表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶希  作者: 自来也
第一章 謎多き始まり
18/32

第十七話 大切な友達

刀羅達が病院に着く頃には辺りは夕焼けに照らされ炎のようなオレンジに染まっていた。

時々木から滴り落ちる雨粒が太陽の光に反射して見せる光がなんとも綺麗で、何度か立ち止まり見入ってしまった。

そのせいもあって来るのに30もかからなかった道をその1.5倍近い時間かけて戻った。

しかし、これは一概に女性陣のせいと言えよう。

雪と明陽は写真部ということもあって写真のアングルやらなんやらでやたら時間がかかった。

歩きながら話して(刀羅はほとんど話に交ざってないが)分かったのは、あの女の名前が浜村洋子はまむらようこで年は22で今年大学を卒業して社会人になったばかりだという。

入院している知り合いは高校時代の親友ということだ。

何でも肝臓の病気らしいが詳しいことまではよく分からないらしい。

それらを聞き出したのは7割がたが明陽で雪が残り2割5分というぐあいだ。

浜村洋子と名乗った女を観察し続けていた刀羅だが、やはりどこにも不審な点は見当たらない。

言動に注意を払っても、格好に妖しい所がないか注意深く観察しても何もない。ただ、印象はあくまで可哀想な強姦被害者。

刀羅が考えるあの男の仲間だという印象は全く受けない。

だが、疑いを完全に解いてしまうのも早計過ぎる気がして刀羅はどうにも納得がいかない。

しかし、表情出すわけにも直接聞くわけにもいかない。

結局観察を続けるしかないのだ。


「そろそろ行こうぜ。」

「うーん...もうちょい。」

「あとちょっとだけ。」

刀羅の呼びかけに雪と明陽は各々答えるが、どちらもアングル探しをやめる気はないようだ。

刀羅の隣では明陽と雪に付いているのも飽きたのか浜村がいる。

聞きたいことは山ほどあるのだが、明陽にああまで言われては流石に聞づらい。

「すいません。案内するって言っといてこんなことになって...」

「大丈夫ですよ。何か、自分も高校生になったみたいで楽しいですから。」

浜村は落ち着いたのか刀羅とも普通に話せるようになっていた。

刀羅も疑いを捨てきれないまま、それでも普通に話して探りを入れたりしている。

それも全て空振りに終わっている。

「何か、今の年寄りみたいでしたね。」

浜村は口元を抑えて笑う。

「あの、時間大丈夫ですか?」

「ええ、どのみち泊まるつもりでしたから。」

病院に泊まるというほど酷いのかという疑問とあの場所に泊まれるのかという疑問が湧く。1番の疑問は、

「荷物は?」

「泊まるのは今日だけで明日になったらすぐ帰るので財布とスマホがあれば大丈夫なんです。」

それにしても、軽いようにというか普通病院に行くなら見舞いの品ぐらいあってもいいのではないかと思ってしまう。

「それより、あなたは明陽ちゃんと雪ちゃんどっちが好きですか?」

また、この手の恋愛関連の質問が来たことに半ば呆れる。

先程までの弱々しさは若干あるもの好奇心という輝きが今の浜村の目にはある。

やはり、この手の話は女性としてテンションが上がるものなのだろう。

「どっちもただの友達ですよ。」

「なら、どっちも大切な友達なんですね。」

浜村が今までの何を見てそう判断したのかと刀羅は疑問を感じる。

しかし、その疑問とは裏腹に刀羅は浜村の言葉にはとても納得がいっていた。

「大切な友達....そうですね。」


大切な友達、確かにそうだ。しかし、最早それだけの言葉では到底足りない。

刀羅からすれば、明陽も雪も絶対に失いたくない存在なのだ。彼女達を失うくらないなら死んだ方がいいし、自分の命か彼女達の命と聞かれれば迷わずに彼女達の命を選ぶ。そう言い切れる。

それは、友達なら当たり前だと思うかもしれないが、人は意外と冷酷だ。自分が利益を得るためなら損なわないためなら平気で他人を切り捨てる。

口では救うと言えるかもしれない。しかし、いざその状況に陥ったら誰しもが自身の利益を優先する。それが、どんなに仲のいい友であれ、どれだけ愛している恋人であれ、血の繋がりのある家族でさえも人は切り捨て自身の利益を優先し切り捨てる。

刀羅自身もそう思っていた。2ヶ月前の事件で友を失っていなければ。

あの事件で刀羅が失ったのは単に友であった人間死んだという事ではない。もし、それが目の前で起こったことでなければきっと刀羅はここまで友の存在を大きく感じることはなかったに違いない。

よく人は失って初めて気づくってことを言われる。これは事実だ。失ったからこそ分かる大切さは1度失った刀羅にはもう分かる。

だからこそ、あの時に生き延びた明陽は友としてだけでなく刀羅には大きな希望でもあるのだ。

失って気づいた幸せを希望をいづれ必ず訪れる不条理から守れる力が必要なのだ。2度も大切なものを失うことなどしたくない。

復讐という目的を果たすためにも力は必要だ。とてつもない力が...。覚悟が....。


「待たせたな。」

「ごめんなさい。撮りましたし行きましょう。」

全く悪びれる様子のない雪と申し訳なさそうな明陽。

同じ女でもこうも違うのかと呆れる。雪にはもう少し女らしさというものがあった方がいいのにと刀羅は思う。

「もう、病院直行するから途中で止まんねぇぞ。」

「大丈夫もう十分撮れたから。」

明陽は首にかけたカメラを大事そうに両手で持って答える。

「....」

答えない雪を刀羅がじっと見つめる。

そのまま数十秒の沈黙が流れる。

「なんだよ?」

沈黙に耐えかねた雪が口を開く。

刀羅は答えずただ、視線だけを雪に向ける。

「分かったよ!もう撮らないよ!」

「よし行くか。」

「無視かよ!答えろよ!」

「行こう。」

「てめぇ!2回も無視すんなよ!おい!」

歩き出す刀羅は顔をふせて笑う。

見ていた明陽と浜村も笑う。

唯一ネタにされた雪だけはふてくされたように頬を膨らませる。

「いい加減にしろよ!!」

「おっ..と危ないぞ。カメラあんだから。」

背後から襲いかかってきた雪を華麗に避ける。

「避けてんじゃねぇ!アイヤー!!」

「だから、カメラが壊れるぞ。」

「アンタは何でさっきからカメラの心配してんだよ!止めろよ!アンタ達もだよ!」

雪が次々と襲いかかってくるのをダンスでも踊るように避け続ける刀羅。雪は茶化されたことでさらに怒り、地団駄を踏む。

「だっていつもの漫才でしょ?」

「だから違うわ!アンタの前で1回もやった覚えないわ!」

「えっ?いっつもやってるじゃん。ねぇ、刀羅?」

「そうだな。まあ、俺が突っ込めてないから漫才になってるか分かんねぇけど。」

刀羅は吠える雪を横目に明陽の質問に答える。

「いや、アンタらはボケだろ。ツッコミは私だろ!....ってそうじゃない!!!」

雪は完全に刀羅のペースに乗せられ自白する。先程よりも激しく地団駄を踏む。

その様子に見ていた明陽と浜村は大笑い。

「キィーーー!!」

ペースに乗せられた怒りのあまり、雪は地団駄を踏みながら甲高い声で吠える。

「とうとう猿になったか?けど...今のお前には丁度いいな。」

刀羅は答えて、猿が『憤怒』の象徴であることを思い出して勝手に納得して「うん。うん。」と頷く。

「どういう意味だよ!私は猿じゃない!人間だ!」

「でも、元を辿れば人間も猿も同じだから。」

「そんなこと言われんでも知ってるわ!」

「おおそうか。そうか。知ってたか。知らないと思ったよ。」

「てんめぇ...1発殴らせろ!いや、足りん10発だ!」

雪が繰り出す拳8発をまたまた華麗に避ける。

「いい加減に食らえ!」

雪は怒り任せに右手で拳を繰り出す。

それを刀羅が左手で受け止める。

「受け止めてんじゃねぇ!」

「やーなこった。」

刀羅の左手を引き剥がそうにも剥せず雪は空いている左手でも殴りかかる。

だが、刀羅はそれも軽々と受け止める。

「はい。10発終了。」

「お前数えてたのかよ。」

「まあ、そろそろ疲れたからさ。よし、終わり。」

刀羅が切り上げようとすると雪は握っていた拳を開いて刀羅の手と絡める。

「ん?何してんの?」

そして、そのまま頭を後ろに逸らし頭突きをかます。

「はっ!」

「うっ!?」

それは、刀羅のちょうどへその辺りにガードもできず当たり、刀羅は絶句する。

握っていたても離れ、その場にうずくまる。

「お前...それやんなら普通に頭にやるだろ。」

「だって届かないんだからしょうがないでしょ。」

手を叩く乾いた音がする。

「もう。終了。」

明陽が刀羅に歩み寄りながら言う。

「大丈夫?」

「まあ、色々危なかったけどどうにか。次はもうちょい早めに止めてくれ。」

「分かった。」

「ちゃんとガードしろよ。たくっ」

浜村の隣に立って明陽と刀羅を見る雪が不満そうに言う。

「出来るわけねぇだろ。」

「防御は専門外か?よく、そんなで喧嘩する気なれんな。」

「普段ならちゃんとやるわ。急にやるから...」

「急にやるから防御できないとはっ....」

言葉に詰まる刀羅に雪は容赦ない。

ただ、雪は勘違いをしている。

「ちげーよ。急にやるから足あげそうになったんだ。それ止めたらガードなんか出来ねぇよ。」

「....はっ?」

「だから、足上げんの止めてたらガード間に合わなかったんだよ。」

「んと、それってあたしが危なかったと言いたいわけ?」

「そうだけど。」

「アンタ流石にその言い訳は酷すぎるわ。」

「なら次は止めないぞ。」

この言葉に雪の乾いた笑いが起こる。

「って言いたいけど俺も紳士だからそんなことはしないけどさ」

「アンタのどこが紳士だ!」

「どっからどう見ても紳士だろ。」

「なら、レディーを侮辱なんてしないだろ!」

「ここには2人しかいないと思うけど?」

刀羅の煽りに雪はまた顔を赤くする。

「いるだろ!3人だろ!」

「どこに?」

「この野郎....やっぱ殴り足らん!」

そしてまた鬼ごっこが始まってしまう。

見ている明陽と浜村はやれやれと半ば呆れているがその様子に笑っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ