第十一話 仲間外れ
洗面所から出てきたのはそれからすぐだった。
「んじゃあ...そうだな。まずこれ。」
荒井はそう言って猿の彫られたコップをリンゴの乗った皿の隣に置く。
「何だと思う?」
問題形式か。分からないと言っているのに本当にどんな性格だ。まったく。
また、刀羅は内心でつぶやく。
「猿...猿...猿かぁ...」
刀羅の中では2つの罪の名が上がる。1つは憤怒。もう1つは色欲。
さあ、どちらなのか刀羅は考える。猿の怒っているイメージ。そして、正直想像したくない猿の...。
「憤怒ですか?」
色欲のイメージを想像するのをやめるため半ばヤケクソになって答える。
「正解。じゃあー...次はこれ。」
今度は犬だ。
「犬ですか...」
犬から連想されるのは先程猿の時に捨て去ったイメージをせざるをえない罪。色欲だ。
しかし、もう他に連想出来そうもない。こうなれば、破れかぶれでいくしかない。
「色欲ですか?」
「ブッブッー。不正解ー!」
荒井はおちょくるような調子で刀羅をからかってくる。
「じゃあ何なんですか?」
「どうせあと3択だろ当ててみなよ。」
どこまでも自分では答える気がないようだ。
残る選択肢は元から知っていた傲慢と暴食。それと、正解することの出来た憤怒と犬の罪ではないと分かった色欲を除いた怠惰、強欲、嫉妬だ。
この中から犬ぽいっ罪を考えなければならないわけだ。
まず、怠惰という罪を除外する。理由は犬は勤勉な類の動物に入る。と、刀羅は考えるわけで真逆の性質の罪に対応するとは考えがたいからだ。
では、残るのは強欲と嫉妬である。
では、まず強欲ならばだが...。犬が強欲であるというイメージがどうしても刀羅には湧いてこない。
仮に強欲だとして、犬は何を求めるのか。餌を貰うことに遊んでもらうこと。それぐらいしか、刀羅がパット思いつく犬の色欲以外の欲を思いつかない。だか、果たして餌を求めること、遊んでもらうとすることが罪に値するほどのことなのかといわれれば、そうじゃない気がしてくる。
だとすれば、嫉妬ということになる。
犬の嫉妬はさて、何なのか。
犬とは義理堅い動物の代表例とも言える存在だ。
その犬の義理堅さゆえに忠を尽くしたものが何かに奪われることに対しての激しい嫉妬ということなのだろうか。
どこまてかは分からないが嫉妬心が強いというのが罪だというのなら、罪なのであろう。
こんなことを言ってしまえば、強欲についてもあてはまりそうだが、それを犬の罪として考えるのは、嫉妬を罪と考えるよりも強引な気がするのだ。
「嫉妬ですか?」
「そっ。正解ー。」
気づけば、荒井がリンゴの芯を捨てるように広げたビニール袋には4つの芯が入っていた。
つまりは、荒井は刀羅が考えるうちに2つもリンゴを平らげてしまったのだ。
正解した嬉しさも荒井のリンゴを食べる量に驚き薄れている。
「んじゃあ...次は...これ。」
荒井は汚れていない左手で新たなコップを持って来て刀羅の前に置き、リンゴを左手で取ってまたソファに座りリンゴを右手に持ち替え先程同様皮のままかぶりつく。
持ってこられたコップに彫られているのは兎だった。
残る罪は怠惰、強欲、色欲である。そして、残る動物は烏、熊にこの兎だ。
こうなれば、消去方で消していく方がやりやすい。
まず、怠惰についてだが怠惰は残りの動物を考えると兎や烏よりも熊が対応しているように思える。ので、除外だ。
残った2択は強欲と色欲である。
兎の可愛らしい見た目が強欲のイメージにも色欲のイメージにも合わない。しかしだ、烏に色欲が合うかと言われると微妙な気もする。
そして、烏に強欲が合うかと言われれば、これは納得できるような気がしてしまうのだ。
烏がゴミの中から物を漁ったり落ちているゴミ拾って食べているのはしばしば見かける光景である。これは、強欲であると言えるのではないのだろうか。
刀羅はそう結論づける。
「色欲ですか?」
「そっ正解ー」
荒井は答えて立ち上がり、烏と熊の彫られた2つのコップを左手に持って刀羅の前に置く。
「さあ、残るは強欲と怠惰だ。どっちがどっちだと思う?」
刀羅は先程出した結論を思い返しながら答える。
「熊が怠惰で烏が強欲..ですか?」
「正解ー。これで全部だね。」
荒井は言いながら豚とライオンが彫られた残りの2つのコップも持ってきた。
「んじゃ次の問題だ。」
ーツギ?つぎ?次?
まだこのクイズオタクはこれを続けるというのだろうか。刀羅の中で荒井への評価は変動していく。
最初は、『怪しい人』次に『怪しい協力者』そして、『クイズオタクな怪しい協力者』だ。
ただ、どんなに評価が変わろうと唯一『怪しい』という部分だけは変わらないのだ。いや、変えることができないのだ。
この荒井という人物に対して全く警戒していなければ足元をすくわれかねないと思うからだ。
そして、刀羅の中の本能かあるいはそれ以外の何かが「荒井には気をつけろ」という警鐘を鳴らし続けている。
だか、あからさまに態度に出すわけにもいかず微妙な立ち位置のまま荒井と接しなければならない。
もちろんこれなら疑問や異世界人関して、その他もろもろ聞けるなら聞きたい思っている。しかし、そうしてしまうことで「協力者」を失うのが刀羅にはたまらなく怖かった。
それは即ち明陽達のひいては刀羅の安全も確保出来ないということに直結するからだ。
ゆえに、迂闊に手出し出来る問題ではないのだ。
「で何なんですか?問題って?」
荒井があまりにもったいぶってタメを作って言ってくるので思わず聞き返してしまう。
「1つはとても簡単なことだとよ。」
『1つ』という響きは他にも問題があることを予期させる。
無論、1問しか出してこないと思ったわけではない。
「何個あるんですか?その問題。」
「まあ、質問自体は1つで済むんだけどね。」
さらにもったいぶる荒井に刀羅は黙って先を促す。
「この中の仲間外れはどれだ?ってことなんだけどね。」
「烏。」
「そうそれが簡単なほう。じゃあともう1つは?」
もう1つあとどういう風に分ければ仲間外れになるというのだ。
「まあ、どれがってのは難しいだろうからどんな種類の違いかでいいよ。」
むしろ、そっちのほうが難しいのではないのだろうか。
動物の中から当てるだけなら適当に言っていても当たるかもしれないがこれは適当に言って当たるものでもないのだから。
そして、ここに来てある疑問が湧いてくる。
何故、わざわざこんなクイズをしているのかということだ。
何か意味があるのかそれとも単にクイズをしたいだけなのか。
どちらにせよこんなものは早く終わらせて本題に入る必要がある。
だが、安易に答えを求めるのは刀羅としてどうしても受け付けないため正解を導くしかないというわけだ。
それに、きっと荒井も刀羅が正解を出さない限り次に進まない。次というものが意味するのがまた問題だとしてもいづれ本題には辿り着くはずである。
しかし、刀羅が答えを出さなければきっと永遠に本題に移らないような雰囲気でもある。
それ故にこの問題にも真面目に考える必要があるのだ。
さて、問題は『どんな種類の違いがあるのか。』だ。
刀羅もいくつか思いつく違いとしては、大きく分けて2種類ある。
まず、1つ目動物の分類によって生まれる仲間外れだ。
例えば、烏を仲間外れするには飛べるか飛べないか羽があるないがという分け方でいい。
あと動物の違いを考えなら、何類かということや移動時に使える手足の本数といったことがあるのだ。しかし、これらは烏だけが完璧と言える仲間外れになるだけである。他の動物は完全に仲間外れになることは無い。
もちろん刀羅が知らないか思いつかないだけで分ければあるのかもしれない。
しかし、思いつきもしなければ知りすらしないならもはやこの視点からのアプローチは困難である。よってこちら側ではないという事だ。
2つ目これは『罪』による仲間外れだ。
これは、他の罪とは共通するが仲間外れになる1つだけが持つ意味がない。もしくは、その罪だけが持つ意味があるといったことだ。
しかし、これもまた成り立たないのではないのだろうか。
それぞれの『罪』は独立した個々の意味を持つからこそ『七つの大罪』なのだから。
であれば、この状況において発生する特異的な違いの可能性を模索した方がよっぽどいい。
そして、その可能性とは『罪』の重複だ。
コップ以外の物によって重複したことによる仲間外れ。この場合、最も疑わしいのは深底の皿に彫られた“フェニックス”にも何かしらの『罪』があることだ。
これまで考えた仲間外れの可能性の中ではこれが最も可能性が高い。
他の可能性はどこかで矛盾を孕んでいる可能性がある。
もちろんこの仮説も矛盾を含まないと言い切れはしない。だが、どの仮説よりも筋が通っていると刀羅は思うのだ。
「この“フェニックス”との『罪』の重複ですか?」
荒井は何個目のリンゴか分からないがそれを口に運ぼうとする手を止めて刀羅を見る。
そして、1つ溜息をこぼす。
「正解だ。全く何でそんな当てるかな...」
そんなことを言われてもこれが外れていれば、正解は出なかったに違いない。
「君が悔しそうにするの見たかったのに...」
答えられなければまさに荒井の言う通り悔しがって答えを尋ねたであろう。
だが、今はむしろ荒井のほうが悔しがった様子だ。
「んで、どの『罪』かは?」
「それが分かってるならこんなにかかってませんよ。」
「それもそうか。」
荒井はリンゴをまた一つ芯にして立ち上がる。
「じゃ予想は?」
一体どこまでクイズにするつもりなのか。
“フェニックス”がどの罪かなんて分かるはずもないし、イメージも出来ない。
何せ、“フェニックス”は幻獣であり存在すらしないのだから。何のイメージが出来ようか。
だが、答えなければ答えないで解答も聞けないしいつまで経っても本題には入れない。となれば、一応出された問題は正解している訳だしここで間違えたところで別にいいのだ。と、まま強引な解釈により刀羅は考える素振りをする。
「憤怒ですか?」
「いや、違うねぇ〜。さしもの君もこれは分からないかな〜?」
荒井の安い挑発を受けたところで知識の範囲外の問題に対してはどうしようないのだからと刀羅は諦める。
「流石に知識の範囲外です。」
「知識の範囲外ねぇ...。まあ、流石に大人気ないか。」
「そうです。自覚してください。」
荒井が全く反省の様子もなく言うので意趣返しのつもりで少々キツめに言葉を返す。
「厳しいねぇ。」
「で、結局何なんですか?」
荒井からの評価を受け流しクイズの答えを求める。
「あーそうだったね。」
荒井は目を閉じて息を吸い目を開けると、
「『怠惰』だよ。」




