーーー殺した

殺人を犯してしまった。

あの意識のなくなった状況下で刀羅は無意識に殺した。無意識に、そして相手が刀羅達に敵意があったとしても人を殺してしまった罪は大きい。


「聞いてるかい?」


確認するような問いかけをするムラマサ。

しかし、刀羅はそれどころではない。目下問題なのはーーー


「そ、それより、あのーーー俺が戦ってた男が死んだっていうのは?」


「ああ、大丈夫。外傷で死んだわけではないらしい。君が殺したわけじゃないだろう」


刀羅は入ってくる衝撃的な情報に呆然とする。

徐々に理解が追いつき、安堵して溜息を漏らす。

言葉を理解すると共に疑問が浮上する。


「外傷が死因じゃないってどういうことだ?」


「そこら辺は“あの人”に聞いて。僕が言いたいのはあの時ーーー君が頼んだ応援部隊の中にいた僕が“あの人”に君の監視等々頼まれたことを言いたかったんだ」


刀羅の疑問をいなし最初の疑問に答えた。

刀羅はこの男に感じていた不信感よりも戦った男の死。そしてその死因に対する疑問が晴れずムラマサの言葉が素通りする。

ムラマサは刀羅が黙り込んでいるのを肯定と取ったらしく現実に引き戻す。


「君時間ないんじゃなかったけ?」


「そうだった。で、それで荒井さんにおんぶしてもらえって言われたんだけど」


意訳した刀羅の言葉を聞いてムラマサは溜息を漏らす。

そして、刀羅に背を向けて屈む。


「そう、じゃ乗って。」


高校生にもなっておんぶをされることに抵抗がないわけではない早く帰れなければならないことと、窓から入らなければならないというのに全然道具がないということを考えると仕方ない。

もちろん、ムラマサにそれを可能にする身体能力があればの話だ。


言葉に従って背に乗るとムラマサが前回会った時には感じなかったが筋肉質な体であることがわかる。

この密接した状態でなければ現状暗くて分からない。


「さて、それでは行くよ」


それが、『掴まれ』という合図なのだということを刀羅は直感し背中にしがみつく。

直感に従ったのは良い判断だった。

ムラマサは並みの人間ではまず有り得ない跳躍力でアパートの屋根に上がるとそこからは家の屋根から屋根へ移っていく。

刀羅のムラマサに対する『弱い』という疑いが晴れる代わりに不安となる。


「これはこれでやばいかも」

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