第十四話 遠い夕食
「どこ行くの?」
「ここら辺のことはお前らのほうが知ってるだろ。」
「刀羅のとこしか行ってないから私は...」
明陽は首を振る。
言葉の最後に自分は知らないということだけを示した。
「んじゃ雪は?」
雪はない胸を張り、怪しい笑みを浮かべる。
「よくぞ聞いてくれた!」
自慢げに答える。
「お任せあれ」
自信満々な雪に刀羅は不安を感じつつも、
「そこまで言うなら頼むかな。」
「頼まれました。」
雪は頼られてすっかり上機嫌だ。
「何でお前ここのこと知ってんの?」
これには雪も聞かれていない明陽も一瞬固まる。
「いや....それは」
「前に来たことがあったんだよね!?」
「あ、うん。そうそう。前に来てそれで。」
取り繕う雪にそれを擁護する明陽。
二人の挙動不審な言動から刀羅は大体の推測を立てる。
「暇つぶしだろ?」
「...うっ!何で?」
「んなの見てりゃ分かる。」
雪と明陽は何故バレたのか理由を聞いても納得いかないようだ。
刀羅はそれ以上は説明せず、「それより」と続け、
「『うっ!』ってなんだよ。」
「し、仕方ないいだろ。突然だったんだから。」
「今どきあんな驚き方2時間サスペンスでも見ねぇぞ。」
「だから、仕方ないって...それより2サス見てんの?」
明陽も問題にする部分がおかしいが雪も違う所でおかしいようだ。
「親がたまに見てるぐらいだ。」
母は2サスだけでなく基本ミステリー系が好きでそういったドラマを見漁ってる時があったりする。
大体年に1度2度起こる影月家のイベントの一つだ。
「へぇ〜意外。」
「意外で悪かったな。」
刀羅は憎まれ口を叩き、辺りを見回す。
辺りには鬱蒼と生い茂る森が広がっている。
ここまでの道も森に囲まれ、大都会をイメージさせる“東京”とは程遠い。
「だからここってわけね。」
刀羅は自分だけが聞こえる声で呟いて荒井がここを選んだことに納得する。
「で?どこ向かってんだ?」
脇道に逸れた話を軌道修正しつつ雪に問う。
「えっと...ここらにあんのはコンビニかレストランぐらいしかないけど。」
「じゃあレストランにしよ。」
雪の答えに明陽が反応する。
病院を出てから10分。時刻は午後5時を回り、太陽は段々と落ち始めている。
「腹でも減ったのか?」
「女の子にそういこと聞く?」
「ここでこの切り返し?今更感しかねぇんだけど。」
これまで刀羅と明陽が過ごしてきた時間は10年以上になる。
そこには今はこの世界にいない存在もいた。
過去を回想し、亡き友が思い浮かんでくる頭を振ってやめさせる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇ。」
刀羅の答えに明陽は心配そうに刀羅を見つめる。
それから、逃げるように刀羅は歩き出す。
「んで、レストランまでどんくらいかかるんだ?」
「ん、ああ。えっとねぇ...1時間。」
数秒の沈黙が訪れる。
大気も森も音を消し静寂を作り出す。
「ーーーえっと...もっかい言ってもらっていい?」
間の抜けた声で刀羅が沈黙を破る。
「だから、1時間だって言ってんだろ。」
言い直す雪に嘘をついている様子はない。
「マジで?」
「マジで。」
雪は真剣な面持ちで答える。
やはり、そこに嘘の気配はない。つまり、雪は真剣に本気でここから1時間の距離にレストランがあるのだと言っているのだ。
「な、ならコンビニは?」
「それも1時間。」
「嘘だろ!?冗談じゃねぇって1時間もかけてコンビニもレストランも行きたくねぇよ!それが超有名とかなら別だけど。」
叫びのような拒絶の最後に妥協を覗かせる。
「有名かどうかは知らんけど美味かったから大丈夫!」
雪は自信満々に味の保証をする。
「お前それで、美味くなかったらキレるぞ。」
「大丈夫!絶対!」
刀羅の若干いや、大分理不尽な態度に雪は強情に言い張る。
「そこまで言うならいいだろう。その代わり美味くなかったら奢ってもらうからな。」
「いいぜ。」
刀羅の強引な要求に潔く応じた。
「ぷっ..ぷっ...ハッハッハッ」
顔を突きつけて目で火花を散らす雪と刀羅を見て笑い出す。
そんな明陽を見て刀羅と雪はきょとんとした顔をして首を傾げる。
さらに笑い声は大きくなり膝をついて腹を抱えて大笑い。
呼吸困難寸前まで笑い続け笑い終ってから咳混じりに荒く息をする。
「大丈夫か?壊れたかと思ったぜ。」
「ほんとよ。それで何がそんなに面白かったわけ?」
しゃがんで明陽と正面から相対する刀羅の軽口に雪は同調する。
「傍から見てれば変だから。」
少しは落ち着いた明陽が雪に支えられて立ちながら答える。
刀羅の軽口はスルーされ疑問に答える。
「それに、刀羅があんなに向きになるの久しぶりに見た気がして。」
「そうだっけ?」
明陽の言葉に刀羅は疑問符を浮かべ回想する。
「そうだよ。戻ってきてからっていうか中2ぐらいから?」
明陽もまた記憶を手繰り寄せる。
「そりゃ盛りすぎだ。せめて中3ぐらいからにしとけ。」
「いや、そこじゃねぇだろ。てか、中2も中3も変わんねぇよ!」
そこに的確な雪のツッコミが加わる。
まだ続けられるなら刀羅も明陽もボケ担当の雪1人ツッコミというトリオ漫才の完成だ。
そして、客はボケも担当する明陽が1人2役こなして完璧だ。
「お前ツッコミやるか?」
「は?何言ってんだ?漫才なんてやらねぇよ。」
刀羅は雪に提案を断られ指を鳴らして表面上の悔しさを表す。
「え?やんないの?面白かったのに。」
「やんねぇよ。何で期待してんだよ!」
観客目線なのかボケとしての目線なのか判断しかねる発言をする明陽は本当に残念そうだ。
「いや、んなこたぁどうでもいいけどアンタ中2からずっと暗かったてのか?」
雪のどうでもいいと思おうとして結局思えてないような質問内容に刀羅は苦笑する。
「だから、中3だっての。」
雪はそれに取り合わず「で?」と答えを促す。
「まあ、そうだな。」
「まあ、そうだなってアンタ反抗期長過ぎだろ。」
「いや、別に反抗期じゃねぇよ!」
雪のズレた答えに思わず声が高くなる。
「そうじゃなかったの?」
「おいおいおい。お前までそんなこと言うなよ...。」
刀羅は不意に明陽からの後方射撃をくらい情ない声で答える。
それを見た明陽が笑い出し、刀羅と雪に伝染し静かな森の中に笑い声が響き、そのまま軽口を交わしながらレストランへーー、
そこで声がーーー否、叫びが聞こえていなければ。
「キャーーーー!」
誰かの絶叫が森に響き、反響し、四方八方から刀羅の耳に脳に拒絶の叫びが襲いいかかる。
全ての思考も感情も消失する。
その代わりについ2、30分前の夢のーーーー2ヶ月前の過去が鮮明に輪郭を持って色をつけて刀羅に容赦なく降りかかる。
「はぁ....はぁ....はぁ....はぁ....」
肺には酸素が足りず、体は酸素を求め過剰な呼吸を繰り返す。
頭には断片的な負のイメージがまとわりつき刀羅を離そうとしない。
「刀羅?大丈夫!?」
明陽は膝をつき肺を抑えながら呼吸する刀羅の横に同じように膝をつき刀羅の背を撫でる。
雪は刀羅の変化に気づいて戸惑う。
「刀羅大丈夫だから。落ち着いて。」
「はぁ...はぁ..」
明陽の呼びかけに呼吸は段々と安定し、同時に取り戻された感情はここにいない相手に対する恐怖を焦燥を怒りを思い出させる。
呼吸の安定の変わりに得た感情の凄まじい警報が刀羅の心を引き裂く。
しかし、隣からの声にそれらに抗う力を与えられ思考を取り戻す。
思考はやるべき事を示し刀羅に行動しろと促す。
「大丈夫だ。明陽。ありがとう。」
明陽に支えられて立つ刀羅には恐怖も焦燥もなく、ただ怒りだけは収まらず勢いを増し刀羅の行動理由となる。
「急に立ったら危ないって。」
「そんなことより、さっきの叫びは?」
「分かん...」
「あっち!」
明陽の答えを遮り雪が指を指す。
「分かった!お前らも俺の後に来い!」
「ま...って。」
刀羅は明陽の制止が言われるよりも先に走りだし宣言通りすぐさま明陽達とは離れてしまう。
「待ってろよ。」
刀羅は歪んた期待を抱き顔には凶悪な笑みを浮かべ、感情は怒りに支配され雪の示した方角を走り続ける。
いるはずのない相手を求めて。
「殺してやる。」




