第二十話 長い一日の終わり
6:50明陽と雪が帰ってやく約1時間が立つ。
あれから、雪と探野は刀羅と明陽を2人きりにすべく部屋から出ようとしたり2人は遠目に見守っていたりとしたのだが、全て刀羅と明陽が阻止した。
病室から出ていこうとするならそれを2人で遮り、2人が話さず見ているだけなら無言にと言った具合にどうにかして2人きりになるのを避けた。
それでも探野と雪はニヤニヤと含み笑いを浮かべて刀羅と明陽を見ていたが...。
そして、現在刀羅は探野と2人きりで病室にいる。
「やっぱり明陽ちゃんだったか。」
「だから違いますって。そういう関係じゃないです。」
「いやいや分かってる。分かってる。照らなくていいから。ね?」
「ね?じゃないですよ。てか、このやり取り何回目ですか?そろそろ飽きましょうよ。」
と、この調子でずっと探野が茶化して刀羅が微妙な受け答えをするというのが続いている。
「まだまだ6回目だから。2桁いってないんだよ飽きるわけないじゃん」
「もうそんなに...てか、何で数えてんですか?普通3回ぐらいで飽きません?」
「いやぁ刀羅君なら聞くかなぁって思ってさ。」
探野はベッドに刀羅はソファにと本来なら逆なのだが明陽達が帰ってからもソファに座っている方が都合がよかった。
「それより、これ食べませんか?俺1人じゃ多いんですよ。」
明陽が食べ切れなかった料理を指す。
「えー。私そういうの今やめてんだよね。」
「そんなに細いのにダイエットですか?それ以上痩せたら骨になりません?」
探野はベットから立ち上がる。
「何かそれ、褒められてる気がしないんだけど?」
「だって今なら丁度いいいいかちょっと痩せ過ぎぐらいですけどこれ以上は...ちょっと...」
探野は台車の向こう側に立って刀羅を見る。
「この体型も維持するのかなり大変なの。それに最近色々と食べて太っちゃったし...」
刀羅は探野を見上げる。
色白の肌が頬をこけているように見せる。か細い腕は曲げれは折れそうだ。
「今のままのほうがいいです。というか、もう少しぐらい太った方がいいですよ。」
「そんなこと言って、私に食べさせたいだけでしょ?」
刀羅は頭をかいて苦笑する。
「図星ね。....でも、これちょっとなら...」
「食べてくれますか?」
「仕方ないわね。こんな豪華な料理残すのもったいないし。」
結局探野もこの豪華な料理を食べたいだけなのだろうと刀羅は心中呟く。
「そういえば、意外でしたよ。」
寿司に手を伸ばしていた探野は何のことと問いたげな顔で七面鳥のチキンを切る刀羅を見る。
「雪とあんなに仲いいんなんて。」
「ーーーあーそういうこと。」
探野は取ったサーモンを醤油に付けて一口で食べてしまう。
「だって明陽ちゃんずっと君に付きっきりで雪ちゃんそこまで出来ないから暇そうにしてるし。そりゃ君のこと何も知らない私としても聞いてみたいことあったしねぇ。」
「聞きたかったのは俺の事じゃなくて俺と明陽のことですよね?」
「鋭いねぇ。」
探野は取ったマグロを醤油に付けながら含み笑いを浮かべる。
「そりゃーーーあんだけしつこく聞かれれば嫌でも想像もつきますよ。」
探野は苦笑しながらイカの寿司に手を伸ばす。
「まあでも私もびっくりしたわよ。」
今度は七面鳥のチキンを口に運ぶ刀羅が何のことという問いたげな顔になる。
「だってねぇ。雪ちゃんが言ってた君と意識取り戻した後の君のギャップがねぇ。」
「ホントに何のことですか?」
切り終えた七面鳥のチキンに本腰を入れて食いにかかろうかというタイミングで含み笑いをしながら意味深な言い方をする探野を問う。
とりあえずコップに入れたコーラに手を伸ばす。
「だって雪ちゃんは君のこと明陽ちゃんを追いかけて海淵にって言ってたからさ。てっきり明陽ちゃんのことが好きだからだと思ったんだけど...?」
聞いている間飲んでいたコーラを吹き出しそうになるのをなんとか堪えた。
「あの野郎、余計なことを....」
悪態をつく刀羅を尻目に探野はいくらの寿司に手を伸ばす。
「他には?」
「他にって?」
察しの悪い探野に若干を苛立ちを覚えつつ、
「だから、俺のこととか明陽のこととか...」
危うく勢いで言うべきでないことも言いそうになるのを堪えて、
「特には何も。ただ、テストが近いとか学校が面倒とかの愚痴ぐらいだだったけど。」
どうやら、肝心なことは雪も言ってないようで表情には出さず安心した。
探野は最後のマグロの寿司に手を伸ばす。
「てか、こんなとこにいていいの?」
いいわけがないのだが、退院は明後日と言われてるのだからどうしようもない。
「出来れば帰りたいですけど退院は明後日って...」
「私の方から先生に頼んであげようか?」
「退院を早めることを?」
探野は得意げ笑う。
「もちろん。」
「なら、お願いします。」
「大丈夫大丈夫私が言えばどうにか...って飲みこみ早いわね。」
ガクッと大げさにズッコケる探野を見て刀羅は笑う。
「普通いいんですか?とか聞かない?」
「だって出来るって言ったじゃないですか。それなら素直に任せた方がいいじゃなですか。」
「いや、そうだけど。遠慮っていうかなんていうかは...」
なおも食い下がる探野にローストビーフ食べる手を休め。
「ないですよ。」
ハッキリと言う刀羅に何がおかしいのか知らないが探野は笑い出した。
「まあ、いいや。頼んであげる。」
「お願いします。」
探野に座礼して顔を上げ、
「さっきから寿司しか食ってませんよね?」
「いや、ちゃんとコーラ飲んでるし。」
「それ食ってるって言わないでしょ!」
雪との関係とは逆に今度は刀羅がツッコミ役だ。
「まあまあ、仕方ないわね。じゃあこれ。」
と、箸で若干の黄色っぽい白い漬物を取る。
「それガリじゃないですか!寿司の一部でしょ!」
ツッコむ刀羅に探野も負けじと応戦する。
「いやいや、そんなことないってちゃんと別枠だから。」
「別枠ったって寿司の付属品ぐらいでしょ。現に、寿司の皿の中にあるじゃないですか!」
「そういうのは気にしない気にしない。」
軽くあしらおうとする探野に半ば諦めて
「寿司食ってもらったほうがいいんですけど!」
刀羅の絶叫のようやツッコミに探野は吹き出した。
つられて刀羅も笑いひとしきり笑って探野が口を開く。
「分かったわそれも食べるからちょっと切り分けたの何個か空いてる皿に入れといてもらえる?その間これ食べちゃうから。」
探野は残ったサーモン、イカ、いくらの寿司とガリを指す。
「分かりました。」
刀羅は切り分けたチキンを明陽が使わなかったフォークで刺してあまり汚れていなさそうな皿に移す。
切り分けたうちの4分の1を移し終えたところでフォークを皿に添えて横に座る探野の正面に出す。
「ありがと」
探野は短く答えて食事に戻る。
刀羅もならって食事に集中する。
探野と刀羅はお互い無言でとにかく明陽が残した丸々一つの七面鳥のチキンとその他もろもろの料理を食べ尽くすことに終止した。
いくら一流のシェフが料理したと言っても脂の塊。もちろん、脂はある帝都は処理されているのだろうが、日に3度しかもこの夕食については2匹目だ。
きつかった。
探野は1度目のはずたが、その脂っこさに同じように箸はあまり進んでいなかった。
それでもなんとか完食して今は病室刀羅1人だ。
食べ終わって5分もしないうちに行ってくると探野は医者に刀羅の退院を早めることを言いに行った。
それで、1人になった刀羅は洗面所で歯を磨きながら考え事にふけっている。
今日以前に起こった問題には相変わらず散々考えてもいい答えは浮かばない。
だから、今日新たに浮上した問題について考えることにした。
それは、この場所のことであったり、強姦間集団のことであったり、あの浜村という女のことであったり...。
だが、一番の問題は刀羅の教官になると言ったあの男のことだろう。
背が高く痩せたあの男...
遠めからシルエットだけ見たなら荒井にも見えるだろう。
だが、顔は大分違っていたはずだ。
まじまじと顔を見ている余裕はその時になかったのだから。
ただ、荒井のように目のまわりに濃い隈はない。それに、荒井の鷹のような鋭い目と違って落窪んでいるようだ。
これも荒井同様、あまり健康的な痩せ方じゃないのは確かだろう。
あの強姦魔の仲間として刀羅を襲う計画とは別の計画があってそこで荒井になりすますつもりだったのかもしれない。
そもそも、何故刀羅を襲ったのだろう?
やはり、実力を知るためなのだろうか。
それにしてはいささかぬるい気がする。
それに、教官ということはいずれ会うことになるのだからその時に実力を試せばいいだろうに...。何故、わざわざあんな方法で?
と、疑問は浮かんでも答えは出ない。
そこで、ふとあることを思い出して口をゆすいで洗面所を出て、ベットの下にあるバッグを引っ張り出す。
引っ張り出したバッグの中を掻き回して目的のものを見つけ取り出す。
「....」
取り出したのは荒井が去り際に意味深な言葉を残して刀羅に渡したものだ。
荒井が言った条件も今は満たしている。
しかし、刀羅は開けるのをやめた。
これを開けるのは荒井がいる時の方が都合がいいと考えたからだ。
そして、その箱をもう1度バッグの中に押し込む。
それから、ベットに座ってあれこれと考えてみたが段々と頭が回らなくなり目を開けているのが辛くなった。
結局、探野が戻ってくるのを待たずに刀羅は電気を常夜灯にして寝ることにした。
5分と経たず刀羅は眠りの中へと引きずり込まれた。




