第十五話 叫びの答え
走り続ける森の中、雪の指した方向に進めば進むほど本道から逸れた獣道になっていく。
森も深くなり、まず本道を歩いてるだけなら気づけない。
「あれか。」
そこには、男4人が木を囲むようにして取り囲む異様な光景があった。
「んじゃ、あそこにいるってわけね。....たくっ!」
刀羅は求めた相手とは違い落胆する。
「まあ、でも男として見過ごせねぇわな。」
情けない男の集団を見て今までとは違う怒りを覚え、拳を握り男達の方へ音を殺して歩み寄る。
「ねぇねぇ、お兄さん達何してるの?」
不意に呼びかけられた男達は戸惑いの表情を浮かべる。
「テメェ何なんだ?あぁ!?」
「あーあ、やっぱそういう人達だったわけね。」
刀羅は男のうち坊主頭の明らかに柄の悪いヤツが掴みかかって来るのを避けて男達の囲む木に背を預け下着姿だけになった女を確認する。
「今すぐこの人に服返して金渡して尻尾撒いて逃げるなら痛い目には合わせないからさ。いい提案でしょ?」
「舐めてんのか?調子乗んじゃねぇよ!」
今度は金髪のアクセサリーを大量つけた男が刀羅に殴りかかる。
それを、体勢を低くし懐に入り相手の顎に刀羅の右アッパーがクリーンヒットする。
「ーーーーうがっ!」
男は突然のことに受け身も取れずに落ちていく。
「ーーーっ!いてっえ!流石に顎かたっ!」
拳をさすり顎の硬さに絶句する刀羅。
その様子に他の3人の男は驚愕し、怒りを露わにする。
「テメェ...」
「降参する気にっ...ならないみたいだね。」
刀羅が顔を上げるとほぼ同時に最初刀羅に掴みかかってきた坊主頭が正面から殴りかかってくる。
今度はそれを受け止め鳩尾に蹴りを入れる。
「がはっ!うっ...」
蹴られた男は痛そうに腹を抑えて嗚咽を漏らす。
「あーあ、折角人が好意で提案してその実証までしてあけだのに...。まあいいやかかってくるなら覚悟してねお兄さん達...俺は虫の居所が悪いんだ!」
刀羅は嫌なものを思い出させられた怒りを、目的とは違う奴であったという怒りを強姦魔にぶつける。
男達はそんな刀羅に気圧され、尻込みする。
それを見逃す刀羅ではない。
刀羅から向かって右、背の高い痩せすぎの男に詰め寄る。
男はビビって腰の入ってない拳を繰り出す。
それを右に体勢を逸らして躱し、頬に右フック、右足で踏みとどまって左足のつま先で鳩尾に蹴りを入れる。
「がぁ!うっ...うっ...がぁっ!」
さらに、うずくまったところに思い切り蹴りを入れて相手を吹っ飛ばす。
「お前酷過ぎる...」
「それはアンタらに言われたくないわ。」
刀羅は残る1人の男に向かって言い放ち歩いて向かう。
男は皮のジャンパーに下はジーパン。と、4人の中では1番落ち着いた印象を与える服装をしている。
「じっくり殴ってやりたいとこだけどその前に...」
刀羅は怯え続ける女に自分のジャージの上着を体を包むようにかける。
「コレ着ててください。着たら、もうすぐあっちから髪の長いのと背のちっちゃい2人の女の子が来るはずです。だから、そっちに走ってください。」
「あなたはどうするの?」
「大丈夫ですよ。」
心配する女に笑いかける。
「行ってください。」
「ありがとう。」
女は刀羅に感謝を伝え、刀羅が示した道を走って逃げる。
「これでタイマンだ。まさか、逃げないよね?」
「んな、ことはしねぇ。俺も男だ。ここまで来て引き下がるわけに行くか!」
タンカを切って刀羅に向かってくる。
「まあ、潔いいけど馬鹿なのかな?」
刀羅は拳を避け男の素早く懐に入り込み、腕を掴んで1本背負い。
男は自らの走っていた勢いに刀羅の投げが加わり凄まじい速度で地面に叩きつけられる。
「があっ!...あっ...あっ」
背中を強打し苦しそうに転げ回る。
刀羅は男を押さえつけ、仰向けにし男の腹に座る。
「ぐっ!...っふ!」
「あーあ、つらそ」
「おま...はぁ。好きにしろ。」
男は観念したように四肢を投げ出す。
「ふーん...」
刀羅は男の態度に納得して立ち嘆息する。
男は刀羅の様子に間の抜けた顔をする。
「それで、気配消したつもりか?バーカ!」
「クソがァ!!!」
刀羅に駆け寄るのは坊主頭の男。その手にはナイフが握られ目は冷静さを欠いている。
「そんな物騒なもんまで出しちゃって...同じ男として恥ずかしいぜ!」
刀羅は男の向き直りすぐさま背を向け右に走り出す。
「怖くなったか!?所詮ガキはガキだな!」
坊主頭の男は罵声を浴びせ刀羅に追いすがる。
「その無い頭じゃ何も考えられないわけね。呆れるよおバカさん」
刀羅の安い挑発に男の怒りは頂点に達し目は血走り殺意を滾らせ、刀羅に追る。
「テメェガキがぁぁ!おちょくってんじゃねぇ!!」
刀羅は走り出した場所から200mほどで立ち止まり男を見据える。
「諦めたな。殺してやるから、大人しくしてろ!」
刀羅は無言のまま男を見る。
「その目やめろ!死ねぇぇぇ!!!」
男は叫びにも似た罵声を刀羅に浴びせナイフで刀羅を串刺しにーーー、
「ーーーーっ!」
「ーーーぇぇっ!?」
寸前で間合い詰め懐に入った刀羅は左アッパーを顎に炸裂させ、踏みとどまった男に右ストレートを鼻がへし折れるような勢いと威力で叩き込む。
「うんあっーーーっ!」
男はあまりの痛みにナイフを落とし両手で顔を覆いながら後ずさる。
男の落としたナイフを折りたたんでポケットに入れーーー、
「ーーーっ!」
「ーーーうっ!があっ」
顔を抑える男に刀羅は容赦なく正拳突きを鳩尾にねじ込む。
男は呻きと共に体をくの字曲げる。
それとほぼ同時に刀羅は右足を垂直に上げる。
「ーーーーーーシっ!!!」
垂直に振り上げた足を男の背中に振り下ろす。
男は衝撃に耐えかねて呻くことも忘れうつ伏せに倒れる。
「....クソ野郎。」
目には侮蔑を軽蔑を称え吐き捨てるよう蔑むように放った言葉は男の耳には届かない。
刀羅は坊主頭の男との一方的な戦いを終え残る1人の元へ行く。
「ーーー!な、なんだ!」
男は恐怖に顔が引きつり声は上擦り足は震え警戒心を剥き出しにして身構える。
「....別にもうこれ以上はやる気ねぇよ。気も済んだしな。」
「.....」
「あの人の服どこやった?」
「...あそこだ。」
男が指差したのは最初に女を取り囲んでいた木のすぐ左側のところだ。
「ーーーあっ!あれね。」
刀羅は遠目に脱ぎ捨てられた服を見つけ駆け寄る。
藍色のジーンズと紺のトレーナー、それに黒い靴下と青に白のラインが所々に入ったスニーカー。
それらが襲われた女の着ていたものの全てだろう。
ジーンズを二つ折りにして左肩にかけ、靴以外を左手で靴だけは右手に持つ。
「あ、あとそうだ。金とか取ったのか?」
「い、いや。金は取ってない。」
「金はってことは他にあんのか?」
「な、ないっ!」
凄む刀羅にすっかり怯え切った男は声が上擦る。
「....さっさとそいつら連れていけ。」
「....」
刀羅はそのまま男に背を向けてその場をあとにする。
「刀羅....」
心痛な表情を浮かべ刀羅を見上げる。
「雪....見てたのか?」
「うん。」
答える雪の表情は暗い。
刀羅のしたことを見たのならそれも当然と言える。
あれだけ残虐非道な行いもそうない。
刀羅もそれは理解していて、やりすぎたという自覚もある。ただ、それよりも怒りの発散を出来たことで満たされているという側面のほうが強い。
「あの女の人は?」
「えっ?あっ、明陽が一緒にいる。凄く怯えてて...」
「そうか。...まあ当然か。」
刀羅は振り向いて男達を見る。
唯一動ける男は坊主頭の男を抱き起こしている。
「とりあえず、これ持っていけ。」
「ん?何で?刀羅が持ってけばいいじゃん。」
「お前馬鹿か?」
刀羅は呆れて嘆息する。
「何でよ!」
「普通あんな格好人に見られたくないだろ。お前らはこの際仕方ないとして俺は男だ。異性にあんな格好見られたくないって思うのが普通なんじゃねえのかよ。」
刀羅の答えに納得して雪は頷く。
「仮にも女だろ?それぐらい分かれよ。」
「仮にもって何よ!仮にもって!正真正銘女です!」
ムキになる雪に嘆息し、
「分かった。早くこれ持ってけ。」
「うー分かったよ!持ってくよ!」
半ば強引に刀羅から服をとった雪は刀羅に背を向けて戻る。
刀羅は「おい」と背を向けた雪を呼び止める。
「私の名前は“おい”じゃ...」
「見たこと明陽には言うなよ。」
振り返った雪が皮肉を言い終わらないうちに刀羅が低くした声で釘をさす。
「言えるわけ、ないでしょ...」
目を伏せて言ってそのまま雪は戻っていった。
その横顔に浮かぶ翳りを見て要らぬ秘密を作らせてしまった罪悪感を感じる。




