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――歳はおそらく二十歳前後。
背が高く、一見細身に見えるが太い首や肩回りから察するに身体はかなり鍛えこまれている。
男にしては珍しく髪を長く伸ばしており、目元は髪で隠れ、伸びた後ろ髪を背中のあたりで一つに纏めている。
長い髪の所為で顔立ちはやや不明瞭だが、時折髪の隙間から覗く瞳は極めて鋭かった。
この男の名前はガルー。
数週間前にセリアの屋敷に突如訪れた青年である。
そのガルーが先ほどのセリアの呼びかけに応えるようにして、ゆっくりと振り返った。
「…………」
髪で目元が隠れているがその無言の態度が『何の用だ?』と問いかけているようにセリアには感じられた。
(……まただ)
セリアはそんな男の態度に思わず顔を顰めた。
正直に言って、セリアはこのガルーという男が好きではない。
服装や髪についてもそうだが、この男は何に対しても無気力であり、まるで何かを諦めたかのような態度をとる。そしてそれにセリアは苛立ちを覚えてしまうのだ。
ただ今はそんな自身の感情よりもセリアには確かめたい事があった。
「……不躾で申し訳ないが、ここ何日か前に路地裏で女子学生を助けた覚えがあるだろうか?」
「?」
最初ガルーは何のことかと眉を顰めていたが、何か心当たりがあったらしく「……あぁ、あれか」と言葉を零した。
「……心当たりがあるようですね」
どうやらセリアの懸念していた通り、今学院で噂になっている凄腕の魔術師とは彼女の目の前にいるガルーの事であったらしい。
セリアは大きくため息を吐いてから尋ねた。
「その時に魔術を行使したと聞いていますが、本当ですか?」
「…………」
ガルーは無言の肯定。
それを見てセリアは頭が痛くなってきた。
魔術師の扱う魔術は殺傷能力が強すぎるため、自己防衛や緊急時以外に使う事を原則として禁止されている。もしも魔術師が無闇に魔術を行使した場合はその術師は厳罰に処される事になっている。
今回は暴漢から女子生徒を助けた事と相手に大怪我を負わさなかった事で処罰される可能性は低いだろうが、それでも軽率な行動だったという他にない。下手をすれば彼を客人として招いているセリア達にも迷惑がかかる事態になったかも知れないのだ。
それにセリアの目の前にいる人物ならば、魔術など使う事無く相手を無力化出来たはずだ。
何故ならこのガルーという青年は先日亡くなったセリアの大叔父から剣術の手ほどきを受けているのだ。
亡くなったセリアの大叔父は元は騎士として活躍した人物であり、退役後は何処かの村か街に隠居していたらしい。そしてその隠居生活の間に大叔父は何の気まぐれか、この目の前の男に剣術を仕込んでいたらしい。
その事をつい先日、その大叔父の遺骨を届けに現れたガルーから直接聞かされた。
死因は病死だったらしい。
高齢だった事もあり、大叔父には病に打ち勝つ力がもう残されていなかったという話だ。
恩師である大叔父には大変世話になったと話すガルーはその遺骨と幾つかの遺品をセリアの家族に届けるために遠い異国の地からこの王都まで旅をしてきたと語った。
大叔父の妹でありセリアの祖母であるメイアはそれを聞いて大変感動したらしく、ガルーをしばらくの間客人として歓迎することを決めた。
祖母の実子であり当主でもあるセリアの父は最初はその判断に難色を示していたが、ガルーが屋敷に滞在して数日後にはその考えを改めた。
――強いのだ。
それこそ騎士であるセリアの父を唸らせるほどに。




