Knight and Vampire.
どうも、または始めまして。
内容が一変したことをお許しください。
不定期投稿ですがよろしくお願いいたします。
「きゅ、きゅうけつきだぁぁぁ!」
薄暗い路地に怯えた悲鳴が反響した。
それを叫んだ男の目の前には、口元から赤黒い液体を滴らせる1つの影があった。
滴る液体のような紅い瞳をたぎらせ、その影が男に気付き、振りかえる。
「く、来るなぁ…!頼む、殺さないでくれぇ…」
無様な泣き声が耳に届く。
だが影はいっこうに止まらない。それどころか、男めがけて走り出した。
「……グルル…。」
言葉もなく、狂気じみた笑みが影に張り付く。
ほどなくして、悲痛な断末魔が辺りに轟いた。
まるで身体中の水分を失ったような干からびた肢体が、力なく地に落ちた。
―――ピチャ。
紅い雫が乾いた路地に歪な円を作り上げる。
「ふはは…。」
不気味な笑みを漏らし、影は陰へと消えていく。
この事件を機に、吸血鬼の恐ろしさが世に飛び交った。
◆◇
血の生臭いにおいが漂う、薄暗い路地に黒革のブーツが踏み込んだ。
灰色の空からはなにかを悼むような、哀しみの涙のような雨を絶え間なく振り続けていた。
黒い衣類に身を包んだ男は、そんな雨に濡れることも異問わず、死体が発見された路地に急いでいる。
「どうだ?またか?」
現場についたとたんの第一声。
まるで同一の事が過去に起こったかのような口ぶりで男は先にいた青年に問いかけた。
「みたいですね。たぶん、また吸血鬼かと…。」
黒色の胸当てを着けた青年が振り返って男に告げた。
青年の言葉に男は苦虫を噛み潰したようにため息を溢す。
「ジェネスさん、最近あまり寝てないみたいですね。」
頭を手で押さえる男、ジェネスになにかを思ったのか、青年は苦笑で問いかけた。
場違いな話題だが、いまはそんな他愛もない話をするほか休む手立てはない。
連日繰り返された吸血鬼による人間への吸血が、彼らを駆り立てているのだ。
「寝る暇なんて微塵もねぇよ。はぁ…やるなら少し間を開けてほしいね…。」
ジェネスは不謹慎にもそんなことを呟いた。雨に濡れた黒髪がかきあげられる。
「お疲れ様です。…でもまぁ…また吸血鬼がでるなんてって感じですよ。」
「全くだ。」
憎々しげに呟くジェネスは、懐から銀色の懐中時計を取り出した。ローズクォーツやらルビーやらがあしらわれた彫刻の、朱雀の模様が厭に高価さを醸し出した。
「12時半…か。ネメア。あとは任せて飯食い行くぞ。」
ネメアと呼ばれた青年は、彼のその言葉に1も2もなく頷き、ジェネスの後を追いかけた。
ジェネスとネメアは肩を並べ、繁華街へ向かっている。
この国の繁華街には、レストランや食堂といったものが集っているため、ここに来れば大抵の料理が食べられてしまう。
しかし、ここには素材や食材といったものを販売している店はただ1つとしてない。
その代わり、繁華街とは別に、商店街があるのだ。
商店街には、武具店や、食材を扱う店を始め、小物店やらなにやらたくさんの種類の店舗が立ち並んでいる。
主婦や家政婦など家事を営む人たちはここで材料を調達するのだ。
そんな話をよそに、ジェネスとネメアは繁華街にある1つの大きなレストランに入っていった。
彼らの入っていったレストランは高級感に溢れている。いわゆる3つ星レストランと言うものだろう。
「ここでいいよな。」
「落ち着かないですけど、まぁ文句は言いません。」
ジェネスの言葉にネメアは頷く。
中に入ると即座に駆け寄るスタッフにジェネスはおもむろに懐から取り出した懐中時計を見せた。
スタッフはそれを見るや否や、かしこまった風に二人をVIPルームへと案内した。
騎士という肩書きを持つものはこの国でとても重宝される。
王族に敵わないまでも、それだけの権力をもつのだ。
ジェネスの場合は、それに加え、この国でたった4人しかいない四聖騎士という高官であるため尚更だ。
「ご注文がお決まりでしたらお呼びください。」
恭しく頭を下げるスタッフにありがとうと言葉をかけ、広めの空間にあしらわれた二人がけのテーブルに二人は座った。
「相変わらず肩書きにモノを言わせますね。」
苦笑気味にそう問いかけるネメアはメニューに目を落とした。
そこにかかれているものすべてが料理としては破格で、どれも絶品だということが見てとれる。
それに対しジェネスは、もう決めたのかメニューをテーブルの上に置き、ネメアへ視線を移している。
「こんな肩書きでも役に立つからな。使えるものは使う。それが俺の主義だ。」
「相変わらず傍若無人で。」
平然とそう答えるジェネスに相変わらずといった様子でそれを受け流すネメア。
彼は注文を決めた旨をジェネスに伝えると、ジェネスは手を叩いてスタッフをよんだ。
10秒もしないうちにスタッフが飛んできた。どうやら部屋のそとで待っていたらしい。全く律儀なやつだとネメアは感心してしまう。
ジェネスは手短に注文をすませると、スタッフが部屋をあとにしたのを見届け、話に戻った。
「傍若無人が俺の売りだからな。俺はどっかの見目麗しい方々と違って容姿的に突出してるわけでもない。」
「そんなことないですよ。ジェネスさんも十分に容姿端麗です。無駄に」
ジェネスはネメアの余計な一言を聞き流し、鼻で笑った。
ジェネスのいうどっかの誰かというのは二人いるのだ。
一人は目の前にいる若冠22才にして童顔なネメア・ソイホーン。そしてもう一人は彼と同じ四聖騎士の一人、シェイン・ラルフ・ローレンだ。
ちなみにジェネスのフルネームはイヴァンニ=ターラレン・ル・メフィア=ジェネスという長ったらしい名前で、通称としてジェネスと呼ばれている。
他愛もない話をしているうちに、料理が運ばれてきた。
どれもうまそうで、食欲をそそる。
ジェネスは置かれた料理をみると、衣類を汚さないようにと言う名目の為にある紙ナプキンを首にかけた。
ネメアもそれに倣う。
二人は、ナイフ、フォークを器用に使い、ステーキやサラダを食していく。
さすがは高官職につく二人で、なかなか上品に食べている。
ほどなくしてあらかた注文した料理を食べ終えた。そんな二人は、店を出るでもなく話を続ける。
「どうしたもんかね。吸血鬼なんてどーやって探せばいいのか検討もつかねぇよ」
脱力した調子でジェネスが項垂れる。ネメアも苦笑するしかなかった。
実際、吸血鬼、またはヴァンパイアは高位の魔族であり、神出鬼没なのだ。
今回のような事件を起こすのはヴァンパイアではなく、大抵はその眷属辺りがやったものだろうとジェネスを含む騎士団は検討をつけている。
「全くですね。魔力探査でも引っ掛からないかもしれないですからね。」
「次の犠牲を止める手立てもねぇんじゃ何が騎士だって話だよ…まったく。」
ジェネスは苦い顔で呟き、席を立つ。ネメアもそれに続いて席をたった。
店頭で金貨数枚をスタッフにわたし、彼らは店を後にした。
レストランを後にした二人は、重い足取りで事件解決を急ぐのだった。
♂♀
同時刻、鬱蒼と生い茂る木々の中にそびえるように立つ城の内部で、初老の男が一人、卑しく微笑んだ。
男の前には、赤い瞳をたぎらせる吸血鬼の眷族が恭しく頭を垂れていた。
「我が眷族よ。よくやった。」
男が高飛車にそういう。それに対し、眷族たちは頭を下げるだけであった。
機嫌の良さそうな男は、眷族を残し、奥の部屋へと入っていく。
古びた木造の部屋にはたくさんの本が積み重ねられていた。
その書斎らしき部屋の机の上に、行儀悪くも腰掛け足を組んだ、20代前半らしき男が本に目を落としている。
「イヴの狗め、貴様、なぜここにいる。」
先程の上機嫌も一転し、怒りを露にしたおとこが、その青年に問い掛けた。
「ん?あぁ、ヴラド候。遅かったな。」
落としていた視線を、ヴラドと呼ばれた男に向けた青年は、、その形のいい唇の端をつり上げた。
美しい容貌は女王譲りか、美しい容貌の青年がヴラドの声に反応した。
「いや、大それた用事ではないんだが、最近貴方の眷族が人間を襲っているときいてな。真偽を確かめに来た。…まぁ、広間から聞こえた話からすればどうやら本当らしいな。」
呼称に敬称はあるものの、話術に全くといって敬いのない青年は、先程の笑みとはうってかわった、不敵な笑みを浮かべる。
「それがどうした。昔の騎士だった血が騒ぐか?え?マクベス・セフィアン。」
「フルネームで呼ぶくらいならエヴァンスとでも呼べばいいものを、相変わらず傲慢だな。」
そういったマクベスは、静かに机から降りた。
一瞬の静寂のなか、パタン。とマクベスの手にある本が閉じられた。
「まぁ、別に俺はもう人間じゃないからどうでもいいが、イヴが黙っちゃいないそうだ。」
それだけ伝えに来た。とマクベスはいい、調子に乗るなと付け加えるかのごとく笑い、消えていく。
彼のいた場所にはその形跡すら伺えない。パス、とマクベスの持っていた本が床に落ちる。
「ちっ…女王も耳が早い。」
ヴラドはそう悪態をつくと、革張りの椅子に腰を下ろし、暗くなり掛けた空を仰いだ。
視界が一気に色を変える。暗い書架のなかにいた青年、マクベスはその姿を城の外に表した。
マクベスは城を一瞥し、遠ざかろうと前を向いた。だが、件のヴラド候はただで帰してはくれないらしい。
左右の茂みから、マクベスを挟むように2体の眷族が姿を見せる。
「邪魔だな。帰れないじゃないか。」
そう呟いた頃には時すでに遅し、左の眷族に肉薄するマクベスは、手刀を形どった手腕で眷族の腕を苦もなく切断した。舞う鮮血が美しく朱を咲かせる。
「ごがぁぁぁ!?」
一瞬の出来事に理解の及ばない眷族は、腕を押さえて後退しようとする。しかしマクベスはそれさえ許さなかった。
唖然とする右の眷族が、やっとのことで走り出した。しかしその頃には、片方の眷族は胸を貫かれ絶命している。
本来の吸血鬼ならばその程度で絶命することはまず無いが、眷族は不完全なせいで胸を貫かれて死ぬ。
数分後、その場に立っているのは右腕を鮮血に染め上げたマクベスただ一人だった。
毒々しい赤色を垂れ流す2つの死体を尻目に、マクベスはその場を後にした。
読んでいただいてありがとうございます。
どうだったでしょうか。
まぁ、自分なりに直さなきゃとおもうところは多々ありましたが…(つд;*)
これからもできたのならよろしくお願いいたしますm(__)m