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絶希  作者: 自来也
第一章 謎多き始まり
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第九話 3つ目の謎

3つ目、“荒井優希”という男について。

2か月前に起こった事件の際、気を失った刀羅が連れていかれたあの謎の施設で世話係を務め、今回の1件でも明陽達を保護できる状況で、この超高級な病院の1室を用立てることができる立場である人物。


一体何者であるのか。

荒井が刀羅の味方なのか敵なのか正直なところ刀羅には分からない。

ただ、現時点では疑わしい人物であり、刀羅にとって重要な協力者であるというとても扱いづらい人物であるということだ。


疑わしい人物である「根拠」というにはあまりに拙いものであるのだが、疑っている「理由」になるもの。

まず、刀羅達が魔法使いに襲われたということを何ら反論を示さず信じたこと。

普通、何度説明を聞いたとしても実際に見たとしても完全に証明が出来るまでつまりは、科学的に証明されて初めて信じられる類の話だ。

実際に相手にしている刀羅でさえ、信用できない相手からの証言を得ただけでまだ確信を得られているわけではない。

しかし、荒井は刀羅の話を信じ行動している。


刀羅と荒井が長い付き合いで信頼し合っている者同士であったとしたならまだ理解できる。だが、そうではないのだ。

1か月前のあの時点で少なくとも刀羅はそれ以前に荒井に会った記憶はない。

それなのに、荒井は初対面の刀羅の妄言虚言ともとれる話をあっさりと信じた。

これは不自然かつ不可解極まりない。


さらに、荒井と刀羅が会ったあの施設にも問題がある。

施設自体の問題ではない。

問題は何故、あんな施設で刀羅と会わなければならかったのかだ。

パパラッチを避けるため?事件の事情を聞くため?治療をするため?

どれも、あんな施設に連れていく決定的な根拠にはならない。

パパラッチを避けるなら今回のような個室にすればいい。

事情を聞くのだってそこですればいい。

治療をするなら病院でいい。もし、特殊な治療が必要なら今回刀羅がここにいる説明がつかない。


そしてさらに、何故今回はこういった“病院”で前回はあのような施設だったのか。

前回よりも今回のほうがあの施設へ運ぶのは容易であったはずである。

しかし何故か、今回は病院に連れてこられた。

人目に関して言えば前回のほうが明らかに多かったはずである。

後々目立つのもやはり前回であったろう。

それなのに、今回は病院というのはやはり不自然だ。

実際今回も前回も場所やその他もろもろ細かい部分を省けば、ほとんど状況は同じと言える。

明陽を逃がし刀羅が戦い、その結果気を失い、知らない場所へと連れていかれたように。


であれば、細かい違いではなく大きな違いに着目すべきだ。

大きな違い...大きな違いそれは1つだけある。

それは、刀羅が明陽と離れないという違いだ。

具体的に言えば、前回の場合に今回と同じように病院に連れていかれていたら刀羅は明脳に行き、明陽は海淵に行きバラバラになるはずであった。

もし、この違いによって刀羅が今回は病院に連れてこられたのだとしたら、荒井は刀羅を明陽から離れさせたくなかったということになる。


こう考えていくとある仮説が成り立ってくる。

それは、荒井が明陽を守ることが重要だと分かっていること。

つまり、荒井も“異世界人”もしくは異世界人からそれ聞き知っている人物であるということだ。

勿論仮説にすぎない。しかも、相当強引な仮説だ。

他の可能性だって十分に考えられる。

例えば、あの場所には今は行くことが出来ないとか、行かない方がいいと判断されとかいくらだって考えられるのだ。

後者の異世界人から聞いて知っているというのは刀羅としてもほとんど考えてはいない。しかし、前者の荒井が異世界人だという仮説は刀羅の中で何故か確信にも似たものを感じさせるのだ。

客観的に見ればその可能性が低いということも分かっていながら刀羅は荒井への疑いを捨てきれないでいた。


これが疑いになったのは、つい2時間ほど前にジムじみたリハビリ室でのことだ。

そして、それを検証しようとするもののその度に邪魔が入る。1度目は配膳係、2度目は疑っている本人だ。

そんな、疑いを抱いたまま本人が参上し今の状況である。

「聞いてるかい?刀羅君?」

「はい。」

荒井は相変わらずの白衣姿で現れた。

「君はあんな無茶をして危険になる必要はなかったんだ。分かるだろ?」

そして、こんな調子で20分説教が続いている。

この後、明陽からも説教を食らうのにと若干刀羅はうんざりしている。


「はぁ...たくっ」

荒井がソファから立ち上がり刀羅につかつかと歩み寄ってくる。

説教が長過ぎて若干飽きてぼーっとしてた刀羅はその意図に気付かない。

「ん?いたっ!なにす...いたいいたいいたい」

荒井は拳を刀羅のこめかみに当て腕を半回転させ、逆に半回転させる。これをしばらく繰り返した。

やっと痛みから解放された刀羅はこめかみのあたりをさする。

「な、何するんですか?」

「君がちゃんと話聞いてないからだよ」

だとしても、何もこんなにやる必要はないのではないだろうか。

実際のところ1分も経っていないはずだが、体感で2分近くに刀羅は感じた。

しかも、荒井の力が思ったよりも強くまだこめかみのあたりが熱を帯びヒリヒリしている。

「で、俺の言いたい事分かったよね?」

「ああ、ええまあ。」

自分で聞いてないからこの罰与えたと言っておいて、聞いていたかのか確認するなんてどんな性格してるんだ。

と、内心で思いながら刀羅は苦笑いを浮かべる。

「なら、いいや。」

そして、言えとも言わないのか全く本当にどういう性格しているのか。

また、刀羅は内心で呟く。

荒井からの説教は要約してしまえば、得体の知れない敵に高校生1人で立ち向かうような馬鹿なことをするなということだ。


こうやって刀羅を心配をしていることや明陽達を保護してくれたことを考えれば、やはり味方なのだ。

しかし、一方で謎が多すぎるこれが刀羅が敵と疑う一番の理由だ。明陽達を保護してくれたこともその一つになる。

ーこの人は...敵なのか?味方なのか?一体...

「どうした?まだ、具合が悪いかい?」

「いえ、そんなことは...」

答えて刀羅は俯く。

刀羅は考えない訳にはいかない。

ー聞くべきか?いや、聞かないほうが...

本来なら今すぐにでも荒井の立場をハッキリさせたいのだが、それをすることで荒井という大きな支えを失ってしまうのは避けたかった。

現状荒井の支えなしに明陽達を守りきりるのは不可能に近い。

ー敵には回せない...

だとしたら、この場で敵か味方かを問うことは出来ないのだ。

もし、敵であった場合大きな支え失う代わりに、身近に大きな敵をつくることになるのだ。

支えを失うだけでも大打撃だというのに、その上敵にまでなられたらたまったもんじゃない。

結局、刀羅は自分の中で答えを考え出すしかないのだ。


「はぁ」と小さく溜息をこぼして刀羅はなんとなく連絡用のスマホを見た。

だが、荒井に送った刀羅のメッセージには未だ既読はついていなかった。

「ん?」思わず声が漏れてしまう。

「どうした?」

「いや、あの...荒井さんスマホは?」

「ああ、忘れたよ。」

荒井はとぼけるようにして両手をヒラヒラと振る。

「忘れた?あそこに?」

「違う違う多分君の想像している場所じゃないよ。俺の家だよ。」

刀羅がその発言に驚いているのを見て荒井は笑う。

「あれが俺の家だなんて思ってたのかな?」

「えっ..あ、まあ...」

「そう思われても仕方ないか。けど、違うよあれはあくまで職場だよ。」

「職場?」

「そ。まあ、たまにしか行かない特別な職場だけどね。」


その場所も刀羅にとっては問題の一つ。

1か月前に目覚めた時の刀羅には何故か湧かなかっ疑問の一つだ。

「あの場所ってなんなんですか?」

「今更だね。」

そう、今更だ。何故あの時に聞かなかったのか不思議なほどに。

荒井は黒いソファに深々と座っている。すぐ隣りには荒井の着ている白衣とは全くと言っていいほど似合わない鮮やかな黄緑色のバックがある。

「うーん...何て言えばいいかな...」

しばらく目を閉じて考えていたが、目を開き刀羅を見据える。

「そうだなあれは、特別軍基地というかそう、特別トレーニングルームみたいなもんかな。」

「特別な...なら、どうして俺がそんなとこに?」

「それも今更だね。」


これも、今更だ。あの時刀羅が考えていたのは明陽のことばかりで、周りを見ようとしなかった。

いや、周りを観察していると何もかもを疑って行動してしまうのが分かっていた。だから、観察を意識的にしないようにした。せざるを得なかったのだ。

また仮定の話になるが疑い真相を知り得た時に“あのような場所”にいては、刀羅はすぐさま消されていたに違いない。

だか、今は違う。今はあの場所から出て明陽にも会い帰るべき家がある。そして、何より高校に通っている。

この状況で刀羅を殺してしまうのは後々のリスクが高すぎる。

殺すこと自体は何の造作もないかもしれないが、事後処理は容易に済むはずがないのだ。

だから、そういった観点からも今すぐに殺されることはないと判断し、聞くべきことを聞かなければならかったことを聞き出せるだけ聞き出そうというわけだ。


「確か成り行きで連れてきたとかこないとか...」

「どっちですか?」

「んー...あんま覚えてないんだよね。何か気付いたら俺君のかん..じゃなくて、世話係だし。」

「今、監視役って言いかけましたよね?」

「..いやいやそんなことはないよ。」

目を細めて荒井を見つめる。

「分かった分かった。そうだよ。」

「じゃあ今も監視役ってことですか?」

「うん。まあね。あの場所自体国家機密だし。君が漏洩したりしないようにね。」


何とも腑に落ちない答えばかりだ。

そんな国家機密の場所に成り行きで連れていいかれるはずもない。

明らかに何かを隠している。

そして、監視役とはまたよく言ったもんだ。

この監視は国家機密を漏洩させないようにというのを建前に刀羅がどこまで真相近づくかを監視するという役目なのだ。

と、刀羅は今のやり取りを分析する。

しかし、それでも刀羅はこの疑いを問題を口にして荒井に聞こうとはしなかった。

やはり、荒井を敵に回す可能性があるのなら避けるべきだ。

たとえ、のちに敵になるとしても。たとえ、利用されているだけにしてもだ..。


「ねぇ刀羅君。キッチンか洗面所はあるかい?」

「ええ。あの扉の奥に。」

刀羅は洗面所の扉を指す。

「何するんですか?」

「これを洗おうかと思ってね。」

荒井は黄緑色のバックの中からパンパン膨れた紙袋を右手で持ち上げる。

「紙袋?」

「いや、ちがうよ。中は何だと思う?」

荒井は勿体ぶって聞いてくる。

「果物ですか?」

「正解っちゃ正解だけど...範囲広すぎでしょ。」

「なら、ミカンとかリンゴとかですか?」

「後のが正解。てことで借りるわ。」

と言うなり刀羅が指した扉を開けて入って洗面所へ入って行った。間もなく、中から水の流れる音がしてくる。

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