とあるおっさん冒険者の配達稼業
私の名は「アウグスト」
見た目といえば、恰好が良いわけでもない。
年はそろそろ40が見え始めている頃合であるためか、中年太りが加速し、どこからどうみても肥満体型である。
エールとその油の食事が原因だと、医者によく言われたが、これは私にとって生きがいの一つであるためやめるわけには・・・いか・・いかない。
まぁ、幼少の頃からそういった食事が好きだったため、そのなんだ、吹き出物が出ていたとか、幼少の頃からお腹が出ていたなんてことは……
そういえば、村にいた時はオーガとオークとゴブリンとが合わさった顔とか罵られたなぁ・・・
閑話休題
仕事としては、日雇いに近い冒険者という職業についており、依頼があれば諸国を移動するなどする根なし草的に放浪していたりもする。
冒険者と言えば聞こえはいいだろう。
だが、私が主に行っている依頼といえば物を運ぶ依頼、つまり運び屋である。
良く言われる、やれ凶悪な魔物を討伐したや、街を護った英雄やら、そういう魔物を討伐したという自慢話を酒の席などで聞こえるものだが、私にとってみればそんな危ない橋を渡りたいという気概が理解できないでいる。
ヒトそれぞれ見合った物というのがある。
私にあったソレは、魔物討伐などではなく、ただただ依頼された物を依頼された日時を守り、依頼された相手へとただ届けるのみである。
今日もいつもの様に依頼をうける。
内容は商業ギルドから品物を受取り、隣街の商業ギルドのギルド長へ直接渡す事だ。
特に不思議な事はない。いつも通りのいつもの事である。
荷物を受取りに商業ギルドへと赴き、受付に
「すみません、宅配依頼を受けたギルドの物ですが…」
「うぇっ…、エ、アア、ハイ、シバラクオマチクダサイ」
受付の者がコチラの顔をみるなり、怪訝な視線を向けてながら受け答えをしてくる。
ええ、もう慣れています。いつも通りでなれています。
世間一般的にいえば醜い容姿してますから仕方ありません。
慣れている人でも急に現れるなと言われるくらいですから。
そうこうしているうちに、受付の人は蝋で封印された小箱を渡してくる。
「お、お待たせしました…こちらになります。」
「はい、確かにお預かりしました。確認ですが、期限は3日ですね?」
「え、ええ・・・3日内にかならず届けてください」
「わかりました、必ずお届けさせていただきます」
小箱を専用の収納箱にいれ背中に背負う。
3日以内に隣の街といっても、普通に乗合馬車でいけば2日かかる距離でもあるが、速い事にはこした事はないのが私の持論である。
今日もいつもの通り門を通り過ぎ、いつもの様に街道を…進まない。
進まない理由?
何故か解らないが自分が街道をあるけば野盗と勘違いされてこっちが襲われてしまうからだ。
毎回毎回こんな事がおきたら、時間が稼げるものも稼げない。
普通の旅人姿であっても、顔をみられた途端に物取りに間違われる事なんて何度もある。
時間を稼ぐならば人目に付かない方法が一番てっとり早いのである。
という事で、街道とは違う自分独自の道順というのが作ってある。
今回は隣町まで無休系でもいける森のルートというのがあり、これは10数年以上培ってきたといってもいい経験に基づくモノである。
私にとっての自慢できるとしたら、こういう独自のルートを開拓していった為に最初の頃は遅延で罰金もとられはしたが、今では少なくとも期限限界までというのが一番遅くなった時ぐらいである。
たまに魔物にも遭遇するが、とくに強い相手でもないので襲ってきた時以外は無視して走り抜ければなんとかなるものである。
さて、今回は3つほどの山越えが一番近い道順となる。
基本となる街道は、この山岳を避ける様に迂回する格好で整備されているために2日かかるのだ。
なら、まっすぐ山を越えていけばいいじゃないか。と、単純に考えて実行したまでである。
ふもとの森林地帯からは人気がまったくないので、気兼ねも気苦労も必要ない。
とにかく山を超えれば良いだけである。これほど楽な物はない。
颯爽と麓の森林地区を走り抜け、一つ目の山に差し掛かった時、魔物が上空から襲ってきた。
いつもなら、この近くでこんな魔物が出てくる訳がないはずなのだが、とりあえず襲ってきたのならば対処しなければしつこくおってくるのが魔物である。
こちらに大きな口を開けて襲ってきた際に少し腕で方向をそらせて地面へと誘導してやると、頭から地面へと突っ伏す状態になったと思ったら魔物はそれ以降動く事はなかった。
あんな魔物がこの付近に出てくるなんて、やっかいな問題である。
帰ったら街のギルドに報告でもしておくか。と、次の山に向かって走り出す。
自己新記録を目指そうと少しは思ったが、どうやらそういう訳にはいかない様である。
バツが着いたらとことん着くという事を聞いた事はあったが、まさか自分がその状況に陥るのかと思えた。
2つ目の山にさしかかろうとしていた時、眼下の開けた丘付近の頂上に、遠目からもわかるぐらいの大きさの魔物が鎮座していたのだ。
こんどはかなり大きめのヒツジ?やイノシシ?が合わさった様なものだった。
相手はこちらを見据えている様であったが、自分としては関わり合う気はサラサラない。
なので、丘の上が最短距離だとは解っていたが、しかたがないので迂回する方向へと切り替える。
切替えるのだが、その大きな魔物はこちらに向かって追っかけてくるのだ。
正直困惑した。今回は本当にバツが悪い、悪すぎる。
このままではまずいなぁと思ったので、少し本気で走る事にした。
今までは体力温存を考えていたので、多少はゆっくりと走っていたのだが、この際やむをえない。
少し本気で走り出すと、追っかけてきた魔物はだんだんと小さくなっていき、追いかけるのをやめたのか、とうとう見えなくなった。
見えなくなった時には、2つ目の山頂にまでとどいていたのだが、まぁこの際は気にする必要もないだろう。
2つめの山にさしかかる前に2回ほどこういう事がおきたのだ、これは確実に3つめの山でも何かがおきるだろう。
そう判断した私は3つめの山だけは登る事をやめ、街道とは真反対となる樹海の方から迂回してすすむことにした。
樹海――。
木々がうっそうと茂り、太陽の光がさしこんでこない。
たしか、この樹海は惑わせの樹海といわれていた記憶がある。
この樹海にはいれば方向感覚が狂わされてしまうとかなんとか、幻惑でもみせられるとかなんとか、いろんな逸話みたいな話がゴロゴロでてきてたのを、酒場で聞き耳を立てている時に聞いていた事がある。
実際に自分の足で入ってみて思ったが、なるほど、太陽の光が差し込まないだけで周囲が見づらいのが解ったが、ただそれだけだった。
そう、ただそれだけで何もおかしくもなく、普通に闊歩する事もできそうであった。
雰囲気的に寒気?の様な物も感じなくもないが、まぁ、これらはよくいう気概次第というものだろう。
ただ、視られているとかいう類の感触もあったが、いつもいつもそういう視線は感じているので、とうとう普通にしててもそういう錯覚を覚える様になったかと、ちょっと悲しくなったりはしたが、気落ちするといけないと思い、そのまま小走りに抜ける事にした。
とにかくこの樹海を抜ける事が先である。
樹海を抜け、ようやく3つめの山を越えた道へと出た事になる。
あとは、街に向かって走るだけだった。
その後はバツがついたのがウソの様に、普通に街の門番に身分証を提示して中に入る事ができた。
まぁ、門番からは身分証が偽証されていないかとしつこく調べられたが、そんな事はないと理解され通されたという事はあったが、いつもの事なので気にしては仕方が無いし彼らの職務でもある。逆に言えば職務に忠実であるという事であるのだから気にしてはいけない。
この街へも何度か足を運んではいるのに毎回違う門番にあうとかも不思議さもある。
とりあえずこの街での商業ギルドに入り、ギルド長への面会を希望する故を伝えたが、
「今、取込み中の為すべての面会はお断りさせていただいております」
の一点張りで門前払い状態になってしまった。
代わりに受取を行いますとも言われたが、依頼は直接手渡しという内容のため拒否をすると、怪訝な顔をされて余計に警戒された感じがした。
門前払いをうけ、途方にくれるもとにかく渡さなければ依頼達成にはならない。
たぶん、二階がギルド長がいる部屋だろうと推測し、二階の様子がうかがえる場所を周囲から確認する。
横手の建物の屋根上からなら、様子はみえそうだなと判断し、路地にはいって建物の上へと素早く上り詰めた。
登るとき、少し建物の外壁が傷ついてしまったが、見えない場所だし気が付かれない事を祈る。
屋根からギルド長のいる部屋を観察してみも、人の様なものはなかった。
どうやら不在?の様である。
仕方がないので、今日はとりあえずこのまましばらく待ってみる事にすると、こんどはギルドの前に何かしら豪勢な馬車が止まる。
お金持ちか何かだろうなといわれる馬車が入ってから、ギルド長の部屋にあわただしく人が何かを家探ししているのが見えた。
あんまりよくないだろう・・・この状況はと感じてはいるが、すくなくともあの馬車の持ち主がギルド長の場所を知っているのでは?という感じがするが、判断がつかなかったので、日も沈み始めたのでとりあえず今日の処は切り上げる事にする。
宿を取ろうとしたときにちょっとしたひと悶着があったが、それはいつもの事なので割合。
次の日にも商業ギルドへ赴いたが、やはり対応は先日と同じであった。
ので、先日のあの馬車が気になっていたので街中を探す事にし、ようやく見つかったのは夕刻にさしかかろうとしていた時であった。
見つけた場所は倉庫群と思わしき区画。その一区の倉庫だった。
みるからに怪しい。怪しすぎるので隠れ・・・る場所もなく普通に見つかってしまったが、
「交代要員か?」
という問いかけに「はい」と答えた後、矢継ぎ早に「この年でこの顔じゃ、まともな仕事にはつけませんからね・・・」と付け加えたら、顔をジロっとみられたとたん「違ぇねぇ」と盛大に笑われ、「がんばれよ!」と励まして立ち去って行った。
ちょっと複雑な心境に陥りかけたが、気にしない事が大事である。
気を取り直し、倉庫の中に入るとそこには大きな檻から小さな檻と多種多様の大きさの中に、多種多様の魔獣?らしき物が入っていた。
その檻のある中、一番奥に人と思われる人物が、また同じ様な檻に入っていた。
その人物がギルド長と言われる人物であった。
何故檻の中?という疑問もあったが、とりあえずは先に受領サインだなと、サインを貰おうとした矢先、
「そこのお前!何をしている!!」
と、声をする方をみると、獅子?山羊?みたいな頭がたくさんついている魔獣?と一緒にヒトが立っていた。
「そこの貴様!視ない顔だな…何をしていたと聞いている!!」
「御届け物の荷物を届けに来たのだが…」
「荷物?荷物といったか・・・そうか・・・それか・・・おい、それをこちらによこせ」
いきなり荷物をよこせといわれる。運び屋にとっては受領サインをもらうまでが仕事である。
それが私の持論である。なので解答はただ一つ。
「それは出来ない」
「そうか、ならお前がいなくなれば良いだけの事だ!」
と、魔獣に何やら指示を出したのか、こちらに向かって走り出してきた。
こちらとしては受領作業が滞っているので、邪魔されたくない。
なので、少し退いてもらおうと相手の顎を強めに叩いてみたら、魔獣?みたいなものはいきなり壁へと飛んでいき、ズゥンという音が鳴り響く。
飛んでいった先を見ると、血の池ができはじめており、たぶん、当たり所が悪かったんだろうな・・・これじゃ、死んじゃったか?と少し哀れんでしまった。
「はっ?」
「へっ?」
魔物をけしかけてきた男?とギルド長からは、変な声が漏れていたが、ここはあの魔獣に対して可哀想な感想じゃないのかと疑問に思えたが、相手の男が再び口を開く
「す、少しは・・・できる様じゃないか・・・コイツではどうだ」
と、奥の檻からなんか大きな牛?みたいなのが現れてこちらを睨み、再び迫ってきた。
が、いつもの様にあいての顔を払う様にどかすと、やはり壁へと飛んでいき低い衝撃音が鳴り響き、ふたたび動かなくなる大きな牛。
「「へっ・・・はっ・・・?」」
またしても二人からは、変な声が漏れているが、
ようやくこちらの方をみたが、これ以上邪魔をされるのは困る。
なので、
「いいから、邪魔をしないでくれ!!」
「は、はいっ!!」
と、釘を刺しておく。
そうこうしてギルド長と向き合ったが、ギルド長も何故かこちらをみて驚いていたが、荷物を取り出して受領サインをもらおうとしたとき、ギルド長から「助けてくれ」という言葉が紡がれた。
「私はあくまでも運び屋であり、こういう荒事を行ってはいません。」という趣旨を伝えてみたが、ギルド長は首を傾げたあと、「ならば、私をとある場所まで「運んで」くれないか?受領サインはそれから行う」という話が切り出された。
受領サインがもらえなければ依頼は達成されない。
それはかなり困るが、私としても運び屋としての矜持がある。
運んでくれという依頼がなされたのならば、運んでみせよう。という意地がある。
という事で、ギルド長の直接依頼をうけ、私は檻からギルド長を連れ出す。
連れ出す際に檻となっている場所をねじってみると、これまたあっさりと曲がってしまったので、これじゃさっきの魔獣?が簡単に出てこれる訳だと納得した。
さっきまでたっていた男だったが、みてみると尻もちをついて「ひっぃ」と言っていた、そりゃいつでも魔物?が出てくる状態は危なさすぎて背後からとか襲われたらたまったもんじゃないからな、ようやくそれに気づいたのだろう。
「檻になってる鉄棒が弱すぎて危ないぞ?もっと頑丈な物にするべきだぞ」
そう教えてあげ、背負ったギルド長の案内を元に運び先へと送るのであった。
送った先がとても豪華な屋敷だったりして、すこし驚きもしたが、とりあえず受領サインはもらえ、ギルド長を運んだ依頼達成として金20枚が渡されたが、あまりにも大きい金額にすこしビックリしたのは秘密である。
今日も今日で、先日終わった配達依頼の受領サインが書かれた書面をギルドへと提出し、銀貨10枚を手に入れる。
とりあえず、三日も何も食べてなかったなと思い、その銀貨10枚を握りしめ屋台街へと繰り出していった。
そう、まずはエールと屋台の揚げ物制覇だと。
<とある酒の席での噂話>
なぁ、知ってるか?
最近近くの森でドラゴンが出たってのを、しかもあれは翼竜とかじゃなくて災害級とか言われる奴だそうだ。
だが、この話に続きがあってだな、森を探索にきた冒険者のパーティーが見たものは、地面に突き刺さった先の「頭部が近くの茂みの中に転がっており、頭が無くなった首だけが地面にふかぶかと刺さっていた」ドラゴンの遺体だったそうだ。
不思議な光景だが、そのパーティの奴らはドラゴンの素材が手に入ってホックホクだったらしいぜ?
ほんと、俺もそんな幸運にあやかりたいね。
<とある討伐の報告>
我々が討伐対象としていた魔物、暴君とよばれる大山羊と遭遇した。
暴君は、その俊敏な動作で幾多の冒険者を返り討ちにし、特にその突進速度は誰も逃げきれないため、見つかったら死の覚悟を決めろ、など言われる程危険なモノであったのだが、我々が訪れた時にはその様な素振りは一切なく、とにかく動くのがつらいという印象であった。
攻撃を加えても反撃される事もなく、そのまま倒す事が出来たのが今でも信じられない。
たぶん、あれは病気か何かを患っていたのだろう、おかげで討伐依頼は完遂させる事ができたの我々は幸運だったな。
<とあるいたずら妖魔の愚痴>
信じられない、そいつが現れたからあたしたちはいつもの様に惑わしの魔法をかけてみたのよ、
なのにソイツったら、魔法の効果が表れないのよ。
何度も何度もかけてみても、ソイツは何知らぬ顔で森から出ていったのよ?信じられる?
久しぶりに人の血を味わえると思ったのに!あんな人間っているの?
<とある雇われ魔物使い>
あいつは化物だ…あいつは化物だ…あいつは化物だ…
でないと、ヒトなんかじゃない、ヒトじゃない、ヒトなんてありえない…
あいつは化物だ…あいつは化物だ…あいつは化物だ…
書き直し版(内容を一部変更と修正)をあげてみました。
それにともない、この投稿品は修正せずに残しておきます。