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絶希  作者: 自来也
第二章 高校生影月刀羅
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第三話 自習

教室にはほとんど生徒が残っていた。

仲のいい誰かの近くに移動して話しながら食事をする。さらに、スマホを片手に食事をし近くの友と会話をする。

大体の生徒が見ているのはTwitterなどのSNSの類だ。中には個人もしくは集団でゲームをしている奴もいる。

しかし、その中に明陽の姿はない。明陽は昼を雪か部活の仲間と食べているのだろう。


刀羅は自分の席に戻り、浦波に借りたノートの写しに取り掛かる。浦波のノートは字も綺麗で色分けも丁寧。さらには、所々に付箋やメモでの要点の付け足しが見られる。

おそらくノートをまとめるのは上手いが点数が取れなかったタイプなのだろう。

こういうタイプは大体ノート提出に向けノートを綺麗に取ることに重きを置き過ぎているせいで理解や覚えるということが二の次なっているのだろう。だからこそこんな高校に来ているということだ。


そしてその場にいる自身の場違い感と屈辱を刀羅は肌で感じている。

授業は表向き崩壊はしてない。しかし、その実ある者は見えないところで隠れて生徒はスマホをいじり、ある者は隠れて寝ている。その人数が少数でなく多数の側なのだから問題がある。


そして、刀羅は多数の側には回れない。多数の側と関係を築こうと幾度か挑戦している。

皆対応もしてくるし聞けば色々と教えてくれる。

けれど、やはりそこにはゲストという位置づけがなされていてそれ以上の発展はほぼない。


例外は浦波と夢塚だろうか。明陽はその上をいく例外だが。

中野や長道は確かに話しかけては来る。さらに、色々と教えてくれるが、あくまで他人行儀なのである。


それに対して浦波は真面目さ故に刀羅の心配をして話しかけ快くほとんどの教科のノートまで貸してくれた。彼女がそこまで考えたかは分からないが刀羅に取っては会話を持てるといことでありがたい事だった。

それに、大半が堕落したこんなクラスでも浦波は自身の真面目というキャラを崩さずやるべき事はやっている。その点を刀羅は評価している。


今日は高体連でいない夢塚は刀羅との距離を一気に詰めてきた。

初対面で早々名前を呼び捨てする有様だ。さらに、女子とは思えぬ傲岸無礼(ごうがんぶれい)なあの態度だ。

それでいて武道の一種である剣道部マネージャーというのだからイメージに合わない。

彼女は病院送りになる前の3日間の観察で数学や物理は高頻度で寝ているが現代社会や国語では真面目に授業を受けている様子である。

こういう好き嫌いで勉強をするタイプは苦手教科の勉強をほとんどせずテスト間際の本当のギリギリにならない限りやらない。そのギリギリですらやらない奴ももちろんいるだろうが。

そのどちらかは分からないがきっと数学、理科が苦手でこの高校にせざるを得なかっということなのだろう。


「ありがとう」


写し終えたノートを持ち主である彼女に差し出す。プリントから顔を上げて刀羅を見て、ノートを受け取る。


「早いね」


「やっぱ早く返すべきだと思ってさ」


「別にゆっくりでも良かっのに真面目だね。」


浦波は素っ気なく言ってプリントに目を落とす。

刀羅はその態度に苦笑して席に戻ろうとして、


「あなた、石神さんと付き合ってるの?」


「突然直球だな」


唐突であるのと予想外な相手からの予想外な質問に狼狽える。


「ごめんなさい...」


「いや、何も謝ることじゃないよーーーそれに、このままだと誤解されたままだろうから言っておくけどーーー俺は明陽の彼氏って訳じゃない。仲がいいのは小学校、中学校同じで家が近いからっていうのとここに知り合いがいないから。」


申しわけなさそうな浦波が不憫に思えた刀羅は学校に行ってからの数日の中で最も聞かれた質問に対する決まり切った答えを述べる。

ほとんどの部分は事実であるし、一応筋も通っているはずだが、これで逃げきれたと言うにはいささか問題がある。


「ねぇ何であなた頭いいのにここに来たの?」


「ほんとに前置きなしの直球だな」


話の内容が前後で飛ぶ浦波に苦笑する。

しかし、その質問に対する答えは用意がない。


「流石にさ何も勉強しないで来ると死んじゃうから。向こうにいた時に親にちょっと教えてもらってたから。」


この苦し紛れの回答に点数を与えるなら100点中5点。そのレベルで酷い答えだ。


「何か嘘に聞こえる」


「嘘に聞こえても本当のことってあるでしょ。狼少年だってそうじゃん」


シンプルでいて確信をついた浦波の言及にボロがでないように必死に取り繕う。


「確かにね」


「そうだよ」


言い訳が上手くいったのか浦波は頷いた。

その様子に今度は刀羅が質問をする。


「何で俺が頭いいと思ったの?」


浦波はきょとんとした顔をして刀羅に顔を向けて口を開く


「私、授業は真面目に聞いてるから」

「つまり、その時俺が問題に答えたのを聞いてたから俺が頭がいいと?」


補足をした刀羅の解釈を肯定するように浦波は首を縦にふる。


「特に数学の時」


「数学....数学でそんなに難しい問題当てられたっけ俺?」


「うん。」


数学で当てられた問題など何の捻りもない単なる因数分解で習っていれば解けるようなものよはすだったのだが、


「えっと、因数分解のやつ?」


「うん。」


解決と共に少々目立ち過ぎたかもしれないという疑念が深まり、不安が過ぎる。


「だって、あの問題知ってれば出来るでしょ?」


「そう。だから何で出来たの?」


「いや、それは教えて貰ったから」


「お父さんに?」


「まあ、一応理系だからそれぐらいなら教えてくれたから」


「凄いね。」


浦波が視線をプリントに戻したのを見て、刀羅にとって緊張感のある会話がとりあえず一段落したと安堵した束の間ーーー


「ねぇ」


続く浦波の呼びかけに反射的に構えて次の質問の予測と返答を考える。

前後関係から矛盾が生じないよう、踏み込めない部分に踏み込まないよう答えを調節してーーー、


「慣れた?」


「え?」


当たり前すぎる問に間の抜けた声が漏れる。

漏れた声に浦波が顔を刀羅に向ける。


「この学校に、と言うよりもーーーこのクラスに」


質問は至ってシンプルでありきたりだが、刀羅の答えを望む必要もなくそれは明らか。故に質問自体が無意味。

通い始めて約2週間。うち、一週間を病院で過ごしたため学校には来ていない。そして、退院し今日この場所に来るのが4日目。

それで、どうして学校にひいてはクラスに慣れようか。

クラスでは最早グルーブが形成され仲間同士で食事をするそういった段階まで来ている中で刀羅という異物は慣れることもなく慣れられることもない。当然だ。


「全然」


「そう、だよね....ごめんなさい」


「謝ることじゃないって」


自分に自身がないのか浦波はどうにも気負いすぎる。

戻りかけて浦波の前に立ち


「一つ聞いていい?」


声をかけた刀羅に浦波は顔を向けて「なに?」と、首を傾げる


「このクラスってどんなクラス?」


「....それを私に聞くの?」


浦波の言葉に刀羅は首を傾げる。

その仕草を見て浦波は怪訝な顔をする。


「ーーー分からない。私には分からない。」


『分からない』それが浦波の答えだった。

浦波はこのクラスに興味が無い。暗にそう言う意味が込められている。そう察し、これ以上の質問にまだ踏み込むべきではないと結論を出す。


「そっか。ーーーいや、そうだよね。」


「....」


浦波は答えずにプリントに視線を戻す。

それをこれ以上の質問に対する拒絶ととり、短い感謝の言葉を述べる。


「ありがとう。」


「...どういたしま...」


小さな声は鳴り響く機械的な金属音に掻き消されて最後まで聞こえない。無情な音の壁によって中途半端な形で会話が終了させられる。

浦波は刀羅と会話する前と同じように視線を落としプリントを熱心に見つめている。

その様子を見て今度こそ自分の席に戻る。


クラスメイトが急速に戻り授業の準備をし始める。

5時間目は世界史、担任の瀧本の授業だ。

瀧本の場合来るのが何であれ基本遅い。例外は帰りの会。


滝本は例の如く少し遅れ、やる気なさげにプリント入れを教卓に置く。

その段階で号令係が仕事を始める。


「起立、気をつけ、礼」


一連の挨拶の流れを踏みバラバラに座る。


「テスト範囲は終わってるので勉強して下さい。聞きたい事があれば前に来て。ーーーはい、自習」


相変わらずやる気のない瀧本は休みで空いている席に座る。

プリント入れを漁り、本を取り出す。


静かに自習をするのかと思いきやそうはならない。

うるさい集団の筆頭は高体連なのか単なる休みかは知らないが、いないがその1つ2つ下に位置するグループがずっと小声で話している。

最初こそ、問題を出し合っているもののいつの間にか全く関係の無いゲームの話に。


一体これのどこが崩壊していないというのか。

大声で喚き立てないだけマシかもしれないが、集中が削がれるのは当然だ。


「崩壊してんじゃねえか」


小声で悪態をつき、不満を募らせる。


問題はまだある。

この状況を一切注意しようとせず本を読むことに没頭する瀧本だ。

教師として騒ぐ生徒を注意して止めるのは仕事であり、その仕事を放棄するのは職務怠慢だ。


と、そこまで考えて自分が今いる場所の平均的なレベルについての考慮を忘れていたことに気づく。

この学校で求められるのは高い大学進学率ではない。究極、社会に出て生きて良ければいい。

それだけのために必死になって勉強する必要などないのだ。


そう、考え納得してしまい、怒りが諦めにそして、呆れと失望と落胆に変わる。


結局、チャイムが鳴るまで迷惑なグループ連中はゲームの話に花を咲かせ瀧本は注意せず本を読んでいただけだった。


「起立、気をつけ、礼」


チャイム音とほぼ同時に号令がかかり、授業が終わる。

瀧本はさっさと立ち去り、生徒はそれぞれに動く。


「最悪だ」


溜息と混じりに自習時間でのこのクラスに対して抱いた失望を隠すでもなく、小さく呟く。

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