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お話を一部変更しました。
「おらっ!」
ガルーが兎人の少女と約束を交わしてから数日後――いつものようにガルーは数人の子供たちに暴力を振るわれていた。
少年たちはいつものようにガルーを囲み、まず一人がガルーの腹に拳を打ち込んだ。
「……っ」
だがガルーは腹の受けた痛みに歯を食いしばりながら、ある事を考えていた。
自分を囲んでいるのは三人。皆ガル自分よりも体格が良く、まともにやりあっても到底敵わない。
――なら、たった一人だけでいい。
ガルーは三人同時に相手にするのではなく、たった一人だけを標的にすることを選んだ。
「しっ!」
まずガルーは自分の腹を殴った相手の少年目掛け、自分がこれまで鍛えた拳を相手の土手っ腹に向けて放った。
……それは取り返しのつかない一撃だった。
だがガルーの拳に怯えはなく、握りこんだ拳は相手の少年の腹に深々と突き刺さった。
「?」
最初は何をされたのかわからず、きょとんとした顔で固まった少年は直後に腹に訪れた鈍い痛みに膝を折った。
「ッ~~~~!!」
膝をついた少年がゴホゴホと咳き込む中、
「て、てめぇ!」
「なにしてやがる!!」
残りの二人の少年がガルーに襲いかかった。
最初、ガルーはほぼ一方的に殴られていた。
だが腹を殴られ、頭を蹴飛ばされようとも、手と足が動く限りガルーは最初の少年に向かって攻撃の手を出し続けた。
三発受ければ一発、五発受ければ一発と徐々に攻撃の手が出せなくなろうともガルーは受けたの痛みをその拳に握り込み、標的の少年一人に向けて振り下ろし続けた。
――それこそ幾度も幾度も。
鼻や目を中心に相手が最も恐怖を感じる場所に向かって拳を振り下ろした。
相手が地面に倒れれば、自分も倒れこむようにして相手の身体の上にのしかかった。
「くそ!!」
「てめぇいい加減にしろ!」
他の二人に髪をひっぱられ、頬を張られようとも、ガルーは土で汚れた自分の握りこぶしを相手の少年の鼻面に叩きこんだ。
「――――」
頑強さだけは人一番だったガルーは攻撃の手を緩める事はなかった。声も出さず、ただ無言で相手を殴り続けた。
「く、くそぉ!」
「お、おい、もう止めろよ」
他者をなぶる事しかしてこなった少年たちは怯えた。
こうしている間にもガルーの拳は倒れた少年の顔に向かって振るわれている。
最初にガルーを殴りつけた少年は泣きながら手で顔を覆い、必死にガルーの暴力から身を守ろうとしている。
だがガルーはその防御の上からでも拳を振るう。
ガルー自身、実は少年二人からの攻撃で体はボロボロだ。
しかしそれでもガルーは拳を振り上げ続ける。
「――――」
片目が腫れ、口中が鉄の味になろうともただ無言で拳を握り締める。
「や、やべえよ」
「あ、頭おかしいんじゃねえの」
下敷きになっている少年を助けようとガルーに攻撃していた他の少年二人は明らかに怖気づいていた。
「お、おれ、大人呼んでくる!」
「あっ、ま、まてよ! お、俺も行くよ!」
そして片方の少年が遂にはこの場から逃げるようにして人を呼びに行き、残された一人もそれについて行った。
「……ま、まって……」
ガルーの組み伏せられていた少年は仲間の少年たちが離れていくのを腫れ上がった目蓋の下から見ていた。
だが伸ばされた手は仲間の手に届くことはなかった。
「――――」
残された少年の目の前には自分と同等かそれ以上の傷を負ったガルー再び拳を振り上げていた。
「ひぃっ!」
ガルーは股下の少年の悲鳴を聞きながら、大人を呼びに行った少年二人が戻ってくるまでまた無言で殴り続けた。
――この暴力事件はこの後、一部の獣人たちの中で大きな問題となった。
何せ他所から来た人狼の子が良家の人狼の少年にトラウマが残りそうなほどの暴力行為を働いたのだ。
それが報復行為によるものだとしても、ガルーはあまりにもやり過ぎたし、相手が悪かった。
結果、ガルーに何かしらの罰を与える事が決定した。
特に他所から来た人狼のガルーを外の世界に追い出す声が多く上がり、王もその決定を無視できないようになってしまった。
――最終的に少年三人のガルーに対する不当な暴力行為などもあったために放逐は話は無くなり、王の温情によってガルーへの処罰は国外での一時的な修行という形で落ち着いた。