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この世界には魔術と呼ばれる超常の力が存在するが、それを自在に扱える者たちはごくわずかである。
何故なら魔術と呼ばれる力は強力な反面、その習得は困難を極めるからである。
その為、正式に魔術師と名乗る事が許されるのはほんの一握りしかいない。
だがその力は絶大であり、軍事やあらゆる分野において彼らの力は重宝され、最高位の魔術師にでもなればどの国家であろうとも国賓並みの待遇が約束された。
魔術師という存在はそれだけ特別であり、どの時代であっても常に高い質と数が求められてきたのだ。
それは大陸最大国家であるルミエール王国であっても同様であった。
ルミエール王国――王都ミッドガルに存在する王立魔術学院。
将来の魔術師を育てるために作られた魔術師専門の学び舎であり、ここでは日々魔術師の見習いたちが勉学に励み、自身の才覚を磨き続けている。
その魔術師見習いの中にセリア=イブリードという名の貴族の娘がいる。
ルミエール貴族の特徴である金髪碧眼を持つセリアは貴族の中でも騎士の名家として名高いイブリード家の長女として生まれ、名家の令嬢として十分な教育を受けて育ってきた。
ただ騎士の名家の娘として育った影響か、その性格はやや融通が利かず、筋の通らない事が起きた場合などは相手が上級生や教員たちであろうとも一歩も引かない頑固な面がある。
またその性格から同年代の令嬢たちからは頼られることも多く、その長身と端正な顔立ちと相まって本人の人気はとても高い。
だが中にはそんな彼女の事を嫉み『生まれる家を間違えた』などと陰口を叩くものたちもいる。
これは騎士の家系にも関わらず、魔術師として学院に通うセリアを揶揄した言葉だ。
しかしこのような言葉を吐かれるのも、それだけセリアが優秀な証拠でもある。
そもそも魔術師は世界に満ちるマナと呼ばれるエネルギーに干渉し、マナを火や水などに変換させるわけなのだが、この時に必要な干渉力と変換力は人によって大きな差がある。
同時にこの二つの力がが凡人と魔術師とを分ける大きな違いでもある。
簡単に言えば干渉力とは術の威力であり、変換力は術の速さだ。
そして魔術師と呼ばれる者たちはこの二つの力が常人とは比べ物にならないほど強い。
そして後者に述べた変換力がセリアは生まれつき強く、並みの魔術師の倍の速さで魔術を発動させる事が出来た。
代々魔術師を多く輩出する魔術師の家系ではなく、鎧兜に包まれて戦う騎士の家系の中から生まれたセリアのその才能は突然変異とも言われ、これが災いして陰口の原因となっているのだ。
しかし幼い頃からこの才能を発現させていたセリアは本人の必死な努力の甲斐もあり、今では同年代の中でも頭一つ抜けた実力を身に着け、将来有望な魔術師として幾つもの士官先や見合い話まで持ちかけられているほどに有名となった。
――貴族の娘としても、そして魔術師としても成功の道を順調につき進んでいるセリアであったが、そんな彼女にも最近気がかりなことがあった。
「――凄腕の魔術師?」
それは最近学院内に広がる噂話の一つ。
事の起こりはつい先日――遅くまで校舎に残っていた女子生徒たちが早く家路に着こうと路地裏を使って近道をしようとした所、運悪く酔っぱらいの冒険者たちに絡まれたらしい。
学院に通う魔術師見習いとは言ってもまだ子供。荒くれものたちの凄みと数に完全に委縮してしまい、女子生徒たちは薄暗い路地裏の奥へと連れ込まれそうになったらしい。
――だが其処に見知らぬ男が助けに現れた。
助けられた女子生徒たちの証言によれば、とんでもない早撃ちの魔術で一瞬の内に冒険者たちを倒してしまったらしい。
常日頃から命のやり取りをしている冒険者たち相手に手も足も出させなかった男の技量に女子生徒たちは礼を言うのも忘れて唖然とし、男はそんな女子生徒たちを不安に思ったのか安全な通りまで親切に送り届け、何も言わずに街の何処かへ消えてしまったらしい。
後日、この話が学院の女子生徒を中心にして爆発的に広がったというわけである。
――この話を放課後の教室で親しい友人から聞かされたセリアは自身の感情を抑え込むのに苦労した。
その凄腕の魔術師という相手に関して、セリアに心当たりがあったからだ。
「……すまないが急に用事を思い出した。話の途中で悪いが今日はこれで失礼する」
「そうなの? なら続きはまた明日ね。ついでにもっと詳しい情報を仕入れておくわ」
「……あぁ、楽しみにしているよ」
嫌な予感を覚えたセリアは噂好きの友人に断りを入れると、すぐさま放課後の教室から自身の屋敷へと帰っていった。
――そして屋敷に戻ったセリアはすぐさま目的の人物が何処にいるのか屋敷のメイドに尋ねた。
「あの方は今、何処にいる?」
「あの方でしたら、今はメイア様と中庭でご歓談をされていますが……」
メイドによれば目的の人物は自分の祖母と一緒に茶でも飲んでいるはずだと言われ、中庭へと向かうセリア。
貴族の令嬢にあるまじき足音で屋敷の中を駆けると、そのまま中庭へと躍り出た。
そして、そこにの目的の人物が和やかな雰囲気で自身の祖母と和やかに会話を弾ませているのを見ると、これまた貴族の令嬢とは思えない無作法で相手の名を叫んだ。
「ガルー殿!! 少しよろしいか!!」




