第十二話 扱いづらい相手
「『怠惰』?フェニックスが?」
荒井の答えに半信半疑な刀羅は思わず聞き返す。
何故なら、フェニックスが『怠惰』である意味が全くをもって検討もつかないしイメージも出来ないからだ。
せめて、『憤怒』や『傲慢』ならまだ何となく納得いく部分もある。
しかし、怠惰は...
「そうだよ。フェニックスは『怠惰』だ。」
「何故?」
「何故と言われても俺も理由までは知らないんだよねぇ。」
知らねぇのかよ!内心で愚痴る。
「まあ、何せ昔の人が勝手に考えたことだし。」
しかも、言い訳をするというのか。
何と『怠惰』な。
「まあ、想像なんだけどさ。不死鳥って死んで生き返るから不死なんだよね...。」
刀羅は先を促すように頷く。
「だから、ずっと生きているにはさ『死』が必要だということがフェニックスが『怠惰』の『罪』を背負う理由なんじゃないかなぁ。」
確かに、死ななければ生きることが出来ないという矛盾は『怠惰』なのかもしれない。
つまり、永遠に生きるという訳でなくどこかでまたやり直す。間違えばやり直す。思い通りにいかなければまたやり直す。
ようはそうやって無限コンティニュー出来るということだ。そうすれば、どんなゲームが下手な人であれクリア出来る。
ただし、フェニックスの場合途中からのコンティニューということになるため序盤のミスは取り返しがつかないわけだ。もし、序盤で決定的なミスを犯せば取り戻せもしないのにダラダラと途中からの無限コンティニュー。何というかもうーー、
「『怠惰』だ...。」
「そろそろこの『大罪』のクイズも終わるとして本題に入ろうか。」
荒井はわざとらしく声を低くして緊張感を高める。
「って進めたいんだけどさ長話しすぎたわ。」
「えっ?」
やっと目的の話が出来ると思った矢先その出鼻をくじかれた。
「いやー...このあと用事あってさ......。」
いつもの軽い調子で話し始めたと思ったら顔が段々と青くなって血の気が引いていく。
「どうしました?」
「いや、ここ来たのってただの口実だったんだけど....」
荒井は漆黒のソファの上に置いたバッグを探り。
すぐにノートパソコンを取り出す。
「ごめん。本題はまた今度で!」
荒井は切羽詰った声で先程皿やコップを置いていた場所にノートパソコンを置く。
「ーーーーやべぇ間に合うかな....ギリだな。よし!」
どうやらやらなければならないことをするための口実に刀羅の見舞いに来たが刀羅が意識を取り戻していたので、ついつい話してしまって肝心なやらなければならないことや本題は後回し。
ーー『怠惰』。
そして、15分ほど荒井は時々「あーーー!」とか唸ったり、「くそっ!」とか愚痴りながらずっとパソコンで何かを打ち続けていた。
「終わったーー!」
「お疲れさまです。」
「ありがとう。あー、もう行くわ。」
荒井はパソコンを急いで閉じ、バッグの中に入れる。
「じゃ、また今度。本題はその時に。」
「あ、はい。」
荒井は嵐の如く去っていった。
どれだけの難易度で量なのかは知らないが、途中でミスをしても結果終わらせてしまうあたり荒井はわりと有能なのだろう。
と、荒井への評価が『怪しいクイズオタクな協力者』から『怪しくて有能な協力者』に変わる。
これはこれで不味い気がするのだが相手が有能なのは明らかに状況的に不利になる。
まだ、敵だと断定出来てもいない疑いの段階ではある。ただ、その疑いも相当高いものでかなり怪しいと睨んでいるのも事実。
ただ、来た理由も忘れて遊んでいたあたりマヌケとも言える。
そして、刀羅は思考と想像に巡らせる時間はまた奪われる。
「はぁ...はぁ...」
息を切らしてつい先程出ていった荒井が戻ってきた。何か忘れ物でもしたのだろうか。
「どうしたんですか?」
「あ、いやこれ渡すの忘れてて..」
荒井はバッグの中からまたも紙袋をだす。
今度はその中に箱のようなものが入っているようだ。
紙袋から取り出してー、
「それは、後でやるんだ。」
荒井は紙袋をテーブルに押し付けるようにして刀羅が紙袋の中の物を取り出そうとするのを止めさせた。
「えっ?」
荒井の行動の真意は読み取れるが、反射的に疑問が浮かぶ。
「今、じゃない。誰もいない時に開けるんだ。いいね?」
荒井の真剣な態度と眼差しと口調に中に入っている物が人に見せていい物ではないとうことが分かる。
刀羅は荒井の意を理解し頷く。
「よし!それじゃ俺は行くから。...ヤベぇっ...」
再度、嵐のように舞い戻り嵐のように去っていった。
閉まりきらないドアの向こうから荒々しくカーペットを走る音がする。
そんなに走ってバッグの中にある『努力の結晶』は大丈夫なのかと少し心配になる。
だが、今問題なのはそこじゃない。この紙袋の中の物だ。
何が入っているかが気になってしまう。
そして、荒井が出ていった今この部屋には刀羅以外誰もいない。
荒井がこの中の物を取り出す条件も満たしている。
だとすれば、取り出し中身を確認したとしても問題はないはずのだ。
しかし、不安要素はまとめてしまえば一つになるが多くある。
もちろん第三者の登場という場合についてだ。
探野や病院関係者の登場。それと、明陽と雪が来るという予定。
後者については学校が終わりこちらまで来る時間がある分現段階では考える必要はない。
だが、前者について言えば予測不可能なわけであり不意に来る可能性というのがある。特に探野の場合一応形だけでも刀羅の『世話係』なのだから。この部屋に来る可能性も他の誰よりも高いと言える。
そして、荒井の言い方やその内容から察するに中には人に見せてはいけない“何か”があるということだ。
その“何か”が箱自体なのか箱の中身なのかは刀羅の知るところではない。
故に、刀羅の心は“何か”がどんなものであるかを知りたい好奇心といまはやめておくべきたどいう慎重さの間で揺れ動く。
どうにか、好奇心に打ち勝って紙袋をバッグの中へ見えなくなるように入れる。
次にあの紙袋を見る時は開ける時とひそかに心に決める。
そして、訪れる無音の時間。
それまでの忙しく早く流れる時間とは違うゆったりとした時間の流れ。
それ故に感じる静けさと時間の流れの停滞。
そんな中でも刀羅にはやりたいこともやらなければならないことも多分にあるがその内の1つは辞めておくべきと既に判断してしまった。
他にやることがあるとすれば、それは幾多の違和感と疑問と謎について考えることだけになる。
2度の乱入者により中断された第3の謎“荒井優希”という男について。
優先順位的にもこの謎に取り掛かるべきである。
ただし、2度目の乱入者荒井の登場と去り際の発言にノートや何かに書いて考えるのはこの場ではやめることにした。
もし、それが見つかれば疑っていることがバレ下手をすれば荒井を敵に回す。
だが、その前にやることがある。
ノートに書いた2つ目の謎についての記述だ。
これも荒井の謎と同様に確証がない。
誰かに見られるということも避けたい。
まだどんな力かも分からないのに余計な注目や心配は避けたい。
あの力による負担の種類も度合いも刀羅には分からないのだから。
ただ、分かっているのは驚異的な力を発揮することと、あまり良い力ではないこと。
後者は刀羅が現在ここにいる原因との対峙に際してのことだ。
あの男は刀羅の放った力に気づき焦り、殺意を剥き出しに本気で刀羅を殺しに来た。
刀羅には殺意を剥き出しにして殺しに来たことよりも焦って殺しに来たというほうが問題なのだ。
殺意を剥き出しに殺しに来るのは当然のことだ。
だが、焦ってというのは何かしらの原因がなければ起こらない感情だ。それに、焦りだけではなくあの男は恐怖というものも感じていたように思う。
このことは刀羅に発現したあの力があまり良いと言えるものでは無いことを示すのではないかと考えるのだ。事実、刀羅はあの力の発言と同時に意識を失っているのだから。
故にその部分の記述のあるページを綺麗に破きバッグの奥へと押し込む。
瞑目し、部屋の中で1人回想に浸る。
荒井との出会い。荒井の協力的姿勢。意味深な言動。言動の不自然さ。
突き詰めて観察し疑問点を挙げていけばきりはない。
“荒井優希”という男の存在自体違和感として疑問として刀羅の中にある。
不自然で不可解で不明瞭な存在。
彼について考えたところで行き着く答えはいつも同じ。
結局今敵に回すのは是が非でも避けるしかないということだ。
後に敵になるとしてもそれまでには後ろ盾としての戦力が必要だ。
荒井が怯えすぐには手出しできないほどの。
上手くいけば交渉で、最悪戦争で方がつく。
だが、どちらにしろ今のままでは負けることは目に見えている。
だから、RPG的な発想で言ってしまえば刀羅自身の強化・育成と仲間を増やしその仲間の強化・育成が必要なのだ。
しかし、現実には強化・育成コマンドもなければ仲間を増やすイベントも起きはしない。
自らその方法と機会を生み出す必要がある。
だが、またここで問題が浮上する。
それは、イベントの機会を生み出すことだ。強化・育成の方法についてはとりあえず体を鍛え頭を使い、これからを考え対策を講ずることぐらいしか出来ることはないが、それでもまだやれることがある。
だが、イベントの機会についてはそうはいかない。
機会と言っている時点で受動的なものでしかない。
それにどのような仲間を募ればいいと言うのだろう。
異世界人であれば現状敵としてしか会っていない。この際、荒井については考えないことにする。
だが、こちらの世界の住人を仲間にするにしてもそれで戦力になると言えるのだろうか。
流石に軍を動かせると言うのなら話が違うが、個人の力で戦力になるものなどどれくらいいるのだろうか。
それに、軍を動かせる奴と組んだ場合、魔法使いとの全面戦争は避けられない。結局のところ、それでは刀羅としては意味がない。
だとすれば、もういっそのこと機会は待つことにして自身の中に眠る力を...。
「あー、やめだやめ。何が自身に眠る力だ。ただの中二病だろこんなの。」
おかしな方向に向かい始めた思考を切り捨てベットに体を預ける。
「でも、どうすりゃいんだか...。」
目を閉じて考える。
だが、ベットに横になり目を閉じているせいで段々と眠気が増してくる。
「...あれ?...な...んで...?」
本の数秒前までは全く眠気なんて感じていなかったというのに。
急速に刀羅を包んだ睡魔は刀羅を深い眠りの中へ誘い込んでくる。
とうとう、目を開けることすらままならなくなりそのまま刀羅は深い深い眠りへと落ちていく。




