第五話 最大イベント計画
テスト1日目
ーーー登校中ーーー
「意気込みは?」
「....全教科赤点回避!」
「で、明陽は?」
「もちろん全教科赤点回避」
「なら、頑張れ」
やつれた顔をした2人と何故かいつも通りの明陽という3人のテストに対する意気込みは十分。
ーーー下校中ーーー
「どうだった?」
「.....だ、大丈夫」
「私はとりあえず生物以外はどうにかなりそう」
憔悴した様子の雪。割と余裕を感じさせる明陽。
「勉強しろよ」
それぞれ家に帰る。まだ、昼過ぎのこの時間に帰れるだけテストはありがたい。
流石に刀羅も他人に教える余裕があまりなく昼済ませればその後は翌日、翌々日の勉強だ。
テスト2日目
ーーー登校中ーーー
「勉強したか?」
「......え、あ、うん」
「したよ。それより、雪大丈夫?」
「....ん?うん」
濃い隈が目を縁取り、返事にも前日以上に覇気がなく遅い。
「徹夜か?」
「...う、ん」
生返事な雪が本当に心配になってそろそろ問い詰めるのをやめることにして刀羅も明陽も雪も誰も一言も発することはない。
ーーー下校中ーーー
「どうだった?」
「昨日よりは出来た感あるわ」
「あくまで感、な。感 」
「分かってる。んなに言うな。つか、アンタはどうなんだよ?」
「俺、まあそれなりに普通かな」
「アンタの普通は信用出来ねぇ...で、明陽は?」
「う、うん。た、多分大丈夫」
「....仲間だな」
雪は満面の笑みで明陽の肩を叩く。それは、同じようにやばそうな立場の人間のいることに対する安堵。
刀羅は溜息を漏らし、明陽と雪と別れ家に戻る。
「勉強しろよ」
昨日と全く同じ言葉で別れを告げ自宅に帰れば、それから先も昨日同様の流れ。唯一違うのは勉強する教科だけ。
テスト最終日
ーーー登校中ーーー
「勉強したか?」
「お、おう」
「今日は返事早いな」
「寝たからな10時に」
「はやっお前ほぼ勉強してねぇだろ」
「そっな、ことない」
「声上擦ってるぞ」
雪への追及はやめ明陽の方を向く。
「で、明陽は?」
「私?私は9時30分ぐらいに寝たよ」
「...早すぎじゃね?勉強は?」
「....ちょっとだけ」
マシだと期待した明陽のほうがやる気ないという事実に呆れを隠せない。
項垂れ呆れる刀羅を他所に明陽と雪の話はテストが終わったらの話になっていた。
ー呑気なことで
ーーーテスト終了後ホームルームーーー
「テストお疲れ様。で、早速だけど学校祭の話ね」
労いの言葉をたった一言。
それは労うことよりやらなければならないことを優先してしまいたいということなのだろう。
全くどこまでいっても単なる面倒くさがりなわけだ。
「はい、じゃあ。あとは代表お願い。」
瀧本は教壇から降り、代表委員に明け渡す。その投げやりな言動も結局面倒くさいからだ。
これだけ面倒くさいというのを全面に出してしまうのはどうかと不満を感じる。
「まず、ですね。えっとー」
中野と浦波が教壇に出る。
緊張からか言葉が続かない中野は困惑の表情を浮かべる。
「さっき配ったプリントを見てください。注意事項を...」
そして、長々と続くこの注意事項の説明。
刀羅の耳には一切入ってこない。刀羅の頭は不安に埋め尽くされ、思考がその1点に向く。
その不安要因はもちろん学校祭というイベント。
普通ならクラスで何かを作ったり、売ったり、劇をしたりと青春の大イベントの1つ。そして、学校全体で行う学校行事の最高峰であることは間違いない。
だからこそ、刀羅にとっては問題なのだ。
刀羅はこのクラスに来て日も浅く関係性など気づけていない。周りは仲間を作り、クラスという雰囲気も作り上げられた状況だ。
さらに、聞いた話では、1年のみのイベントである研修は5月半ばにすでに行われているというのである。
そんな中に、刀羅という異物の存在がこのクラスで価値を示し、関係を築けるのはこのイベントに全力を尽くすしかないのだ。
それが、出来れば刀羅は晴れてこのクラスの一員になれる。
逆に、使えないという評価になれば価値は暴落、関係も築きにくくなる。
ここは何かしなければなるまい。
「それじゃあ次に、役割を決めます。露店、クラス装飾、ステージ発表どれがいいですか?....時間5分取るので考えてください。」
刀羅の思考中に議論は進み、何の種類の出し物をするかは決まったらしい。
まず、目立つステージ発表だけはなんとしても避けたい。次に人と顔を合わせなければならない露店も出来ることなら避けたい。
となれば、選ぶは教室装飾その一点に限る。
だが、それで価値を発揮できるのか。だが、異物である刀羅が目立つのもどうなのだ。かといって、教室装飾でどれだけの価値を示せるというのだ。
クラスでは価値を発揮し、関係を築く。その目的を達成するにはクラス装飾は価値の発揮の点において効果が薄い。
だとすればーーー
「5分たったので決めていきたいと思います」
中野の声に思考が断絶される。
「じゃあまず、ステージ、やりたい人ー」
手を上げるのはうるさい集団の中で2番目に位置する集団。
もちろん刀羅は参加はしない。
「次は、露店、やりたい人ー」
手を上げる人数はステージよりは若干多い。中には長道や夢塚もいる。
そして、刀羅も。
結局、教室装飾では真価を発揮するのは困難という判断から教室装飾は落選した。
露店なら上手い具合に裏方に回るよう調整しつつ、仕事がこなせるという価値を発揮できる。
続く、教室装飾で手を上げる人数を前の露店、ステージと合わせてもクラスの38人には及ばない。
これが、学園祭というものの準備段階の中での最初の難所。
大体内向的なタイプは教室装飾に集中して、うるさい集団が露店やステージをやる。
だが、それはあくまで最終的な話。この段階では一部を除いてほとんどステージをやりたがりはしない。
花形でもあるステージだが、学校祭レベルであれば下らない劇が出来るのがオチ。ましてや、この程度のレベルの高校だ。期待などするだけ無駄だ。
だが、露店は圧倒的に人気だ。
理由は、中学ではやらなかったから。高校の学校祭の中で何かを売るという行為は青春のイメージやイベントしての盛り上がりも大きい。
この2点、特に後者の要因は大きいのだろう。
「じゃ、1度役割ごとに集まって話し合ってください。」
どうやら、全ての割り振りが決まったようだ。
中野と浦波が有能なのか、クラスの雰囲気なのか時間内に終わらせ確認する時間もあるという。
露店メンバーは全部で16人。その中には夢塚や長道、浦波の姿もある。が、明陽の姿はない。明陽はクラス装飾の担当になったらしい。
そして、このグループの指揮を執るのは浦波である。
「思ったよりは....か」
「何が思ったよりは、ってなんだ?」
刀羅の独り言に疑問を投げかけてきたのは夢塚真希だ。
やはり、この女慣れない。
女子とのコミニュケーションがうまく取れないというのも一部例外を除けばないではないが、この女にはそれとは違う関わりづらさがある。
「いや、なんでも。」
「なんだよ?言えよ」
「なんでもない....」
刀羅が視線に気づきそちらを見ると説明していた浦波が冷たい視線を向けていた。
さらに、周りの露店メンバーも刀羅と夢塚に視線を向けていた。
「すいません。続けてください」
早々にやってしまった。メンバーの大半に冷たい視線を送られた。これで、やる気のない奴という認識が少なくとも数人には植え付けられたに違いない。
それもこれも、刀羅の無駄な独り言だ。
余計な面倒事をこの段階で増やすのは愚である。
「今日はこの中で店長と副店長それと、何するかだけ決めます。」
浦波は周りの生徒達を見て、持っているプリントに目を落とす。
「何するかって食べ物何じゃないの?」
「いえ、他にも一応あったりするので。とりあえずは仮です。店長、副店長は真面目に決めます。」
問われた疑問に対する浦波の答えは簡潔明瞭。他に上がる疑問がないと判断するとプリントに視線を落とす。
「それで、店長やりたい人?」
もちろん誰も手を挙げない。
「はい!私やる!」
という刀羅の思い込みは清々しいぐらい盛大に打ち砕かれた。
手を上げるのは浦波でも夢塚でも長道でも、もちろん刀羅でもない。
その人物は刀羅がまだちゃんと話したことのない相手だった。
「では、花山さんが店長でいいですか?他にやりた人はいませんか?」
少し茶色の髪をポニーテールに結んだ、少女ーーー花山薫。このクラスでも中心的な地位に位置する女子の一人。
あと、何人か中心に位置する女子の中では比較的静かな方だ。
無論、他に手を上げるものは出ない。
「それでは、店長は花山さんにお願いします。では、次に....」
「よろしくね!みんな!」
花山は浦波が言葉を続けようとしたのを遮り、笑顔で溌剌と挨拶をする。集まっている露店メンバーから拍手が起こる。
そんな、花山を浦波はただ黙って見ていた。
「えへっありがと。よろしくね」
拍手が鳴り止み照れくさそうに頭を搔く花山が黙ったところで浦波が続きを話す。
「では、副店長を決めます。」
これは、花山と同じグループに属する女子がなった。
そして、何を売るのかという議題ついては授業時間内に終わらせることは出来なかったため、後日決めるということになった。
「明日....じゃなくて、来週に決めるんで考えてきて下さい」
店長となった花山の言葉にそれぞれが了承を表して席に戻る。授業終わりの挨拶と帰りの挨拶を一緒くたにして終わらせる。
いつも通り明陽のところに行こうとした頃で肩に圧力が伸し掛る。
振り向けば、夢塚が刀羅の肩に手を乗せていた。夢塚の表情は厳しく真剣だ。
「何?」
「部活どうすんのか決めたんだろ?入るんだろ?」
刀羅は忘れていたことに気づき「あっ」と声を漏らす。
敵と遭遇してからの数日間刀羅は脅威に対する考察とテスト対策をひたすらやっていた。そんな目まぐるしい日々を送っていた刀羅に部活のことなど一切頭から抜け落ちていた。
「ごめん。忘れてた。」
刀羅は素直に謝った。ただ、単に忘れていた。目まぐるしい日々を送っていたからと言い訳も出来るしそれが事実なのだ。
だが、それでも罪悪感は感じた。だから、罪悪感を言葉にして素直に謝った。
しかし、そんな刀羅の謝罪も夢塚にはあまり効果がなかった。
「はあ!?忘れてた?」
「ああ、うん。」
忘れていたが、刀羅の中ではもう答えは出ているのだからそれを伝えるだけだ。
「悪いけど俺は.....」
「あーーーもう!来週の月曜見学来い!何が何でも来い!いいな?」
刀羅に指を突きつけ言い放った夢塚の言葉は刀羅が決定したことに反する行為の強要。
「えっ、いや、ちょっ....」
「いいな?来いよ?」
指を突き立て顔を近づける夢塚。
夢塚の顔が近くにあることにもその勢いにも内心で焦りと驚き感じる。
当の本人は刀羅を脅迫するだけでそんなこと微塵も思っていないようだ。
これは傍から見ればただの恐喝だ。よくて夢塚が刀羅を襲ってるように見えるだけ。
「いいな?絶対、来いよ」
「ちょっ....と」
夢塚は刀羅の答えも聞かず帰ってしまった。
勝手に決められた部活見学だが、行ったところで刀羅は入りはしないのだから意味はない。
だというのに、だというのに、
「あの女....ちっ」
舌打ちをし、立ち去った夢塚に不満を募らせる。
大体なぜ、刀羅がこの剣道部入らなけれならない。そもそも高校に入って刀羅は部活など入る気などなかった。
しかし、この状況で断る方が厄介で面倒だ。
「いや、違うな。」
「何が違うの?」
「明陽!?どした?」
不意に近距離からかけられた声に驚きと心拍数が上がるのを取り繕って問い返す。
無理矢理抑え込んだせいで言葉足らずな問になってしまう。
赤面して、今にも卒倒しそうなのを持ち直す。
「ん?あー帰ろ。雪も待ってるし」
「偉いな。待ては出来たか。」
「うん。おかわりは練習中。」
刀羅のボケに明陽も乗っかて雪が犬扱い。ネタにされた当の本人はアホ面を晒してドアの近くで待っている。
刀羅の視線に気づいたのか、威嚇するように睨みつけてくる。
「躾が甘いぜ。ちゃんと吠えないようにしないと」
「他の人にはこんなんじゃないんだけどなぁ。」
「何の話?」
歩きながら2人だけが分かるネタで話し。それを聞いた雪が不思議な顔をして問うてきた。
「明陽の家の犬の話」
当然嘘だ。明陽の家に犬なんていない。
あの置物だらけの家で犬や猫なんて飼うこと自体有り得ない。
「えっ?犬飼ってたの?」
それを信じた雪を見て刀羅も明陽も笑い出す。
意味が分からないと顔をしかめる雪を見てさらに刀羅と明陽の笑いが大きくなる。
正しい反応だが、それが逆におかしい。
「あーいや、帰ろ」
「帰ろう帰ろう」
「おい!何なんだよ!おい!」
そそくさと帰る刀羅と明陽に意味が分からないと不満を叫ぶ雪が追いすがる。
だが、教えるつもりはないし。教えたら絶対に殴られる。わざわざそんなことを教えたりはしない。
「雪、どっか寄るんじゃなかったの?」
笑いをどうにか抑え込んだところで明陽が雪に問う。
雪は教えてもらえないことを不満に思っていたようだが、思い出したように口を開く。
「カラオケ行こ。テストも終わったし」
「いいよ。刀羅は?」
歌はあまり上手い方ではない。
だが、一緒に行かないという選択をするよりは行ったほうが色々と楽ではある。
「あ、うん。まあ、行くか。」
「よし、じゃさっさと行こう!」




