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多元界世界

裏・落としたものは拾いましょう

作者: 羽崎さやり

「こちら」の決まりで、《セ》の界にこちらの影響を及ぼすことは厳に禁じられている。

この禁を侵すものを罰するのも、《セ》の界の「運命神(ラ・セルラ)」である光主の仕事のひとつ。


……つまり、今回のからくりに気づけば、光主(ヤツ)は必ずこの私のところに来ると、そういうわけだ。

だいたいにして、現世にたった独りきりという非常に珍しい稀少(レア)種族だというだけで、実力もないのに上位神がたにちやほやしていただいて、あの成り上がりは不相応にも、自分に実力があると勘違いして思いあがっているのだ。そしてあの成り上がりはずる賢いから、上位神がたに媚を売って、実力不足をごまかしているのだろう。

ならば私が、あんな成り上がりなどに惑わされてしまっている上位神がたの目を、醒ましてさしあげればよい。この私が本気を出せば、あんな成り上がりごときに実力で負けるわけがないのだから。

…そう思って、今まで何度も機会をうかがっているが、相手がずる賢いせいなのか、なかなかうまくヤツの無能ぶりを露呈させることはできていないのが現状なのだが。


現在の私の地位は、成り上がり(光主)の管轄する《界》のひとつの執政官であり、非常に腹立たしいが、ヤツの部下、という位置づけになっている。

そのため、ここの《界》になにか問題が起こり、かつ、それが執政官である私の職域を越えれば、上司であるヤツは、それに対処しなければならない。

そこを利用して、今回私は、予定していた実験を「たまたまうっかり」申請し忘れ、ついでに「運悪く」失敗して発生してしまった次元壁の亀裂が、「偶然にも」《セ》の界の生物を巻き込んでしまう、という「事故」を起こした。

次元をまたぐ問題は、いち執政官の職域を越える。

だから、狙いどおりに光主が来る、と思いきや、予想ははずれ、来たのは光主の直属、「七使徒」と呼ばれる側近のうちのひとりだった。

拍子抜けだ。問題の対処に手間取る姿を見て嘲笑ってやり、かつ、私自身が華麗に問題に対処して、格の違いを見せつけてやろうと思っていたというのに。

しかし、それとなく聞いてみれば、どうやら私が「事故」に巻き込んだ生物が、光主の直轄領リラトゥン・リラーティスに落ちたらしいとわかって、これは私が意図したよりも事態はむずかしくなってくれているらしい、とほくそ笑む。ざまをみろ、だ。

この《界》に来た側近も直轄領の騒動のほうが気になるらしく、次元壁を修復して私に事情聴取をしたあと、三ヶ月の減俸を言い渡してから、いそいそと光主のもとへ帰っていった。

減俸は地味に痛いが…、光主ヤツの無能ぶりをやっと暴いてやれるかと思えば、このくらいは軽い代償だと言えるだろう。



そんなことを考えていた三日後、だったか。

部屋で執務中、急にあたりが騒がしくなった。


「?何事だ、騒がしい」


不審に思い、事情を聞くためメイドを呼ぼうと、卓上のベルに手を伸ばしたときだった。

「お邪魔するよ」の声と同時に、ノックもなしに勢いよく扉を開けはなって、光主が姿をあらわしたのは。


「なっ…!」


さすがに驚きで言葉が出ないまま、窓からの陽の光を浴びてきらきらと輝く翠銀(エレイア・アルセーラ)の髪にふちどられた、やたらと涼しげな顔を凝視する。

すると、明らかに視線を意識したわざとらしい流し目をこちらへよこしたあと、ゆっくりと、光主は見せつけるようにくちびるの端を吊り上げて、にやり、と口元だけの笑みを浮かべた。

不本意にも、どきり、と跳ねた鼓動を無理やり押さえつけて、平静を取り繕う。


「…これはこれは。いったい何事でしょうかね?」


「何事か、って?」


くすり。光主がちいさく笑い声をもらす。


「来てほしかったんでしょう?わたし(・・・)に」


言いながらゆっくりと髪をかきあげる仕草から、なぜか目をそらせないものを感じて、凝視し続けてしまう。

光主がゆるく目をほそめた。


「そろそろ面倒くさくなってきちゃってね、いちいちつきあってあげるのも。だから、直接来たのよ」


───格の違いを教えにね。


その瞬間、空気が変わった。

光主の珊瑚色のくちびるが、ゆっくりと、一音、一音、私の隠していた真名を紡ぎだすさまを、そして、同時に、魂ごと押しつぶされそうなほど圧倒的なちからが、自分、というちっぽけな存在をねじ伏せていくのを、まるで冗談のような心持ちで見つめたまま、

私の意識は、ぷっつりと途切れた。






○◇ ○○○ ◇ ○○○ ◇○

「そういえば最近、例の執政官がおとなしいですね」


ある昼下がりの執務の合間の休憩時間、光主にお茶を出しながら、ラエリは気になっていたことを尋ねてみた。


「うん、まあ」


出された茶を飲みながら、のんびりと光主は笑う。


「いい加減ちょっとウザかったから、執政官(あいつ)の真名を詠んで、魂ごと支配しちゃった☆」


てへ、とちいさく舌を出しながら返された答えに「そうでしたか」と頷きつつ、ラエリは、はずれた予想と今回の結果と、はたしてどちらが件の執政官本人にとっては幸せだったのか、少しだけ悩んだ。

結局、R15指定になりそうな部分はまるっと削りました。

というか、ラエリの予想していたほうの「結果」がR15だったんですけどね…。

はじめはそっちの内容が「おしおき」になる予定だったんですが、あんまりエグかったので書いてる本人が気分わるくなって変更。この「おしおき」になりました。


ちなみに、光主のやった「真名を詠んで支配しちゃった」というのは、…まあ、一種の隷属魔法のようなモノ、ですね。魂ごとねじ伏せて相手のすべてを支配する力技だったりするので…、もしかしたらラエリの予想どおりに、さくっと虐s…あばばば。まあ、ラエリの予想が当たっていた場合と、どっちがマシだったかは微妙なところかなと。


ではε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘

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