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絶希  作者: 自来也
第一章 謎多き始まり
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第十三話 訪れるのは、

ーーーー雨の中暗く狭い路地裏で傘もささずに黒装束に身を包む男と対峙する傘をさしている5人の少年少女。

意識は朦朧とし、視界ははっきりしない。

世界に色も輪郭もない。そんな世界に色と形が与えられる。

「サゼス」

突然黒装束の男は手を前に突き出し呪文を唱える。

魔法の詠唱する男が突き出した手のひらの先にいる少年は血飛沫ちしぶきを撒き散らしながら後方に勢いよく飛ばされる。

そして、少年の立っていた場所から10メートル後方まで飛んだところで重力に従って受け身もとることは出来ず地面へ落下する。

少年の出血量から後に訪れる絶命は誰の目にも明らかだった。

少年は苦しそうに息をして訪れる死という運命に抗おうとする。だが、それも意味をなさず少年は数秒後に死んだ。


ーあぁ。これはあの時の....

そう、これは刀羅の運命を変えた最悪の事件だ。

何度も何度も夢に見た光景。そして、何度も繰り返される悪夢で刀羅は何も出来ない。起こることが分かっていてどんなに変えたいと思ったとしてもそれはどこまでも記憶であるという事だ。

感じることも死ぬ順番も何もかもが同じーーー、

ーいや、あの時雨なんて降ってなかったはずだ。

唐突に生じたこれまでの夢との齟齬。

だが、その齟齬はこれまでの夢の時よりもハッキリとした輪郭を与え鮮やかに色付けをしているようなのだ。

故に刀羅が抱くのは違和感よりも納得であった。

最初からそれが正解なのだと。

ーだとしたら何度も見た夢は...?


そこで、「キャーーーーー!」という悲鳴が上がる。

「黙れ、目障りだ。サゼス。」

侮蔑を含んだ冷淡な低すぎる声で男はあの時と同じ言葉を繰り返す。

そして、展開は悪夢を繰り返す。

少女も大量の血飛沫をあげて地面に落ちる。

流れ出る血は雨に流されて薄くなる。少女もまた死を待つだけの存在となった。

すぐに訪れる死を待ちながら既に息絶えた友と同じように。

近くにいた少年は激しい怒りに駆られ無鉄砲に黒装束の男に駆け寄る。

男は少年を見据え、少年と少女を殺したときのように手を前に突き出す。

「サゼス」

男は冷淡で相変わらず無感情な声で呪文を唱える。


それを見て刀羅の中にはやっと怒りと焦燥が沸き起こる。

怒りは憎き男を殺したいという殺意に変わり、焦燥はまだ生き残っている少女を逃がさせることを考えるように思考に訴えかける。

逸る気持ちを抑え、圧倒的な恐怖に怯える心と震える足を鼓舞して立ち上がる。

恐怖も怒りも押さえつけ少女を逃がすことだけを考える。

「俺が時間を稼ぐから通りまで走れ!」

『刀羅!』

不意に誰かに呼ばれた気がするが刀羅は止まらない止まれない。

「え、いやでも」

「早くしろ!」

『刀羅!』

悪夢は繰り返される。しかし、そこでは聞こえるはずなのない呼びかけが世界の形を壊し色を奪う。そして、刀羅の意識を悪夢の中から引きずり出す。


刀羅は飛び起き、荒く呼吸する。

眠りからの覚醒は一瞬にしておき、意識が現世に戻ってきたことを実感する。

額から全身から汗をかいていて服が肌にベタベタとくっつく不快感を感じる。

「刀羅大丈夫?」

声の主は少し茶色がかった髪を胸の当たりまで伸ばし、紺色のブレザーに身を包んだ明陽だ。

明陽の黒い双眸そうぼうには心配の色が濃く映る。

それとは裏腹に刀羅は安心と安堵に浸っていた。

「悪かったな。大丈夫だ。」

気丈に振舞おうと努力し表面上は無事を伝える。

実際、問題があるのは表面よりも内面なのだから。

「凄くうなされてたけど...」

「ドデカイ蛇に追っかけられる夢見たんだよ。」

刀羅の軽口に明陽は首を傾げる。

「刀羅って蛇怖かったけ?」

「別にそうでもねぇけど流石にデカいのに牙むかれたら叫びたくもなるわ。」

「ああ、まあそっか。」

明陽は刀羅の答えに勝手に納得する。


「お二人さんイチャイチャすんなら二人だけのときにしてくれますかね?」

今まで無視されていたーー、気づかれなかった雪が存在の主張も含めた皮肉を口にする。

彼女は黒いソファを1人で占領していた。

「そ、そんなじゃないって」

明陽は単語を聞くだけで狼狽する純情ちゃんであるわけだ。

刀羅は明陽の狼狽具合が面白くて声を立てずに笑っている。

「アンタ意外と大丈夫そうね。」

出会って1週間でこの呼ばれ方。微妙に先が思いやられるが刀羅は気にしないことにする。

「そっちもな。」

だが、それは刀羅も同じこと。眼には眼を歯には歯をのハンムラビ法典に近い理由でお互いこんな状況だ。

「で、いつ退院すんの?」

「明後日だ。」

「そんな元気そうなのに?」

「...ああ。」

自分でも聞いて不思議に思ったが何故明日でなく明後日なのだろうか。

経過観察も1日あれば刀羅の場合十分なレベルのはずだ。

だが、今優先するべきはそちらではない。


「あ、これお土産。」

話を聞いていた明陽が刀羅の前のテーブルに買い物袋を置く。

買い物袋はテーブルに付けると水の跳ねるような音あげる。

「それを言うなら“お見舞い”だ。」

明陽の言葉を正しつつ刀羅は恐る恐る袋の中を見る。

明陽は間違いを正されたことに恥じて赤面する。

「ポテチにポッキーにベビースター...」

袋の中から取り出した物を見て味気なさを感じる。

まだ、それはいいのだ。ただ、最後に取り出した物は最早原型を留めるどころかベチャベチャになって他のものを汚す始末だ。

「どこで買ったか知らんけど何でアイス買って下に入れた?」

「えっ?そんなのあった?」

驚愕に目を見開いて確認する明陽に反してソファに腰掛ける雪は呆然としていた。

「はぁ...お前か。」

「...ごめん。」

刀羅は嘆息し、答える雪の声は弱々しい。

雪は若干の申し訳なさと食べようとしていたものが食べられなくなってしまったことにショックを受け、ソファの中に縮こまる。

「まあいい。他は何とか食えるしな。」

幸い中にまで染み込んでいる様子は見受けられない。

明陽はいつあんな物を入れたのか入られたのか思い出そうとしていて、雪はソファに縮こまったまま黙ってしまう。

気まずい沈黙が降りる前に刀羅が手を打つ。

「何か飲むか?水かコーラしかねぇけど。」


刀羅は立ち上がり、アイスであった砂糖の塊を袋ごとゴミ箱に投げ入れ、洗面所に行き手を洗う。

「んで、どっち飲みたい?」

「コーラ。」

明陽は思い出したのか諦めたのかアイスのことを考えるのやめ、ソファに座る。

「OK雪は?」

「...私は....」

「コーラでいいな?」

刀羅の勧めに雪は頷く。

雪の答えはアイスに心残りがあるのか、まだ弱々しい。

刀羅はそんな雪と明陽を横目に冷蔵庫から母が買ってきてくれたーーー買ってきてきしまった1.5ℓコーラの一つを取り出し、動物の彫られた銀製のコツプに注ぐ。

「はい。」

刀羅は明陽と雪にコーラの入ったコップを渡す。

「何か彫ってある。....これ熊だ。」

明陽がコップに彫られた動物をマジマジと見つめて呟く。

「これ、凄い。綺麗...」

コップに彫られた出来のいい熊を褒める。

「雪のは?」

明陽はコップに彫られた動物に興味を引かれ雪にも聞く。

「....豚?」

雪は答えにイマイチ自信がないといっふうだ。

いや、そうじゃない。ただ、自分に当てられたのが豚が彫られていると思いたくないだけなのだ。

「ねぇ!?これ、わざど?」

雪は自分が遠回しに罵倒されていると思ったらしく、刀羅に食ってかかるのをすんでのところで明陽に止められる。

「いや。たまたまだ。」

「ああ!?たまたまだ?わざとだろ!」

故意ではないと否定したのにも関わらず、雪の怒りは更に増す。

これなら猿の方が合っていると、荒井とのクイズ大会で得た知識から思う。

「そんなに嫌なら変えればいい。」

冷静に言って刀羅は自分の前に置かれているコップを両手で示す。

「これ以外でな。」

刀羅は一つ自分用にコーラを入れたコップを避ける。


「それは?」

雪が状況的に当然の疑問を問う。

(からす)だ。」

雪は聞くとならいいやという様子で両手を上げる。

そこに彫られているのは『強欲』の烏だ。

だから使っているわけでもなくたまたま手に取っただけだ。

自分のですら適当なのにわざわざ人のコップを選ぶなんて面倒なことはしない。

雪が豚に当たったのは単なる偶然なのだ。

刀羅の言葉に納得した様子の雪は豚のーーー『暴食』のコップを刀羅の目の前に並べられたコップの左端に加える。

「これ。」

雪は動物を確認し終えると一つのコップを持って冷蔵庫にしまったコーラを取り出して注ぐ。

「何選んだの?」

「もち、ライオン。」

雪は明陽に彫られたライオンを突きつける。


どこがもちなのか。女子が選ぶなら普通この7体なら兎だというのに。

雪の性格でこの短い付き合いで分かること言えば、明陽とは対照的で目立ちたがり屋で意外と自尊心か強いくらいのことだ。

その性格から地味なと言うよりも“デブ”のイメージに値する豚が嫌だったのだろう。

そう見れば、『傲慢』のライオンはお似合いだ。

見た目だけで決めいているようだからこんな情報は意味が無いとは分かっていて、クイズで得た知識を結びつけたくなってしまう。

人間の(さが)というやつなんだろう。新しい知識は使いたいというのは。


そんなことはどうでもよく、先程から発生していた問題だったが明陽も雪のどちらもソファに座ってしまったため問題は深刻に。

「話しずらっ!」

それは、刀羅がベットに明陽達がソファに座ることで起こることだ。

普通にこの位置関係で話しても話しずらいというのに今は荒井とのクイズ大会の結果がほぼそのままの形での残っていて余計にだ。

「そう、だね。ちょっと話ずらいね。」

「ちょっとじゃねぇ」

刀羅は明陽に顔をしかめて答える。

「もういっそのこと違うとこでも行くか。」

傲慢に言葉を言って、申し訳なさに小さくなり、些細なことを気にして怒り、今は冷静になってコーラを飲んでいる。

この短時間では感情の変化が激し過ぎる。同じ人とも思えなくなって多少疲れすら感じる。

だが、今は立場が逆転し刀羅よりも冷静だ。

「それもいいな。」

刀羅は雪の案に納得する。

それは、単に外に出たいということと周囲を観察したいという理由からだ。

「よし、そうと決まれば善は急げだ。行くぞ!」

「えっ?ちょっと待ってまだ飲めてな...」

「なら、一気だ一気。」

刀羅は外に出たくて明陽と雪を急かす。

「....冗談だったのに。」

雪が呟く声が刀羅には聞こえた。

「何か言ったか?」

「何も!」

聞こえていて敢えて聞く当たり自分の性格の悪さを自覚する。

だが、心も胸も傷まない。性格が悪いぐらいがちょうどいい。それが、刀羅の持論だ。

無論、程度が過ぎれば流石に許せはしない。

「よし、行くか!」

刀羅の無茶ブリに答えた2人は若干腹を苦しそうに抑える。

刀羅は自分で入れた分は雪が注いでいる間に飲み干していた。

紙に外に行くという書き置きを残し、財布とスマホ2つ持って部屋を出る。

「分かったから急かすな!」

雪の半分怒り混じりの叫びを部屋の扉を占めて閉じ込める。

「さぁて、探索開始だ!」

「何でこんなテンション高いんだよ!」

興味に駆られテンションが上がる刀羅と急かされて一気にコーラを飲むハメになった雪のツッコミが重なる。

明陽はそれを見て微笑み、炭酸で苦しい腹を抑えて3人は歩き出す。

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