プロローグ
初めての小説なので、完結を目標にのんびり書いていきたいと思います。
ふと空を見上げる。
ゆったりと流れる雲はこの世界をあてもなく漂流する自分だろうか。あの青に飛び込めば、どこまでも吸い込んでいくに違いない。
大和は引き寄せられるような感覚に身を任せる。彼が寝転んでいる土手は、昔から変わらない自然のままだ。
麗らかな春の陽気に誘われて、モンシロチョウが風と共に舞っている。どこからともなく漂う桜の花びらは、手のひらに乗せると一瞬に飛び立っていってしまった。
「自分の将来か…」
漠然とした、鮮明なビジョンもない自分の未来は、どこからともなく現れては消えてゆく、あの雲のようではないか。
友人たちは就職や進学など、それぞれの方向性を決めていた。自分には何もなかったのがとても恥ずかしく、己の存在がちっぽけなことに思えた。
「俺のやりたいことって何だろうな。夢…」
大和は目を閉じて、深く息を吐いた。心地の良い風が頬を撫でる。頭の芯にツンと残るような独特な花の匂いがする。匂いは凛とした美しさを感じさせる、高貴で気高いものに思えた。
「ねえ、起きてよ」
幼馴染の栞だろうか。
まだ微睡もうとする頭を無理やり起こし、ぼんやりと目を開ける。
「早くしないと間に合わないよ!」
目の前には手のひらサイズの女の子が慌てた様子でこちらに向かって何かを言っている。
赤いローブを着ていて、なんだかおとぎ話に出てくる妖精みたいだ。
「お前、なんだ?人形…じゃないよな?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!早く手続き済ませてくれないと、定時で帰れないよ!」
妖精はバタバタといくつか書類をこちらへ投げつけてくる。
「なんなんだよ…?」
大和は混乱しつつも、妖精の気迫に負けて、近くに落ちている小さな用紙を手に取った。
「あ、それいいよ!オススメね。じゃあそれで進めとくから。ボーッとしてるけど、あなた大丈夫?…って、時間ないんだった!」
妖精はそう言うと、どこからともなく印鑑を取り出して大和が持つ用紙に版を押した。
パンッ!と、大きな音がして、光り輝いたと思ったら、辺りは夕方になっていた。
毎日17時になると、町には決まった音楽が鳴り響く。大和は辺りを見回すが、先ほどまでバタバタしていた妖精もこちらに投げつけられていた書類もすべて消えていた。
「…夢でも見てたのか?」
腑に落ちない思いでヨロヨロと立ち上がる。
辺りは静かだ。暖かかった土手も、いつの間にか肌寒い風が吹いている。
「帰るか…」
停めてあった自転車に乗り、大和は寂しい音楽を背に家へと向かった。