#1【街の道化と外れの黒屋敷】
プロローグから続き、第一話です!
まだまだ拙い文になりますが、どうぞ。
逆さまの青空。
とたとたという足音が近づいたかと思えば、鮮やかな空の青を飛び散らせて、子供達がはしゃぎながら通り過ぎていった。
昨夜とは打って変わって、本日は快晴。
地面は泥濘んでいるものの、絶好のおでかけ日和だ。
街では商人がここぞとばかりに声を上げて店の宣伝をしている。そんな中、大通りの噴水前。老若男女問わずの人集りが出来ていた。
人集りの中心には、パステルな色合いの道化が、芸を披露していた。
真っ赤な玉を一つ、橙色の玉を一つ取り出すと、そのままくるくると、落とさないよう投げる。その動作を続けたまま、次から次へとたまを取り出し、7色虹色のお手玉となると人集りの一部から拍手が聞こえた。
拍手に礼をしようと玉をくるくるしたまま頭を下げると、玉の軌道がずれ、道化の頭へ降り注ぎ、笑いが起こる。
道化は笑みを浮かべたまま頭を上げると、玉を拾いに行く。やんちゃそうな男の子が、その一つを拾い上げ、道化へ向け投げ付けた。
放たれた玉は、何に邪魔されることもなく、道化の頭部へ直撃した。僅かながら悲鳴を上げた者がいた。
倒れるー…
と思いきや、倒れるように、背を反らし…手を地面へ付く。バランスを崩した状態で地面へしっかりと手をついた様は軟体動物のようだった。安堵のため息と拍手が起こる。
が、それも束の間、綺麗にブリッジが決まったと思いきや、手に集めた玉を持っていたのが災いし、手を滑らせそのまま頭を強打。
人々がざわつき、一人が様子見に近付こうとした瞬間、ぐんっ、と、腕のバネを使い、噴水の縁へ着地…と思われた。が、またしても、今度は濡れた縁で足を滑らせ、そのまま噴水に尻餅を付くように倒れた。
再び、人々が笑い出す。
ゆっくりと、道化は身体を起こして、各々へお辞儀をするのだった。
そのまま立ち去る者も居れば、彼へお金を渡す者も居た。
そうして次々と人々が去る中、一人の女性と、男の子が道化の前へ。
首を傾げる道化の目前、女性が男の子の頭を下げさせながら深く頭を下げた。
「先程は、すいません。家の息子が…ほら、ちゃんと謝りなさい。」
「…ごめんなさい。」
玉を拾って、投げつけた男の子と、その母親だった。
はっとして道化は口を開く。
「いえ、そんな。お気になさらずに。その子が玉を投げてくれなかったら、あの笑いはありませんでしたよ。寧ろ、僕は感謝しています。」
「しかし…。」
「おかあさん。良いんです。僕は道化。いくらハプニングがあろうが、笑いへ変えるのが道化です。」
笑顔で、己の口に人差し指を翳す。
「ー…そう、ですか…」
苦笑をして母親が笑った。
「…しかし、まぁ、頭は驚きましたよ。僕以外の、普通の人に同じ事をしないように、とだけ、言ってあげてくださいね?なぁんて。」
クスッと肩を震わせて、男の子を見やる。
男の子は気まずそうに視線を下へ向けてしまった。
「はい、それはしっかりと、言い聞かせておきます。」
「よろしくお願いしますね。」
親子は軽く頭を下げると、背を向けて帰路を辿った。途中、振り返っては再び軽く会釈をして行った。
道化はひらりと手を振り、礼を。
お客が渡してくれたお代を濡らさぬように、気を配りながら、人気のない道へと消えて行った。
街外れ。薄暗く、人気のない森の付近。
黒く大きな屋敷がある。不思議な威圧感の漂う屋敷だ。
森が暗いように、屋敷も暗く湿っている…のかと思いきや、微かに、楽しげな声が屋敷裏から聴こえてくる。
声の聞こえた場所は、薔薇やハーブ、ラベンダー等、色とりどりの花々が美しく並んでいる庭だった。
屋敷とは違い、純白のガゼボがほど良く庭に溶け込んでいた。
ガゼボ内では、黒艶のある長髪の青年が紅茶を嗜み、金髪の青年が手足を組み昼寝をしている。
花壇の脇では、その場に不釣り合いな中華のような服を着た男がはしゃぎながら蜻蛉を追っていた。
「…さて、そろそろかな。」
そう呟くとカップを置き、黒髪の青年は徐ろに立ち上がり、ゆっくりとした足取りで屋敷の中へと足を運んだ。
青年が屋敷内へ足を踏み入れるのと同時に、玄関の大扉が開かれた。
「ただい…うげ、」
帰りの挨拶を途中で止め、バツの悪そうな顔をした紫髪の青年―先程の道化である―が入ってきた。
その姿を見るなり、長髪の青年は…
「おっ…かえりー!ジョーカーーーー!」
道化めがけ駆け出し、ハグをした。
「ったく毎ッ回毎ッ回抱き着いてくんじゃねぇよ」
外での親子への態度とは一変し、苛ついた様子で長髪に肘打ちを食らわす。
長髪は頭をおさえながら離れ、半べそをかいている。
「うぅ〜…何だよ…悪いかよ…」
「悪いっつーかしつこい。んで気持ちわりぃ。」
「はうっ」
しつこいならまだしも、気持ち悪いと言われては傷つくのも無理はない。
片や落ち込んでいる中、道化は庭へと出ると、蜻蛉を追いかけている男へ手をひらりと振る。
「ん、ジョーカー帰ったアルネ!てことはブラックジャックは玄関にいるアルネ!」
そう言って蜻蛉を追うのを止め、長髪の青年の元へと歩いて行った。
紫髪の青年…ジョーカーと呼ばれた青年は、ガゼボ下の金髪の青年の元へ向かう。
片手を緩く上げ、何か言おうとして止まった。すると、何を思ったのか、寝ている背後へと音を立てないように回り、
「ただいま、ポーカーッ♡」
途端に金髪は肩を跳ねさせ、目を見開き振り向いた。そこにはジョーカーのニマニマと笑う顔。
「…ジョーカー…悪巫山戯は大概にしろ…」
目を擦り、欠伸をする金髪の青年、ポーカーは、半ば呆れ気味に言う。
「いやぁ、ごめんごめん。面白いもんだからさ…。それよりも晩飯作るからさ、手伝ってくれよ。」
くつくつと笑いながらポーカーの肩を叩く。
ポーカーは承知したように机へ手を置き立ち上がろうとする。が、膝から崩れ落ちてしまった。
「…?どうした?」
心配そうに顔を覗きこむジョーカー。
「足が…」
「足が?」
「足が痺れて立てん…」
無表情でジョーカーに告げるポーカー。
告げられるとたちまち笑い転げるジョーカー。ツボが極端に浅いようだ。
一頻り笑い終えると、ポーカーの腕を引きながら屋内へと歩いて行く。
玄関には未だ凹んで居る長髪、ブラックジャックがいた。傍らには中華男。
「黑莓、晩飯作るから、兄貴連れてきて。」
「了解アル!」
黑莓と呼ばれた中華男は、ブラックジャックの束ねられたポニーテールを引っ張る。
「いだいいだいいだい!」
悲鳴を上げると、黑莓は手を離した。
「早く晩飯作り手伝い行くアル!」
「わかってるよ…今行くって…」
とぼとぼとキッチンへ向かって歩み出す。
暫く歩くと階段のところからとたとたと小さな足音が聞こえて来た。
ゴスロリの服を着て、つぎはぎウサギのぬいぐるみを抱えた少女が、駆け足気味に階段を降りてきた。
「ね、ジャック、ジョーカ、かえって、来た?」
片言で問う少女に、笑顔を向け頷く。
顔を綻ばせた少女は、駆け足でジョーカーの元へと。
「ジョーカ、おかえり、なさい…」
「ん?おー、スペンディア!ただーいま!」
にっこり笑って、少女の頭を撫でる。
「今日は随分早いんだなァ。」
何処からか声が聞こえる。しかしその場には5人しか居ない。
「まァね。今日は衣装が濡れちゃったからさ。」
平然と答えるジョーカーの傍ら、スペンディアの腕の中。うさぎのぬいぐるみ。
「濡れたとかマヌケくせえこった。」
嘲るように言い放つ。
「仕方ないだろ、予定外のことがあったんだから。」
「予定外、ねぇ。」
「いい加減にしなさい、ヴィエラ。」
ぬいぐるみのヴィエラは、スペンディアに言われると黙った。
「あ、そうだ。ジョーカー、今日は何作るんだ?」
ブラックジャックが問うと、ジョーカーは足を止めた。
「…決めてなかった」
「へ?」
「決め忘れてた…」
「え、えぇ〜…」
作る、と言っていながら何も決めていなかったのである。
「と、とりあえずあるもので何とか作るさー…ハハハ。」
棒読みで言うとポーカーを置いて駆け足にキッチンへ行ってしまった。
「そんじゃ俺ら何を手伝えばいいんだよー!」
「そんとき指示出すから待てし!それより兄貴は庭のティーカップ持ってきて洗えし!」
などとワイワイ騒ぎながら皆キッチンへ向かうのであった。
暗くなり始めた外へ、一人、何者か近づいているとも知らずに…
拝読感謝いたします!
今回の話はほのぼの?な感じの回でした!この一家、今後どうなるんでしょうか…?
次話の更新をお待ちください!