第一話絶望の淵
狭い路地の中フードを深くかぶり黒装束のようなものをまとって手を前に突きだしたて意味のわからない(おそらく呪文だろう)言葉をいう見るからに怪しい男。それと向かい合う5人の若い男女。
次の瞬間黒装束の男の一番近くにいた若い男が血を大量に噴き出しながらその場に倒れる。
一瞬何が起こったのか分からずただその光景を見ている他の4人。
意識を取り戻したように一人の女が取り乱し
「キャーーー」と叫ぶ。
冷淡で低すぎる声で
「黙れ、目障りだ。サぜス!」
すると叫んだ女も血を大量に噴き出しながらその場に倒れる。
女の隣りにいた若い男が仲間を殺された怒りにかられ黒装束の男に突っ込むだが、その男も同じように血を噴き出し死んだ。
残るのは怯えきって叫ぶことすらできない女とそれを隠すように震える足で立ち上がる男だけだ。
「俺が時間を稼ぐだから通りまで走れ!」
「え、いやでも」
「早くしろ!」
「わ、分かった」
と言い彼女が走りだす。
「逃がすか」
「させるかよ!」
「仲間見殺しにして挙句女も逃せないんじゃ惨めすぎんだよ!」
と言って黒装束の男の前に立ちはだかる。
「カッコイイねぇ女を守るために自分を犠牲にするか。けど、その勇気ももう少し前に出てたら彼も死ななかったかもしれないのにねぇ。」
嘲笑混じりではあるが依然冷淡な声は心に火をつけた。
「サぜス!」
唐突に3人を殺した呪文を唱える黒装束の男
それを間一髪で避ける。
「へぇこれを避けれるとはねぇ。なかなかやるじゃないか。」
「お前のその魔法みてぇのは手の向ける先に真空波みたいに飛ばしてくる。範囲も狭い、だから手の向きにさえ気をつければ避けられるんだよ!」
と言って殴りかかるがひらりとかわされる
「なかなかいい分析だ。」
と言いながら攻撃をかわす黒装束の男。
黒装束の男は8発目の攻撃を避けると回転してから蹴りをみぞおちにいれる。
魔法を使うので油断していたがその威力は内臓を潰す勢いと力だった。
とっさに受け身をとり頭だけは守った。
だが、背中から落ちたことと強烈な一撃を食らったことで吐きそうになりその場でのたうち回る。
吐くのをなんとか堪えて震える足を鼓舞して立ち上がる。
圧倒的な実力差、黒装束の男は魔法を使えるだけでなく格闘でも相当の実力があるようだ。
だが、そんなことを理由に諦めることはできない
「諦められるかよ!」
「うおぉぉぉぉぉ!」
雄叫びをあげ一矢報いようと殴りかかるしかしその一撃も黒装束の男はたやすくかわす
「サぜス!」
とっさに腕で庇う。
真空波は腕を深々とえぐり大量の血を噴出させる。
その場に倒れると目の前には赤い粘着質の液体が大量に見える。
それが自分の血であることを認識し死を覚悟する。
ー俺は死ぬんだ。
そう確信した。
「全く人間とは無様だ。」
冷淡な声で言う。
すると通りの方から「大丈夫かー」と言う男の声走る足音が聞こえる。
「お前はせいぜい次に俺と会う時まであの女守るんだな。」
「ど...い...う...こ...と...だ....」
消え入りそうな意識の中最後の力を振り絞って言葉にする
「いずれ分かる。」
そう言い残して黒装束の男は完全に姿を消した。
そこで影月刀羅は意識を無くした。
刀羅は息を荒げて目を覚ます。
刀羅は男にしてはやや長めの黒髪、切れ長なつり目、身長は170前後で中3なら少し高いくらい体は鍛えているらしくかなり筋肉質ではあるが全体的に見ると細身の高校生に見える。
「ハァハァまたか。」
ーこの悪夢見るのはあれから何度目だろう。
あの日2016年3月28日、刀羅達仲のいい連中が全員第一志望の高校に受かったことを祝うため一番最初に殺された大里海生の家でパーティーを開くことになりその買い出しをしている時のことだった。
二番目に殺された伊藤友梨がスーパーまでの近道だと言い路地を通り抜けようとした時にあのフードを深くかぶった黒装束の男に出くわしたのだ。
海生は5人の先頭を切って歩いていた。狭い路地の中で5人広がって歩いていたせいで道を占領していた。
反対側から歩いてくる黒装束の男にぶつかったことに海生が因縁をつけてあの悪夢と同じことが起こった。
その後刀羅が目を覚ましたのはそれから約1ヶ月後のことだった。
目を覚ました刀羅は自分が何故病院にいるのかを悟り泣き叫んだ。
幸い個室だったため他の患者に大きな迷惑をかけずにすんだ。
泣き叫び疲れて冷静になるとあの事件のことを考えていた。
黒装束の男が殺した大里海生、伊藤友梨、辻井智也の顔が思い出される。その顔達は次第に色を失い死んでいくそして死ぬ。
それだけがずっと刀羅の頭の中で繰り返される。
ふと刀羅は黒装束の男が最後に言った言葉を思い出した。
ーお前はせいぜい次に俺と会う時まであの女守るんだな。
この言葉が刀羅が時間を稼ぎ逃がした石神明陽を指すのだとすぐに悟った。
刀羅はそこで明陽が無事なのかを確かめていなかったことに気づいた。
急いでテレビをつけニュースにしてみるとアナウンサーが明日の天気予報を伝えていた。
「こんなのはどうでもいいんだよ!」
テレビを乱暴に叩いて怒鳴った。
なかなか生存者に話題がいかないことに焦れて近くにあるスマホとって最近のニュースについて調べる。
だが、その中にあの事件のことは一切書かれていなかった。
もしかしたらあの事件は起きていなかったのではいなか。
そんな疑問がよぎる。
刀羅はその疑問を肯定しようしとしていた。「あんなことは起こらなかったのだ。全て夢だ。」と。だが、あの時見た全てが夢だとはどうしても刀羅は信じられなかった。
肯定したいはずの疑問を違うのだと確信している自分がいた。
なにより今、自分がこの場所にいることがそれを裏付けているのだと。
そしてつけっぱなしテレビからあの日の事件のことが流れだした。
「1週間前の3月28日未明に起こった中学生殺害の事件について警察は未だ凶器、犯人の特定が出来ていないとのことです。」
その短い報道が刀羅達に起こった事件なのだと分かった。
刀羅は枯れたはずの涙がまた際限なく流れてくる。
刀羅は嗚咽混じりに泣き叫んだ。
泣き疲れた刀羅はあることに気づいた
ー何故誰もこないんだ?
こんなに叫んだり物を叩いたりしているのに一向に誰かが来る気配がない。
改めて部屋を見渡すとそこは白以外の色を忘れてしまったような世界だ。
天井、壁、扉、床、ベット、トイレ、キッチン、風呂、テーブルに2つの椅子の全てが白かった。
唯一キッチンのシンクだけが銀色でこの白い世界では場違いな感がある。
洗濯機や冷蔵庫、クーラなども揃えられ十分に生活を送ることができるようにあるそれらは明らかにここで生活することを考えて作られている。
広さは15畳ほどで一人でいるにはやや広すぎるくらいだった。
そんな風に辺りを見ていると突然ドアが開き白衣をまとった一人の男が来た。
七三にわけられた髪、鷹のような鋭い目の周りに濃く色づく隈、白衣をまとっていてもわかるほど痩せた体、細すぎて折れてしまうのではないかと心配になるほど手と足、背は180cmほどで刀羅とは頭1つ分違う。
年は20代前半というところだが、不眠不休で働いているのか若さというものを感じない。
そんな男がなるべく友好的な笑みを浮かべやってくるが、笑い慣れていないのかそれは不信感を抱かせるだけだった。
「やあ、こんちには。影月刀羅君。」
と男にしてはやや高めの声で言われた。
努めて優しくしたその声からは多少の安心感を感じられた。
「僕は君の日常復帰のサポート係の荒井優希だ。よろしく。早速だが血圧検査や運動機能検査等々やることが多いからはー」
「そんなことより明陽は!石神明陽は無事なんですか!?」
「まあまあ落ち着いて、彼女なら無事だよ。」
刀羅は安堵で張り詰めいていた緊張が解けてその場に崩れ落ちる。
「大丈夫かい?」
肩を抱いて心配そうに聞いてくる荒井が体を起こさせて椅子に座られせてくれる。
「ではこれから説明に移らせてー」
刀羅の腹が空腹を訴え「グー」となる。
「ああ、そうかまだ起きてから何も食べなかったね。」
と言ってドアの横についていた内線の電話を使い指示を出した。
「何か必要な物があればあの電話か僕がここにいる時にたのんでくれていいから。」
「じゃあ検査のことはとりあえず後回しにするとして何か聞きたいことはあるかい?」
と言って刀羅の向かいに座る。
「まずあの事件のあとのことを教えてください。」
「そうだねあの事件は石神さんが人を呼んだことで君達を襲った犯人は逃げたようだけどその犯人がどのうような人物なのか凶器がなんなのかを推定することすら出来てない状況なんだ。」
「てことは何にも分かってないことでいいんですね?」
「現状はね。ただ君が意識を取り戻したのだから君から得られる情報で変わるかもしれないけれどね。」
荒井が淡々とそういうとちょうど食事が運ばれてきた。
「食事が来たことだし事件の話は一旦終わりにして他に聞きたいことはあるかい?」
「なら、この部屋のことについて。」
と言って運ばれた食事に手を付ける。
食事はなかなか豪勢なもので一級レストラン並であった。
あまりにも豪勢な食事に初め驚いたが食べ始めるとそんなことは自然にきにならなくなった。
「この部屋は完全防音になっていてこの部屋中からの音は部屋の外にひびかない。そして部屋の外からの音も遮断されている。」
その説明で荒井の足音が聞こえてこなかった疑問が解決された。
「なら窓がない理由はなんですか?」
荒井は感心したように腕を組み
「一つはマスコミ関係の追求を逃れるため。もう一つは襲撃の可能性への懸念からというところかな。」
パンを口に入れながら荒井が言ったことを改めて吟味する。
「ここはそれだけのためにあるわけじゃないですよね?」
「君はすごいねこんな短時間で分析するんだから。」
と感心したような声で言い、
「ああ、そうだよここでは君の体に何か異変が起きてないかも調べるためにある。あと、その間君が逃げ出さないようにということでもあるけどね。」
食事を終えた刀羅が食事を運んできた配膳係の女にコーヒーをもらいそれを一口すすると、
「ならこの部屋のことについてはいいです。」
「この部屋のことについてはか。」
「ええ、あのテレビのこととスマホのことについてです。何故日付をいつわったんですか?」
といつの間にか消えていたテレビを指し問う。
この質問には荒井は本当に驚いた様子で目を丸くする。
「何故そう思うのかな?」
「理由は一つです。僕の傷は1週間で治るほど浅くはなかったからです。」
荒井はそれを聞き「ふーん。」と感心し
「理由は君に先入観を抱かせずあの事件を語ってもらいたかったからと君を焦らせないためだよ。」
そういうことかと納得し
「それで本当は今日は何日なんですか?」
「今日は4月26日の火曜日だよ。」
あと2日で事件が起きてから1ヶ月だ。
そして忘れていた不安と焦燥感を思い出す。
「重複するんですが、今明陽は本当に無事なんですか?」
不安に顔を歪めて聞く刀羅に
「彼女には数人の警備をつけてるし、1時間ほど前に安全だという報告も受けている。だからその点は心配しなくていい。」
刀羅は再度安堵に胸を撫で下ろす。
そんな刀羅を見て「じゃあ」と言い
「そろそろ本題に入ろうか。」
声を低くし真剣な顔つきになった荒井を見て刀羅は息を呑む。
食事の間敢えて考えることを避けていた事件について聞かれると思ったからだ。
「まずはあの傷について聞きたい。あれはどうやってつけられた傷なんだ?」
案の定刀羅の考えていたことを聞かれた。
あの超常的現象をどうやって説明すればいいのか迷っていると
「あの傷が仮に刃物で斬りつけられたものならそれは日本刀や剣のようなものになる。だが現在の日本でそんなものを持ち歩いていたら怪しまれて警察に通報されて即逮捕だ。だが、今日に至るまでそんな物を持った輩は捕まっていない。」
荒井があの傷が刃物で斬りつけられたものでないという考えであるのだと説明した。
ーこの人は気づいてるのかもしれない。なら、
「あれは多分魔法によるものです。」
それを聞いた荒井は驚いた様子もせず目を閉じ黙考している。
目を開け黙考をやめると、刀羅と向き合い
「魔法か...。確かに彼女も同じようなことを言っていた。だが、中学生からの聴取だけでそれを信じることは出来ない。」
荒井は落胆する刀羅を見て「だが」と言葉を継ぎ
「それは国としての見解だ。俺個人としては日本刀や剣を持った輩がうろついてるっていうよりは信憑性があると思っている。」
刀羅は口を開け驚くと
「信じてくれるんですか?」
「そうだね。君が嘘をつくことで君に利益があるとは思えないしね。」
荒井は回りくどいがようは刀羅を「信じる。」と言っているのだ。
一度否定してから肯定するあたりなんともいけ好かない。
だが、あまり嫌な心地がしないのが不思議だ。
そして荒井が語る事件のことに補足する形で事件の内容を話した。特に犯人が最後に言い残した言葉については何度も口うるさく言った。
1時間ほどそんなことをしてから
「君も疲れてるだろうから、とりあえず今日はこれぐらいにしておこう。」
荒井はそう言って立ち上がりドアノブに手をかけると振り向いて
「何か必要なものはあるかい?」
刀羅は少し黙考して考えると
「物なら本とかが欲しいです。」
「物ならね。どんな感じのがいいかな?」
「ミステリーとファンタジー系で。」
その答えに少し意外そうな顔をする荒井は
「ファンタジーとは意外だね。」
と言うと続けて
「物じゃなければ何が欲しいのかな?」
「三つほどありますが一つ目は稽古をつけて欲しいということです。この事件で俺は自分の力のなさを痛感したからです。二つ目は明陽の学校に俺を入学させて欲しいということです。明陽はこれから先危険に見舞われるそのときに助けてやれるのは俺しかないと思うからです。」
と言葉を区切り荒井の反応を伺う
「分かった。検討してみよう。それで、三つ目は?」
「これは欲しいというよりは意見に近いんですけど俺が渡す情報を元に捜査するなら深追いは止めてしないで欲しいということです。」
荒井は少しを眉を寄せて怪訝そうな顔をする
「それは復讐がしたいからかい?それならば協力はできないよ。」
「確かに復讐したいという気持ちがないとは言えません。ですが、あの魔法を使う男と警察官や軍が戦うようなことになれば被害はとても大きいものになると思うんです。」
と言葉を区切り息を吸って「それに」と言葉を継ぎ
「あの男だけが魔法を使えるわけじゃなくて他にもそういう奴がいると思うんです。だから、そういう奴らと戦うことはまさに戦争だからです。」
黙って聞いていた荒井はしばらく考え込むと
「まあ、確かにそうだね。うん。分かった。上にも忠告しておこう。」
「はい。ありがとうございます。」
「本はすぐにとどけさせたほうがいいかな?」
と緊張していた空気を一転させ
「いえ、今日はもう寝るので起きてからに欲しいです。」
「うん。分かった。じゃあおやすみ。」
と言ってドアを閉めて荒井は出て行くと自分の手が手汗で濡れていることに気づいた。
ー思ったより緊張したな。
そして荒井が気遣って持って来てくれた睡眠薬を飲んで寝ることにした。




